割り込み番外編「歩と渚、とある日常の風景」
いつも読んでくださっているみなさま、どうもありがとうございます。冴木昴です。
本編の執筆が遅れがちなので、代わりに番外編を挟みました。楽しんでいただけたら良いのですが。
こんにちは。俺、鳴沢歩。甥っ子の渚と渚の腹違いの兄、勇さんと一緒に暮してます。育児と学業の両立は、ときどき「しんどいな」って思うこともある。これはホンネです。
そんな俺たちの、日常風景です。
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「どうじょー」
舌足らずな声がして、コトンとダイニングテーブルの上に「何か」が乗った。数学の問題に頭を悩ませていた俺は、音のほうへ顔を向け、確認する。赤いミニカーだ。とりあえず無視。なぜなら、もうまもなく定期テストだから。
両手で無意識に自分の髪をかきませる。どこまでやったのかわからなくなった。くそっ!
今度は目の端に小さな手だけが見えたかと思うと、
「もいっこ、どうじょー」
そう言って、赤いミニカーのとなりに救急車が並んだ。思わず、フッ……と笑ってしまった。凝り固まった首を回し、テーブルの下をのぞくと、ミニカーを握りしめた渚と目が合う。渚はこちらの気を引いたことが嬉しい様子で、小さい前歯をのぞかせてにこっと笑った。必殺のスマイル。俺はこの笑顔にめっぽう弱い。
問題集を閉じると、二台のミニカーを持って、俺はテーブルの下にもぐりこんだ。
「おもちゃ、貸してくれるの?」
たずねると、渚はこくこくと笑顔のままにうなずいた。
二人して、十台ほどのミニカーをただ並べる。並べたとたんにめちゃめちゃにする。また並べる。渚は、ひたすらそれを繰り返している。そのうち飽きると外へ行こう――正確には「おんも!」のひと言なんだけど――と言って暴れだす。俺はまた渚に負けて、近所の公園へと引っ張り出されるんだ。こうやって、渚は毎日俺の貴重な時間を、その天使の笑顔で悪魔のように奪ってゆく。
そんな様子を勇さんは、いつも目を細めて見ている。きっと、ただ単純に、可愛らしいと思っているのだろう。……甘いな。勇さんも、一度くらい渚と二人きりで過ごしてみるがよい!
でもまあ、こんな渚を見ると、成長したんだなあとつくづく思う。なんせ、生まれたての頃から一緒なんだから。ひたすら泣くか眠るかだった渚が、思いっきり自己主張する、しゃべる、たたく、笑顔で媚びる。あの渚が……小さかった渚が……
「うう……」
やばい、目がしらが熱くなってきた。なんか最近の俺、完全におかあさんになってるかも。だから勇さんにあんなこと言われるんだ。
――じゃあ、あーちゃんがママってことで。
自分でも自覚してるんだよ! くそっ、なんで涙なんか。
目元をシャツの袖口でぬぐい、大きく鼻をすすったときだった。渚が膝によじのぼってくると、俺の顔を小さい両手で挟んだ。そして、小首をかしげるようにして言う。
「あーちゃん、イタイイタイ?」
「あ……」
渚、なんて優しい子に育っているんだろう。マジ、俺は嬉しい。
渚の小さな体をぎゅうううっと抱きしめる。……まいった。完全にやられた。
――もう、俺、号泣です。
つなぎの番外編、いかがでしたでしょうか?
歩と渚、あまり出番がないときでも、二人はちゃんと生活しているぞ、ということで、彼らの日常をのぞいてみました。
本当は歩の学校編なども書きたいのですが、それはまた別のカタチで・・・
次回は本編に戻ります。




