3話
そして三日後。
報告書が、机の上に置かれた。
封蝋を割ると、乾いた砂のような臭いがした。
北部の村が六つ消えたという。
戦闘記録、死傷者、資源の損失。
すべて、整然と並んだ数字で表されている。
「……まるでリザルト画面だな。」
そうつぶやくと、伝令の青年が顔を上げた。
彼の鎧は煤け、声はかすれていた。
「リザルト……とは、勝利報告のことですか?」
「ああ、そういうものだ。」
青年はかすかに笑った。
「ならば……勝利ではありません。北部は、もう地図にありませんから。」
机の上の地図を見た。
赤いインクで描かれていた北部が、薄く擦れて消えていた。
世界が「国の部分として存在しなかったこと」にしているみたいだった。
「……国が、いなかったことになる世界か。」
そう言うと、青年は言葉を探すように唇を噛んだ。
「陛下、お願いがございます。
せめて、亡くなった者たちの名を、記録に残していただけませんか。
数字ではなく、名前で。」
胸の奥で、なにかが小さく鳴った。
“名”という単語が、妙に重たかった。
ゲームでは、死者に名前などなかった。
だが、今この青年の声の震えが、僕の中の何かを崩していく。
「……いいだろう。名前を、書け。」
書記官が驚いたように顔を上げた。
「ですが陛下、記録に名前を——それは前例が……」
「前例なんて、どうでもいい。
せめて、消えたものの痕跡くらいは、残してやれ。」
沈黙。
誰も反論しなかった。
そして、その夜。
風がやんだあとも、どこか遠くで人の声が聞こえた気がした。
泣き声でも、祈りでもなく、ただ、呼んでいるようだった。




