蝉ファイナル
掲載日:2026/08/09
アパートまでの帰り道、暗闇に蝉の声が響く。
「煩いなぁ…」
汗でTシャツが肌に張り付いて気持ち悪い。
今日も居酒屋のバイトで客に絡まれた。思い出すとイライラする。
二階建ての古いアパートに着くと電灯に虫が群がっている。
玄関前、ふと足元を見ると蝉がひっくり返って落ちていた。
これは死んでいると見せかけて急に暴れだすセミか。
それとも本当に死んでいるのか。
急に暴れられて驚くのもダルい。
イライラして蝉の頭を靴先で軽く潰した。
クシャ。
すると突然周囲が無音になった。
あんなにうるさかった蝉の声が聞こえない。
何なんだ。
俺はアパートに入って玄関の電気をつけ絶句した。
そして目の前の光景に反射的に口を両手で押さえ
声にならない悲鳴をあげた。
それは蝉だった。
狭いワンルームいっぱいに大きな蝉がひっくりかえっている。
蝉の大きな羽が俺の身体スレスレの位置にある。
ステンドグラスのような羽は凶器のようだ。
嫌な汗が吹き出る。
後ろ手にドアノブを掴むが、ガチャリと音を立てるのが怖い。
これは死んでいるのか。
それとも
END




