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Lie

作者: 東 葵

  四月一日(雨)


 私には、住む場所があって、仕事があって、彼が居て、少ないけど貯金もあって・・・

とても、平凡な人生を歩んでいると思う。

が、本当に、私の人生を歩いているのだろうか・・・


私が歩いている道は、幸せへと続いているのだろうか


不安でたまらなくなる。


そもそも、私の歩いている道とは、何なのか。


いばらの道?


舗装されている道?


もしくは、道ですらない・・


では、どこを歩いている?


そんなことが、頭を巡る・・・何日も、何日も・・・


 頭がいっぱいになって、気が狂いそうになると、私には、毎日することがある。


部屋の明かりを消して、ローソクを鏡の前に置き、明日の自分に向けて、手紙を書く。


日記のように、書き綴るのではなく、書き終えると、封筒に入れ、切手を張り、ポストへと投函する。


手紙には、その時々の気持ちが詰まっていて、過去の自分を振り返るのに向いているから・・・


 だが、最近は自分に届く手紙を見ていない。

手紙の内容を知ってしまっているから・・・と、言うのもあるが、かろうじ保っている今の自分が崩れてしまいそうで怖いから・・・


手紙には、今、思っていること、嫌だと思ったこと、何年後かには、こうなっていたいと思っていたことが記されている


でも、何も変わっていない自分を認めるのが怖くて、テーブルの上に山積みになっている。


それでも私は、明日の自分へと手紙を書く・・・

例え、どんな思いだとしても、それを、未来へと繋げて行く為に・・・


~親愛なる私へ~


四月一日


今日は、あいにくの雨


外は暗く、視界も悪い


まるで、私の心を映しているかのように・・・


今、私が考えられる幸せってなんだろう


幸せって何?未来の私は、どう思ってる?


このまま平穏に暮らし、何年後かに彼と結婚して、何人かの子供たちに囲まれて、年老いて行くこと?


それとも、今の自分を壊して、新しい自分に変わり、今までずっと我慢してきた事をやってみること?


それとも・・・・

 それとも・・・・


ピピピ・・ピピピ・・・


また、目覚ましが鳴る・・


もう、朝なんだ・・・


また、手紙を書きながら寝てしまったようだ


ローソクは、燃え尽きているが、手紙は書き終え、封筒に入れ、切手も貼ってある


いつもそう


手紙を書いていると、いつの間にか寝てしまい、途中までしか覚えていない


こんな日常にも慣れてきた。


ザー・・・


外は、雨が降っているようだ


急いで支度を整え、手紙を持って家を出る


いつものポストに手紙を入れ


いつもの電車に乗り


いつもの駅で降りて


いつもの会社に向かう


いつもの業務をこなし


いつものようにただ、時間が過ぎるのを待って


いつもと同じ電車に乗って家路につく・・・


いつも・・・


そう、いつも・・・いつも・・・いつも・・・いつも・・・いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、

 いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、

いつも、いつも、いつも、いつも、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいっつも!


ハァ・・ハァ・・・


また気分が悪くなってきた・・・


急いで家に帰り、私宛の手紙をポストからとりだし、部屋に入って、テーブルの上に手紙を積む。


そう、ここでも、いつもと同じ動作が繰り返されるはずが、今日は、ひとつだけ違った


何気なく目に入った手紙の消印は、四月一日・・・


・・・・あれ?


四月一日に書いて、出したのが四月二日・・・


だったら、消印は、四月二日のはずでは・・・?


 封筒を手に取り確かめてみる


やはり、消印は、四月一日・・・


私は、久しぶりに封筒を開け、中を見てみた・・・・・


確かに、昨日書いた覚えのある文章・・・


いつもと、なんら変わりはない・・・


そう、いつもと同じ・・・


・・・・・・いつも!!


急いでほかの封筒に目を向ける


すると、消印は全て四月一日!


その封筒の山は、一度開けてあるかのように見える・・・


私は、焦って、ほかの封筒の中身も確認した


・・・同じ


私が、書いている内容は、全て同じ


な、何これ・・・今日は、何月何日?


いったい、どうなっているの?


・・・私は・・・私は・・・


だ、駄目だ、これ以上考えると、頭がおかしくなりそう


・・・どうしよう


あっ!そうだ、ローソクに火を灯し、鏡の前に座り、手紙を書こう


今、私に起こっている事を少しでも、明確に。


・・・違う!明確に書くと、また、頭がおかしくなってしまうから、出来るだけ普通に・・・


そう、いつもと同じように・・・


 ~親愛なる私へ~


 四月一日


今日は、あいにくの雨


外は暗く、視界も悪い


まるで、私の心を映しているかのよう・・・



~Lie~ 完








 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました


この作品は、ショートストーリーのミステリーとのリクエストだったのですが、そもそも、ミステリーになっているのかすらあやしいです><


さて、今回は、何もかもが嫌になり、ただ、毎日から逃げ出すように生きていたころの自分を思い返して書いたものです


本作に出てくる{手紙}には、依存しているものを表しました


酒、金、恋人、遊び、薬、何でもそうですが、自分がそこに逃げているものです


日常をただ嘆き、文句ばかり言っていたあの頃


そこには、何も生まれず、ただ漠然と繰り返される毎日がありました


この作品を通して、心当たりのある方は、自分を見直してみる機会にして頂けたら幸いに思います。


今を、精一杯、生きてくださいね。

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