静かな大国
すこし時がたち、いつしか他国は、その国を「下の下の大国」と呼び始めた。
皮肉にも、最大級の警戒をこめて。そして忘れないように動くために
王は、城の高台から交易路を見下ろしていた。
道には荷馬車が絶えず、遠方からの旗が行き交う。
「賑やかだな」と、宰相がつぶやく。
主人公は頷く。
だが、音の裏では、静かな動きがあった。
北の連邦は軍を増やし西進政策を行い、
東の国は税を上げ軍拡し、
南方の強国は交易検査の名のもとに偵察隊を送り込んでいた。
世界が“均衡を疑い始めた”のだ。
王はあえて反応しなかった。
兵を動かすことも、同盟を求めることもない。
代わりに――“行動する静寂”を選んだ。
彼は農民に機密的補助金を与え、
教育と記録の制度を拡張した。
だがそれは「防衛」ではなく、「忘れられる準備」だった。
「国が目立てば、他国は理由を作って攻めてくる。
ならば、目立たぬまま“仕組み”だけを伸ばせばいい。」
宰相が尋ねた。
「陛下、策を練っておられるようですが、どのような……?」
主人公は筆を止め、答えた。
「策というのは、形が見えた時点で策ではない。
ただ、動くより先に、辻褄を合わせているだけだ。」
やがてその国は、表面上は静寂に包まれながらも、
内部では官僚と職人たちがひそやかに新しい仕組みを組み上げていた。
農作物を季節ごとに土地ごとに配分する制度、
そして――戦を起こさずに他国の領土を“回収”する”枠組み”。
外から見れば、ただ静かな小国。
だが、内側では、“思惑の歯車”がゆっくりと動き始めていた。
そしてこの世界の均衡を塗り替え始めていた。
「力を持ったとき、人は使いたくなる。
けれど、真に強い者は、使わずに済ませる道を探す。」
と王は言った。




