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リアルファミリー2  作者: 冴木 昴
7/24

「ぼくらのゆくえ―7」

かかわりはじめると、とことん巻き込まれるタイプの人って居ますよね。

実はそんなタイプだったことをようやく自覚しはじめた勇介です・・・

 いつの間にか雨が降り出していた。降り始めの路面はスリップし易い。ちょうど運ばれて来た患者も、バイクがスリップして道路標識に激突してしまったとのことだった。

「頭部のCT、急いでください」

 耳から大量に出血している。至急開頭が必要だろう。

 看護師長の木村が外科に連絡をとっている。大掛かりなオペになりそうだった。

 CTを見て、すぐにオペの術式を頭の中で組み立てる。骨折した頭蓋の隙間に血液が溜まりはじめて、脳を圧迫している。このままでは脳の一部が死んでしまう恐れがあった。

「すぐに血を抜きたい。ここで始めよう」

 佐竹が真っ青になった。

「できれば、外科の第一オペ室へ運びたいんだけど」

「医局長、間に合いませんよ。何のための救命ですか。宮下、器具借りて来い!」

 大急ぎで剃髪している間に、骨折した足を元の位置に直す。大柄な男性患者の足は想像以上に重い。まさに肉体労働だった。

 ばたばたと慌ただしくスタッフが出入りする中で、凛とした声が響いた。


「北詰先生、ここで開頭してしまうなんて、強引ですね」


 手術着に身を包んだ一ツ木が入ってきた。彼はとりあえず介助に付いていた看護師長を押し退けると言った。

「S大病院の腕、見せてもらうよ」

 周囲のスタッフがざわめいた。

「一ツ木主任がわざわざ救命に出向いてサポート?」

「うっそー! 信じられない」

 看護師たちの声が聞こえているはずなのに、一ツ木は顔色一つ変えない。

(オレも集中しないと)

 騒がしいはずの周囲から、いつの間にやら雑音が聞こえなくなり、勇介は患者の事だけに集中していた。


 一ツ木のサポートは完璧だった。

(やりやすい……)

 執刀医の動きの先を読んで、患部を広げたり支えたりと、ほんのちょっとしたところが彼の経験と実力を垣間見せてくれる。勇介は久々の高揚感に胸が震えた。

「血腫の除去終了」

 あとは患部に存在する割れた頭蓋の骨片を撤去して縫合するだけだ。血腫除去の際にあらかた骨片も取り除いたが、まだ小さいのが二個ほど残っている。

(くそっ! もっと倍率の良いスコープがあれば……)

 先端の一番細いツェッペルに持ち替えたとき、一ツ木が勇介の右手にそっと触れた。顔を上げるといつの間にか彼の隣に外科の看護師がいた。彼女は性能の良いスコープを持ってきていた。

「第一オペ室だったらすぐに用意できたのですが、間に合いましたね」

 まさにグッドタイミングだった。彼が持ってくるように命じていた事は明らかである。

 小声で礼を言ったが、一ツ木は無言のまま、表情をまったく動かさなかった。


 異例の速さでオペが終了し、スタッフ以上に勇介自身が驚いた。それも、一ツ木のお陰だろう。彼の正確なサポートとあのスコープが無かったら、まだもたもたと患者の頭部を掻き回しているところだった。

「あの、一ツ木主任、お疲れ様でした」

 汗を拭きながら頭を下げたが、彼は勇介を一瞥しただけだった。

(あの人の目に、オレはどう映ったのだろうか……)

 そんな事を考えて、ふるふると頭を振った。人の評価が気になるなんて、自分らしくないと思った。


 患者の家族に話を終えた後、タバコを吸いに屋上へ行った。本館の外科フロアと違って、ボロい救命には喫煙コーナーなど存在しない。桂院長に限っては、

「このボロい建物は風通しがバツグンだから、表と変わりゃしねえんだよ」

 とうそぶいて、いつでもどこでも勝手にタバコを吸っているが、他の者はそうはいかないのだ。


 雨は止んでいたが、いつまた降り出してもおかしくない空の色だった。

 ゆらゆらと立ち昇る煙を見ながら、先ほどの事を考える。自分と浅川、もしくは佐竹。どちらと組んでもあんな風にスムーズにはいかなかっただろう。ましてや、「ぽち」やもう一人の外科医などは論外だ。

(もういちどあの人と仕事がしてみたい)

 そう思った。

 

 ――救命と外科の確執。


「なんとかならないのかな……」

 雨上がりの空をぼんやりと見上げた。低く垂れ込める雲は、なんだか前途を暗示しているように不安な色に見えた。


宮下看護師の【北詰先生観察日誌】パート2

ども、宮下です。北詰先生のオペ、めっちゃかっこよかったっす!

頭なんて、フツー脳外でしょう!・・・え、そういうことは、あまり言うなって? なんか、天からの声が聞こえましたけど。うちは脳外ないからさ。・・・まあ、いっか。

一ツ木先生もクールなんだよね~

でも、おれ、あの人キライ。だって、おれ新人のとき外科に配属されたんだけど、あの人が1ヶ月でおれのこと救命にとばしやがったんだから。

このおれが使えないって、んなわけないじゃん。救命看護師のホープだぜい!

しかし、相変わらず北詰先生ってば、患者の中をかき回すの好きだよな。おれがもってきた穴あけドリルみたいな器具、嬉々として頭蓋にぶっさして、こう、ぐりぐりと・・・

その後なんて、骨片探して頭部に指突っ込んでたし。外科医はけっこう指の感覚が大事らしいんだけど、それにしてもあれは、仕事の範疇を超えてるね。おれはそう思う。

ところで・・・

この間、本屋で北詰先生を見かけたんだけどさ、先生「きかんしゃトーマス」の絵本なんか手にとってたんだよ。ぜんぜん似合わないだろ?

「ドS」なのに、そういう趣味もあるのかと思うとさあ、なんか、あの人からますます目が離せなくなるんだよね~




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