プロローグ
幼い頃から、三好今日子は、ちょっと変わった少女だった。
小学校でも休み時間は級友たちの中には交らず、1人で飼育小屋のウサギやニワトリと遊んだり、ダンゴ虫やらミミズやらありの行列やらを観察していた。
そんな風変りなところが災いして、小学校時代は典型的ないじめられっ子だった。おかげですっかり引っ込み思案な性格が身についてしまい、中学校でも高校でも、“ちょっと変わったおとなしい子”というのが周囲からの評価だった。
そんな今日子の唯一の友達は、ゴールデンレトリバーのゴンだった。ゴンは今日子が幼稚園の頃からの大親友で、朝夕二回の散歩は勿論、ご飯もブラッシングもシャワーも、みんな今日子が世話していた。ゴンがいたからこそ、今日子はなんとか小中高と乗り切ってきた。
そんな今日子が進路を決めるにあたって獣医科大学を選んだのは、自然の流れかもしれない。
しかし、皮肉な事に、第一志望の大学からの合格通知が届いたその日に、ゴンは天国へと旅立った。享年十三歳。老衰だった。ゴールデンレトリバーとしては長寿と言えたが、今日子にとってその悲しみは大きかった、
大学は今日子の自宅から遠く離れており、今日子は大学のすぐ近くにアパートを借りて暮らす事になった。入学式が終わった後、引っ越しの手伝いに来ていた今日子の母も帰っていき、今日子の一人暮らしは期待と不安とゴンを失ったことへの喪失感のうちにスタートした。