9.夜の狩猟
あの後、オオツノウサギより一回りほど小さいウサギたちに遭遇したが、狩ることはできなかった。
日が完全に落ちてしまい、辺りが暗くなったからだ。月明かりもあることにはあるが、それだけではどうにも厳しい。
何か、もっと明るい光源でもあれば良いのだが。
【肉体美スキルのレベルが上がりました】
と、様々なポージングをしながら考えていたらスキルのレベルが上がった。これは嬉しい誤算だ。
……む?スキル?……そうか、その手があったか!
心の中で念じて、とあるスキルを発動させる。すると私の周囲が明るくなり、半径5メートル程度ならば昼間同様に見通せるようになった。
光源が無いなら自分が光源になれば良いだけではないか。私としたことが、自分が持っていた『発光』のスキルすら忘れてしまうとは情けない。筋肉だけでなく、記憶力も鍛えないとね。
さて、これで心置きなく戦闘ができる。
そう思っていたのだが、現実は甘くないらしい。そもそも敵が近づいてこないのだ。たとえモンスターであろうとも、発光する人間を見たら不気味に思うのかね。
というわけで一旦スキルを解除し、月明かりを頼りに獲物を探す。
歩くこと5分ほど、大きな鶏……あれはビッグコッコ君だね。そのシルエットを発見した。
さっそく『発光』。ビッグコッコ君は突然の光に驚き、鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしている。
鶏だけどね。はっはっは。
つまらない冗談を考えている間にビッグコッコ君に近づき、首を折る。
【ビッグコッコを討伐しました 1/5】
『発光』を解除。
よし、まずは1匹だね。さて、とりあえず解体をして……。
と思い、地面で痙攣するビッグコッコ君に手を伸ばしたその時、何かが私の前を通り過ぎ、ビッグコッコ君の死体を掻っ攫っていった。
……何奴!!
即座に『発光』を発動。全力でそいつを追いかける。
ふっふっふ。君がどんなに速くとも、ビッグコッコ君を運びながらでは私の筋肉が生み出すスピードには敵うまい。
みるみる距離が縮まっていき、黒い影にしか見えなかったそいつの全体が鮮明に見えてきた。
夜闇に同化するような漆黒の毛皮。体長はオオツノウサギと同等か、それ以上。ビッグコッコ君を咥えながら四つ脚で駆ける盗っ人の正体は、なんと巨大な狼だった。
逃げ切れないと悟った狼ーー暫定ブラックウルフ君としようかーーは、突然ビッグコッコ君を放り捨てて反転し、飛びかかってきた。
大きく口を開き、私を噛み殺さんとするブラックウルフ君めがけ、私は走る勢いをそのままに右腕を突き出す。
すると右腕が赤い光を纏い、普段以上の力を宿した一撃がヤツの鼻っ面に命中する。
バキバキボキグシャッ、と骨が折れるような音とともに、私の右腕は上顎ごとヤツの顔面にめり込んだ。
空中で縦に三回転ほどしながら、あり得ない勢いで吹き飛ぶブラックウルフ君。5メートルほど先の地面に頭から墜落し、そのまま動かなくなった。
【体術スキルのレベルがアップしました】
いくら私の筋肉といえども、体重20キロはあろうブラックウルフ君をここまで吹き飛ばすことはできない。走る勢いに私の筋肉による一撃を最大出力で載せ、その上に体術用アーツ『渾撃』を発動させたのだ。
『渾撃』は文字通り、渾身の一撃を相手に叩きこむアーツだ。……うむ、少しやり過ぎたね。反省せねば。
さてと、狼か……こいつばかりは流石の私でも捌いた経験がない。そのまま持って帰るか。
腹も減ってきたし、一旦街に戻るとしようかね。
顔面が陥没したブラックウルフ君を肩に担ぎ、もと来た道を引き返した。
街に帰るまでに夜が明けてしまったが、問題はない。
え?剛天さんが迷子になるわけないだろ?(震え声)仮に迷ったとしても、辺りが真っ暗だったら仕方ないよね。