表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/19

【第4話】誤差

正しさに、誤差は含まれないはずだった。

三週間前に介入した若者のデータが、更新された。


《社会復帰予測:安定》

《再発率:低》


数値は問題ない。


だが、行動ログにわずかな偏りがあった。


帰宅後の滞在時間が、異常に長い。

外出履歴が、極端に減少している。


「適応過程の一環だ」


天城はそう判断する。


回復初期にはよくある。


紬は端末を覗き込む。


「この人、外に出てないね」


「休養期間だ」


「でも、前は屋上まで行ってたんでしょ?」


天城は答えない。


「リスクは下がっている」


「うん。でも」


紬は言葉を探す。


「……前より、静かになった気がする」


「安定している、という意味だ」


「そうかな」


数日後。


若者の母親から問い合わせが入った。


『最近、あまり話さなくて……』


天城はログを確認する。


《自傷確率:14%》


わずかに上昇。


だが依然、低水準。


「経過観察で問題ありません」


通話を終える。


紬がこちらを見ている。


「大丈夫?」


「統計上は」


「統計上は、ね」


後日、若者は再面談に来た。


背筋は伸びている。

服も整っている。


「最近は?」


天城が問う。


若者は少し考えたあと、言った。


「……問題ありません」


声は平坦だ。


《自傷確率:13%》


数字は整っている。


天城は頷きかけて――


ほんの一瞬、視線を落とした。


机の端。

爪の噛み跡。


そのまま、画面へ戻す。


「安定しています」


若者は小さく頭を下げた。


「ありがとうございました」


その夜。


若者の部屋。


カーテンは閉じたまま。


机の上には未開封の段ボール。

母親から送られた菓子。


賞味期限が近い。


端末の通知が光る。


《外出推奨:15分の散歩》


若者は画面を見る。


しばらく見つめる。


通知は、未開封のまま消える。


部屋の電気はついていない。


外は晴れている。


センター。


《自傷確率:13%》


天城は画面を閉じる。


「誤差の範囲だ」


紬は窓の外を見る。


「ねえ」


「なんだ」


「助かったあとって、どうなるの?」


天城は答えない。


画面には、整ったグラフ。

揺れはわずか。


「生存率は高い」


「……生きてる、って?」


沈黙。


天城は端末を持ち直す。


「これでいい」


窓の外は晴れている。


予報は、外れていない。


だが――


風が、少しだけ強かった。

「正しい」は、本当に十分でしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ