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王の仕事というのは、不思議なものである。
「決めること」が仕事だと言われるが、決めるたびに誰かが怒る。
つまり、王の本当の仕事は「怒らせる練習」なのかもしれない。
今朝、私は珍しく会議に出た。
議題は「法の整備」である。
「陛下、我が国には盗みを禁じる法律すらありません!」
「それは素晴らしい。寛大だ。」
「……いえ、寛大すぎるのです。」
なるほど。
そこで私は提案した。
「盗んでもいいが、盗まれる覚悟を持て。」
一瞬、沈黙。
次の瞬間、全員が難しい顔をした。
「それでは秩序が保てません!」と叫ぶ声。
「秩序とは誰のものだ?」と返す私。
議場の空気が氷点下まで下がった。
それでも私は書記に命じて、法文をしたためた。
第一条 人は、他者のものを奪ってはならぬ。
ただし、奪う理由が美しい場合はこの限りでない。
うん、悪くない。
だが書記は泣きそうな顔で言った。
「“美しい理由”とは何ですか。」
「見たらわかる。」
「見てもわかりません。」
「じゃあ、それが裁判だ。」
この国では初めての“哲学裁判”が生まれた瞬間であった。
数日後、ひとりの少年がパンを盗み、堂々と城に来た。
「おお、勇気あるな。」
「理由があります!」
「聞こう。」
「腹が減って死にそうでした!」
「美しい……。」
裁判は一瞬で終わった。無罪。
だがそのあと百人の民がパンを盗んだ。
「陛下、これは混乱です!」
「いや、流行だ。」
……こうして、国のパンは消えた。
その結果、皆がパンを焼くようになり、
妙に香ばしい匂いが国中に漂いはじめた。
「結果的に、パンの文化が発展しました」と報告を受け、
また同じよう現象も報告された。
私は「法とは、偶然を導く装置である」と記した。
私は少しだけ誇らしかった。
けれど同時に、国庫が空っぽになった。
思索には、だいたい請求書がついてくる。
夜、寝る前に思った。
「よいよい発想の失敗は、だいたい現実が正しいせいだ。」




