【第17話】適応
観測される未来は、誤差が少ない。
センター。
朝のログが更新される。
《最適化遵守率:95%》
《判断速度:平均0.1秒》
《逸脱率:低下》
静かな上昇。
天城は端末を確認する。
数値は整っている。
問題はない。
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端末が震える。
《最適化統括レビュー:更新》
天城は画面を見る。
短い一文。
《面談:本日 14:00》
差出人。
久世。
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紬が横から覗く。
「呼ばれてるね」
「ああ」
天城は端末を閉じる。
理由は明白だった。
評価確認。
それ以上でも、それ以下でもない。
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14:00。
統括室。
扉は半分だけ開いている。
中は静かだった。
窓際に一人、立っている。
男は振り返らない。
「入れ」
声は低い。
天城は部屋に入る。
机の上には端末が一つ。
ログが開いている。
《判断速度:0.1秒》
《成功率:93%》
《逸脱時間:平均0.1秒》
久世が言う。
「優秀だ」
天城は答える。
「制度が機能しています」
久世は小さく頷く。
否定しない。
肯定もしない。
ただ画面を閉じる。
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「迷いはあるか」
突然の問い。
天城は即答する。
「ありません」
一拍。
久世は天城を見る。
初めて目が合う。
その視線は冷たいわけではない。
ただ、深い。
「そうか」
短い返答。
それだけだった。
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沈黙。
数秒。
久世は窓を見る。
外は薄曇りだった。
「迷いは減る」
独り言のように言う。
「制度が完成に近づくほど」
天城は頷く。
合理的だ。
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久世は続ける。
「だが」
言葉が止まる。
窓の外を見たまま。
「完全には消えない」
天城は答えない。
意味が分からないわけではない。
ただ、必要のない議論だった。
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久世は端末を再び開く。
新しいログ。
若者案件。
《自傷確率:12%》
安定。
問題はない。
久世は画面を閉じる。
「制度は正しい」
その声には迷いがない。
「だからこそ」
一拍。
「適用範囲を誤るな」
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天城は言う。
「理解しています」
久世は頷く。
「そうだろう」
そして言う。
「君は制度を信じている」
天城は否定しない。
「はい」
久世は天城を見る。
ほんのわずか。
表情が緩む。
笑いではない。
理解に近い。
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「それでいい」
久世は言う。
「制度は、人を救う」
その言葉は事実だった。
誰も否定できない。
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面談は終わる。
天城は部屋を出る。
扉が閉まる。
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久世は動かない。
窓の外を見る。
雲が少し流れていた。
静かな午後。
机の上の端末が光る。
新しいログ。
《判断速度:0.1秒》
久世は画面を見つめる。
「……速い」
小さく呟く。
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遠くで、誰かの笑い声が聞こえる。
センターの廊下。
久世はそれを聞く。
一瞬だけ。
視線が落ちる。
ほんのわずかに。
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「兄貴みたいに計算してたら」
声がよぎる。
記憶。
一瞬。
すぐに消える。
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久世は端末を閉じる。
《制度遵守:正常》
問題はない。
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窓の外は曇りだった。
それでも予報は外れていない。
未来は、観測されたときに形になる。




