4話
とある朝、帳簿係が青ざめた顔で駆け込んできた。
「陛下、記録に、おかしなことが起きています!」
僕は寝ぼけ眼で羊皮紙を受け取る。
そこには昨日までのリザルトいや統計表。
死者の名前を加えた新しい帳簿だった。
だが、その下段に——
「人口:不明」
と記されていた。
「不明? どういう意味だ?」
係は震える声で言った。
「昨夜、村の住人たちの数が……数えられなくなりました。
いや、正確には、“数えることができなくなった”のです。」
意味がわからなかった。
だが、彼が広げた別の地図を見た瞬間、背筋が凍った。
北部の空白に、うっすらと光る点がいくつも浮かんでいる。
「これは……?」
「わかりません。名簿に“人名”を加えた直後から地図に現れました。
しかも、その点が……動いております。」
たしかに、微かに点が残像のように動いていた。
まるで、失われた物が数字の外で呼吸しているようだった。
書記官が小声で言った。
「陛下……もしかして、“名”とはこの世界の禁忌や危険なものでは?」
僕は首を振った。
「禁忌じゃない。これは、記憶だ。」
そう言った途端、そうゆうものがひとつ増えた。
そして、それらが地図の端までの土地滲んでいく。
それは警告にも、祝福にも見えた。
世界が何かを伝えようとしている。
この世界が“数字でできている”という前提が、音もなく崩れていく。
僕は静かに命じた。
「……すべての死者の名を記せ。
それが、この国の記録だ。」
書記官が戸惑いながらも頷く。
窓の外では風が止み、遠くで鐘が鳴った気がした。




