【第11話】先回り
早い判断は、命を救う。
《3ヶ月以内自傷確率:41%》
高すぎる数値ではない。
だが、上昇傾向。
対象者:27歳。男性。営業職。
睡眠時間は安定。
勤務評価も標準。
目立った異常はない。
ただ、検索履歴に小さな偏りがある。
「意味」
「生きる理由」
「何も感じない」
頻度は少ない。
だが、連続している。
《推奨対応:経過観察》
通常なら、ここまで。
天城はログを閉じる。
数秒。
再び開く。
41%。
臨界ではない。
だが、上がっている。
今なら、下げられる。
臨界に達してからでは遅い。
予防は、効率がいい。
《軽度面談:提案》
承認。
⸻
面談室。
男はやや戸惑った様子で座っている。
「自分、何かありましたか」
「念のための確認です」
天城の声は穏やかだ。
「予測値が、わずかに上昇しています」
男は苦笑する。
「そこまで深刻じゃないと思います」
否定ではない。
ただの感覚。
天城は頷く。
「今のうちなら、調整は軽く済みます」
声色は変わらない。
「負担は最小です」
男は視線を落とす。
机の端。
数秒。
「……分かりました」
《予防介入:実行》
⸻
二週間後。
《自傷確率:19%》
さらに一週間。
《11%》
安定域。
《担当評価:+0.8》
《判断迅速性:良好》
《最適化統括レビュー:承認》
承認欄に、久世の名。
天城は一度だけ見る。
それだけだ。
⸻
帰路。
紬が隣を歩く。
「助かったね」
「ああ」
「この人、死ぬつもりだったの?」
「確率は上昇していた」
「でも、まだ決めてなかったよね」
風が吹く。
天城は前を向いたまま言う。
「決めさせない方が、確率は下がる」
紬は何も言わない。
⸻
夜。
男の部屋。
机の上にスマートフォン。
メモアプリが開かれている。
入力途中の文章。
今日は、そこまでじゃなかった
カーソルが点滅する。
数秒。
文章は削除される。
画面が閉じる。
部屋は静かだ。
⸻
センター。
《自傷確率:11%》
安定。
《総合適正:上昇》
天城は画面を閉じる。
正しかった。
臨界前に止めた。
誰も傷ついていない。
数字は下がった。
未来は安定した。
迷いはなかった。
そのはずだった。
わずかに、胸の奥が重い。
理由は、特にない。
先に守ることは、奪うことでしょうか。




