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破壊

海面に漂う火の粉は、戦が終わったことを示す印であり、

次の戦が始まる静かな合図でもあった。


北東の海では、主人公国とその帝国による大規模な砲火の応酬が終わり、

双方とも限界まで消耗していた。

艦列は乱れ、煙柱は水平線を曇らせ、

海には鉄と油の匂いがただよっていた。


両軍は、“撤退”という名の妥協点をなんとか見つけ、

それぞれの方向へ舵を切り始めていた。


その瞬間だった。

――空が白く裂けた。


音は遅れてやって来た。

全員が一度、世界から引き剝がされたような、

鼓膜では処理できない衝撃が続いた。

海そのものが震え、退避行動中の艦列に水柱が突き刺さった。


沈黙の帝国が、突如として“光”を放ったのだ。


海戦をしていない第三勢力。

これまでずっと静観していた勢力。

その沈黙が破られたとき、

最初に消えたのは両国の誤解でも敵意でもなく――艦だった。


片方の艦列では一瞬で艦の両脇それぞれ数十の火柱が上がり、

もう一方では波間に黒い塊が落ちていく。

白光の余波だけで沈みゆく船もあった。


結果、両国それぞれ 70隻が撃沈、20隻が半壊。

たった一撃で、戦局が書き換わった。


主人公国の王は、報告を聞きながら静かに口を閉じた。

沈黙の帝国からの攻撃理由は不明。

ただ、王一人だけは気づいていた。


――こうなるのが怖かったのだ、と。


敵意は読み取れる。

計算もある程度予測できる。

だが、“沈黙”ほど不気味な戦略はない。


沈黙の帝国の攻撃が終わって数時間後、

今度は海上偵察が新たな危険を告げに来た。


「南から……いえ、南と南東から。

 上陸部隊と思われる艦列が多数接近しています」


多数――ではなかった。


「概算で……両方向合わせて、約七百隻です」


軍議室が一瞬凍りついた。


例の帝国の艦影はまだ整理中で海上に散らばっている。

本来なら、傷ついた兵に休息が必要なはずだ。

それでも彼らは向かって来る。

灰色の海を染めながら、

灰に還る可能性を承知で。


そして沈黙の帝国は、撃ったあとも沈黙を保ち続けた。

攻撃の意図も、宣戦布告もない。

ただ、700隻という数だけが、

大陸の均衡が突然崩れたことを示していた。


王は立ち上がった。


疲れはあった。

疲れを自覚するだけの余裕もあった。

ただ、それでも動かねばならない。

ただ“不安の総和”が押し寄せて形になった“波”だ。


「北東艦隊を北東に回せ。

 また南東から西からも北部からも、全部を南東に回せ。

 戦う意思がない者は無理をさせるな。

 帰りたい者は帰せ。

 だが、ここで踏ん張る者には、必ず戻る道を残してやれ」


王の声は大きくなかった。

むしろ、誰に向けたのかも分からないほど静かだった。


だが海は、その静かな声に耳を澄ませたように揺れた。


例の帝国の“絶望からの進撃”。

沈黙の帝国の“理由なき白光”。

そして主人公国の“立ち向かうしかない迎撃”。


三つの意志が、風も読めぬ混線の海上で交差しようとしていた。


その夜、主人公国の全艦隊――200隻は南東へ向けて進路を取った。

月明かりに照らされた海面には、

700の影が、同じ方向へとじわり迫っていた。


戦いは避けられない。

避けられない理由がどこにあるのかも、誰も分からない。

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