MIRV戦争
世界がまだ「ぎりぎり均衡していた」頃。
例の帝国、沈黙帝国、主人公の国の三国は、
互いに核戦力を睨み合いながらも、
一応は「自制」という細い糸でつながっていた。
しかし、その糸は一日で切れる。
理由は──誤解だった。
誤解の第一歩:沈黙帝国西岸の“光”
ある晩、沈黙帝国の西岸近くで、
未確認の火球が上空を走り、海面に墜ちた。
沈黙帝国の観測網は壊滅的に老朽化していたため、
その正体を特定できなかった。
だが例の帝国の監視衛星は、
その火球を“主人公国の発射した試験弾頭”と誤認した。
発射角度、タイムスタンプ、軌跡の一部が一致していたのだ。
例の帝国の分析官は震えながら報告する。
「これは……威嚇射撃か、あるいは誤射の可能性があります」
だが軍上層部はそうは受け取らなかった。
「主人公国は沈黙帝国の西岸を狙った。
次は我々への攻撃もするかもしれない。
座して待つわけにはいかん」
こうして、
“誤認”が“確信”へと変わってしまう。
沈黙帝国の沈黙が「肯定」と受け取られた
沈黙帝国はその名のとおり、
事件に対し一切の声明も出さなかった。
調査も進んでいなかった。
「沈黙しているということは、
主人公国の攻撃であることを暗に認めているのだ」
主人公国は言う。
「沈黙帝国が否定しないということは、
例の帝国の攻撃をかばっているのだ」
沈黙は、
真実を伝える術ではなく、
疑惑を増幅する装置だった。
さらに事態は拗れた。
主人公国の北方観測網が、
“例の帝国から3つのミサイルが上昇した”という誤報を出した。
実際には、ただの名目上の気象観測ロケットだった。
しかし誤報を止めるには9分遅かった。
主人公国の参謀たちは顔色を失い、
報告書を握りつぶしながら叫んだ。
「例の帝国は沈黙帝国への誤射を隠すために、
今度は我々を攻撃するつもりなのか!」
疑心は恐怖を呼び、
恐怖は行動を正当化し、参謀を暴走させた。
例の帝国は事態を沈静化させるつもりで、
主人公国の無人地域に向けて「威嚇目的の単弾頭」を撃った。
しかしそれを見た主人公国は、
こう解釈した。
「本格的に攻撃が始まった」と。
「この世界に理性など元から無かったのか」
という問いと共に。




