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筋肉が往くVRMMO  作者: 多摩季 熊
第一章:幕開
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10.帰還

 




 時刻は現在18時。ゲーム内はちょうど夜が明けた頃だ。



 ブラックウルフ君を担いで街まで戻る途中、空腹に耐え切れずオオツノウサギ君の肉を焼いて食べることにした。

 非常に美味だったよ。噛みごたえがあり、程よく脂がのった肉が私の筋肉の疲れを癒してくれた。



 ……む?火はどうしたのかって?


 筋肉パワーで何とかしたさ。はっはっは。



 食事を終えて元気になった私は、全身発光させながらビッグコッコ君とツノウサギ君を3羽ずつ狩った。おかげで帰るのが随分と遅れてしまったが、スキルレベルも上がったし、楽しかったのでよしとしよう。



 そして私は今、街の外で立ち往生をしている。門番の男が街の中に入れてくれないのだ。

 ちなみにこの男、街を出た時に居た、引き締まった良い筋肉をしているあの門番君である。




「そんな大きなモンスターを担いだまま街に入られたら困ります!!ってか何でそんな重い物を担いで来れたんですか!?黒狼(こくろう)の生息域は、ここから東に徒歩30分以上もある場所ですよ!?」



「はっはっは。私の筋肉にかかればこの程度、大した重さではないさ。あと2匹くらいは余裕で持てるよ」




 というよりこの狼、黒狼という名前だったんだね。うむ、覚えたぞ。



「だから!!そんなことを言ってるのではなくてですね!!冒険者なら『剥ぎ取り』スキルくらい持ってるでしょう!?それ使って、その黒狼を素材にしてから街の中に入れてください!!」



 門番君との会話で分かったことだが、私のように街の外に出てモンスターを討伐している者を、『冒険者』と呼ぶらしい。私が着ているこのマントが『冒険者のマント』という名前なのも納得だね。



 あと……何?スキルでモンスターを捌けるのか?



 疑問に思い、『解体』スキルを発動させて黒狼君を見る。ぱっと見ではよく分からなかったが、よくよく見ると青い線のようなものが黒狼君の体に浮かんでいた。



 ……ふむ。この線の通りに剥ぎ取りナイフで切れば良いのかね?



 早速、線の通りに黒狼君を捌いていく。血抜きだけは済ませてあるから、血が飛び散るようなことはない。

 門番君が隣で「ここで解体しないでください!!ねぇ!?頼みますから!!」とか言っているが、今は手が離せないのだ。すまない、門番君。



 3分ほどで解体を終え、黒狼の毛皮と肉をメニューにしまえば作業は終了だ。




「門番君、迷惑をかけてすまなかったね。また来るよ」



 門番君に謝り、私はギルドに向かって歩き始めた。




「ぜえ……ゼェ……早く交代したい……」




 門番君の虚しい呟きは、誰にも届かなかった。






◇◇◇






 ギルドに入って美人の受付嬢……の隣のカウンターで受付をしている、強面で見事な筋肉の男性職員に話しかける。

 他の受付には列ができているのに、何故か彼のところには人が居ないからね。




「依頼の達成を報告したい」




 強面の男性職員……長いね、強面君としようか。その強面君は私を一瞥した後、どこからか分厚い本を取り出してページをめくり始める。



「えーと……ビッグコッコとツノウサギとゴブリンの討伐か。討伐証明部位を提示してくれ」



 ギルドは、討伐したモンスターの素材の一部を確認ことで、依頼が達成されたかどうかを判断するらしい。

 ビッグコッコ君なら鶏冠(トサカ)、ツノウサギ君なら角、ゴブリンとやらは両耳だとか。

 というより、その本に私が依頼を受けた記録が載ってるんだね。受けた依頼について説明しなくてはならないのかと思ったが、一安心だ。



 今回、私はツノウサギ君の討伐しか達成していないので、ツノウサギ君の角を3本取り出して強面君に見せる。



「確かに確認した。報酬の900ゴルドだ、受け取ってくれ」



 100ゴルド銅貨を9枚受け取る。これで、依頼は完了だ。



「すまないね。残りの依頼も近いうちに片付けておくよ」



「ああ……だが、無理はするなよ。あんたなら東の草原くらい平気だろうが……働き通しは良くないからな」



「うむ、忠告ありがとう。そうだね……少し寝てくるとするよ」



 食事をしたことでも分かると思うが、ゲーム内でも現実のように栄養や休息は必要だ。

 栄養を摂らなければ状態異常の『飢餓』になるし、休息を取らなければ精神的に疲労する。休息といっても、実際に睡眠をとる必要はないがね。音楽を聴いたり、友人と会話したり……とにかく、リラックスできる時間が必要だということだ。



 それでも、私にとって休息とは睡眠のことだね。疲れを取るためには寝ることが一番なのだよ。睡眠を取るために、私はギルドを後にした。






◇◇◇






「……で、何でここに来るんですかね」



「はっはっは。宿屋に泊まろうと思ったが、お金が無くてね。静かにしてるから、1時間くらいで起こしてくれないか?」




 門番君にそう告げて、街の外壁に背中を預けて目を閉じる。途端に襲い来る眠気に、意外にも疲れていたのだなと思いながら、私は眠りに落ちた。




「いや、嫌です……ってえええ!?もう寝てるんですかっ!?というか、立ったまま!?!?」




 門番君の心からの叫びも、誰にも届かなかった。






【剛天さんの特技その1】

・立ったまま寝られる。

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