【第13話】未来の余白
整っているはずのものに、余白が生まれる。
面談室。
蛍光灯の白が、均一に落ちている。
《担当評価:+1.0》
《最適化統括レビュー:承認(久世)》
数値は整っている。
基準は適切。
判断は妥当。
天城は端末を閉じる。
問題はない。
――ないはずだ。
「決めてもらえて、楽でした」
言葉が、音を持たずに残る。
迷わずに済む。
優しいですね。
天城は机に置いた指先を見る。
わずかに冷たい。
空調の温度を上げようとして、やめる。
理由がない。
⸻
次の案件。
《意思決定支援:推奨》
《成功率:91%》
高い。
「あなたの傾向から見て、この選択が最適です」
向かいの男性は、安心したように息を吐く。
「自分で決めるの、苦手で」
天城は記録する。
《心理負荷:軽減》
合理的だ。
そのはずだ。
男性は続ける。
「決めてもらえると、助かります」
蛍光灯が、少し白すぎる。
言葉の並びが、どこかで重なる。
決めてもらえる。
迷わない。
安心。
⸻
白いカーテン。
閉じた窓。
「あなた、いつも先に安心をくれるよね」
天城は笑っていた。
「不安は減らすべきだ」
正しい。
彼女は頷く。
「うん」
一拍。
「選びやすい方を、先に教えてくれる」
天城は首を傾ける。
「情報提供だ」
「そうだね」
責めない。
ただ。
「あなたの好きな私は、誰?」
⸻
面談室に戻る。
承認ボタンの上で、指が止まる。
0.3秒。
記録されない長さ。
天城は押す。
電子音。
《成功率:安定》
数値は正しい。
それでも。
胸の奥に、わずかな未確定が残る。
名前はまだ、ない。
蛍光灯は白いまま。
問いは、解かれなくても残る。




