幕間:とある諸島での動向
諸島の中央に位置する小国──海路の要衝に立つその国は、
外から見ればただの商業国家だった。
港は常に明るく、
船は昼夜を問わず積み荷を抱え、
通貨は海風と同じくらい軽やかに世界を巡っていた。
三国は争わず、ただ交易を重ね、
富を海流のように循環させるだけの国だ、と。
だが、その柔らかさこそが最大の偽装だった。
島の地盤は古く、洞窟が複雑に重なり合い、
そのさらに下層に、誰も知らない巨大な回廊が走っていた。
商業港の真下には、
「倉庫」という名で呼ばれる広間がある。
しかし倉庫は、貨物を置くための場所ではなかった。
そこに並んでいたのは、
光と熱を極限まで圧縮し、
一度放たれれば地図そのものを書き換えるほどの“光の器具”たち。
数は、すでに周辺三国の保有量を上回っていた。
しかもそれは、防衛目的というには余りある規模だった。
この小国は笑っていた──
商人の笑みでありながら、
その裏に「沈黙の帝国」ですら目をそらすほどの静かな牙を隠して。
なぜ小国がそこまでの装備を蓄えたのか?
答えは単純で、同時に深淵だった。
彼らは信じていた。
「小国が生き残るには、語る力ではなく、
語らずとも“対応し策を練る力”が必要だ」と。
力なき正義は、海の上ではすぐに溺れる。
では、小国が取れる唯一の道とは何か?
──“静かに沈黙を操る力”。
その思想が、諸島の地下に蓄積されていった。
終わらない微笑
大国たちが沿岸で互いに光を放ち合い、
海が白く焦げつくような戦いを続ける中で、
この小国だけは、微動だにしなかった。
港では取引が続き、観光客が笑い、
表向きは平和そのものだった。
だが、地下の”器具”たちは、
あと一つの契機で“世界”を新しい色に塗り替え得る状態にあった。
小国は知っていた。
世界がどんな終わりを迎えようと、
自分たちだけは、「最後の交渉権」を手放すつもりはない、と。




