【第16話】理想形
正しさには、条件がある。
センター。
大型モニターに流れる数値は、今日も滑らかだった。
《最適化遵守率:94%》
《判断速度:平均0.1秒》
《逸脱率:低下》
成功事例として、天城あまぎの名が表示される。
《担当評価:上位3%》
拍手は起きない。
ただ、誰も異議を唱えない。
それが、この場所の祝福だった。
端末が震える。
《最適化統括レビュー:久世》
短い一文。
「制度理解、十分。」
天城は画面から目を離さない。
「十分、か」
独り言のように言って、端末を閉じる。
⸻
紬つむぎがモニターを見上げる。
「優等生だね」
「基準があるからだ」
「迷わない?」
「迷う必要がない」
即答だった。
紬は、それ以上を言わない。
頷きもしない。
ただ、視線だけが、わずかに残る。
⸻
面談室。
新しい案件。
《意思決定支援:推奨》
《成功率:93%》
女性は椅子に深く座り、膝の上で手を組んでいる。
「自分で決めるの、苦手で」
天城は資料を示す。
「傾向分析では、この選択が最適です」
女性は息を吐く。
肩が少し落ちる。
「それなら……お願いします」
電子音。
《心理負荷:軽減》
記録。
成功。
数字は揺れない。
⸻
センターへ戻る。
ログが更新される。
《判断速度:0.1秒》
《最適化精度:向上》
天城は数字を見ている。
整っている。
それだけで十分だった。
紬が言う。
「ねえ」
「なんだ」
「もしさ」
一拍。
「誰も迷わなくなったら」
天城は答える。
「社会は安定する」
「……ふうん」
紬は小さく笑う。
笑っているのに、温度が上がらない。
「じゃあ、迷うのって」
紬は言葉を探すように、少しだけ間を置く。
「コストなんだね」
天城は頷く。
「迷いは、コストだ」
その言葉は自然に出た。
考えたわけではない。
ただ、整理された。
⸻
端末が光る。
新しい案件。
《未来予測:実行可能》
天城の指は迷わない。
承認。
電子音。
《成功率:安定》
窓の外は薄曇りだった。
それでも予報は外れていない。
外れないようにしているからだ。
天城はふと、胸の奥を確かめる。
胸の奥は、静かだ。
異常はない。
そう判断する。
確認は不要。
⸻
紬は何も言わない。
空調の音だけが一定に流れる。
画面には整った数値。
逸脱はない。
迷いもない。
迷いがなくなることは、完成でしょうか。




