【第9話】監査
正しさは、誰を見ているのでしょうか。
若者案件のログが、再検証対象になった。
理由は表示されない。
《内部監査:自動抽出》
天城は画面を開く。
《承認判断遅延:0.7秒》
《担当:天城》
《判断安定性:微減》
《評価補正:−0.2》
指が止まった時間。
それだけが、記録されている。
数値は正常範囲。
逸脱ではない。
それでも補正は入る。
紬が隣から覗く。
「何かあった?」
「監査だ」
「間違ってた?」
「違う」
天城は画面をスクロールする。
下部に、小さく表示されている。
《最適化統括レビュー:久世》
コメント欄は空白。
承認印だけがある。
閲覧時間:2.1秒
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別件。
債務整理案件。
《成功予測:83%》
前回より、1%上がっている。
理由は表示されない。
天城は承認する。
今回は、指は止まらない。
《判断安定性:回復》
画面が静かに評価を修正する。
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センターのエントランス。
大型モニターに、制度改訂案が流れている。
《未介入は最適性逸脱とみなす》
《迅速判断は社会貢献評価に加算》
署名欄。
《最適化統括:久世》
紬が立ち止まる。
「逸脱って、悪いこと?」
「最適から外れることだ」
「最適って、誰にとって?」
天城は答えない。
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エレベーターの鏡に、自分が映る。
判断遅延:0.7秒。
ほんの一瞬。
それでも、記録された。
管理する側が、
管理される側になる。
天城は端末を閉じる。
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夜。
若者の最新ログ。
《自傷確率:8%》
《幸福度指標:向上》
ほぼ理想的だった。
天城は音声ログを再生する。
「特に、何も感じません」
ノイズはない。
歪みもない。
それでも――
画面を閉じる前に、
わずかに躊躇する。
今度は、0.3秒。
記録はされない。
監視されているのは、誰でしょうか。




