森での探り合い
とある日、冷たい雨が降っていた。
大陸中央の緩衝地帯に位置する「森の国」は、湿った大地の上に築かれた首都を持つ。
その小国は、地図上で見れば指の幅ほどにも満たないが、政治上の意味は重かった。
かつて幾度も戦場になった場所だからだ。
主人公の国〈王国連合〉、東の二重帝国、西方大国。そして西の森の国――
それぞれの代表団が、この森の国で会談の席についた。
議題は表向き、「中立地帯の非軍事化協定」。
だが実際には、互いの覇権の境界線をどこに引くか、という微妙な駆け引きの場であった。
主人公の忠実な部下は、他国の特使たちが互いの言葉を探り合う様を静かに眺めていた。
外交官たちの笑顔の裏で、机の下の足が動くたびに水面のような緊張が走る。
森の国の代表は、年若い大臣だった。中立を守るという信念だけを頼りに、この会談に臨んでいた。
>「我々は協定を望む。しかし、常駐部隊の設置は中立の理念に反する。」
その発言に、帝国の代表がわずかに眉を動かした。
「理念」という言葉は、力をもたない者が最後に頼る言葉でもある。
それを知りつつ、誰も口に出しては言わない。
やがて会談は儀礼的な握手で幕を閉じた。
だが、部下は席を立ちながら静かに感じていた。
――森の国は、次に開かれる会談の場にはもう存在しないだろう。
彼の予感は的中する。
半年も経たぬうちに、森の国は「安全保障上の必要」を掲げた帝国軍によって包囲される。
そして、誰もその行動を止めなかった。




