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幕間:二重帝国の台頭と沈黙
南の大国と東の強国は、長らくで対立し合いながらも、
ある日、ひとつの誓約を交わした。
その名を「双帝協約」という。
二つの皇が並び立つ――異例にして異端の体制。
だが、目的はどの人にとってもあまりに明確だった。
二重帝国はまず、南西の商業連合へと進軍した。
戦は短く、血は静かに流れ、大量ではなかった。
富と航路を手中に収めたその後、西の小国群へと矛先が向けられた。
抵抗はあったが、やがて全ての城砦は双帝の旗の下に沈黙した。
大陸の西半分が、ひとつの意志に染まっていく。
その中にあって、主人公の国――元小国は、
沿岸主要都市を失い、海の窓を閉ざされたまま、ひとつの決断をしていた。
「立たぬこと」だ。
戦をせず、声を上げず、ただ沈黙する。
沈黙の裏で、工房は静かに再稼働し、
学舎には若者の声が戻り、
荒廃した畑では耕され再び種が蒔かれていた。
交易の港を失っても、河川の街が河川都市として息を吹き返す。
外の世界が鉄と火に踊る中で、
この国は土地を耕すように、再び根を張っていた。
王は日々、報告書の束の向こうで地図を見つめる。
指先が、遠く南の沿岸部をなぞるたび、
瞼の裏に、旗がちらついた。
「世界は走りたがる。だが、ゆっくり歩く者が最後に風景を知る。」
その声は誰にも聞こえぬほど静かだった。
だが、静寂の中で、また一つの歯車が回り始める。




