表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

後編

憎い憎い憎い憎い!あの女が憎い!憎くて憎くて堪らない!


「っーー!」


這いつくばり、血反吐を吐きながらルナは軽やかに歌いながら去っていくケイナを見ていた。その目はもう壊れきった人形のようだった。ルナの目には他の何も映らない、ただ、花のほころぶような可憐で儚い笑顔を浮かべ歌うケイナしか映らない。

その笑顔を壊したい、その笑顔を絶望に塗り替えてやる!

もうルナの声はなくなった。生きている価値が見いだせない、死んでしまおう、ただその前にあの女を消すのが先である。

待ってて、もうすぐ殺してあげるから。



街はにわかにざわついていた。消えてしまった歌姫がまた戻ってきたのだ、今度は自由になった足を持って。その歌姫の再来に皆喜んでいた。

三日月が上る空の日、ケイナだけのステージが街の一角に用意された。

綺麗な純白のドレスに身を包み、薄く化粧をしたケイナを見て皆が感嘆を漏らした。


「皆様、今日は楽しんでいってくださいね。久しぶりだからうまく歌えるかわからないけれど……」


一曲目は有名な童謡、キラキラ星を歌った。今宵は星もケイナの復帰を祝福してくれている、そんな気がした。気分が最高にいい、こんなに思いっきり歌える日がもう一度来るなんて夢見たいだ。

一曲歌い終えた後お辞儀をし、前を向くとぞっとするような怖い目で見られていた事に気がつく。

最前列にいる異様な客

裂けたように笑う口、見開かれた目、つめで掻き毟って血が滲んでいる、その手に持っているのは鈍く輝く、ナイフーー


「ひっ!」


ルナだ!

ルナはナイフを持ってステージに上がってくる、ケイナは恐怖で身がすくみ動けない。まるで蛇に睨まれたカエルのように。


「いや、来ないで!」


張り付いた笑顔のままルナは銀色のナイフをケイナの胸に勢いよく突き刺した。


「あっ、あああ!」


痛い!声を消された時の何倍もの痛さがケイナを襲う。

なおも笑いながらケイナが息絶えてもナイフを突き刺していた。観客も腰を抜かしたもの、逃げ惑う者いろいろだったが誰もケイナを助けようとはしなかった。


まだ生きたかった。歌いたかった。まだまだこれからだったのにーー

満天の星空と淡く輝く三日月に見守られてケイナは生涯を終えた。



誰もいなくなったステージに立つルナは満足げに笑い、首に勢いよくナイフを突き刺した。血が宙を舞いルナの白い肌に付着した。

満足だ、これなら死んでも悔いはない。

でも、でも、最後に一度だけ歌いたかったな。

客のためだけでも、伯爵のためだけでもなく、自分のためにーー



その後、ルナとケイナは悪魔の歌姫と天使の歌姫と語り継がれることとなる。


「……うまくいかないもんだねぇ」


どこかでそんな老女のつぶやきが聞こえた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ