みじかい小説 / 003 / 加奈子の水虫
私の名前は谷口加奈子。
結婚願望のない30手前の独身女だ。
仕事は医療事務をやっている。
さて、長年特に悩みのない生活を送ってきたけれど、最近はちょっと事情が違う。
上司である宮下さんが原因だ。
宮下さんは35歳の男性で、白衣が張るほど太っているのだが、問題はそこじゃない。
しばらく前から、宮下さんはひどく不機嫌な状態が続いているのだ。
というのも、指示を出す時なんかに、嫌味が混じるようになったのだ。
「なんでそんなこともできないの」とか「そんなの常識でしょ」とか。
噂好きの先輩たちに聞いてみると、どうやら宮下さんの子供が不登校になったらしいということだった。
正直、だからなんだというのだ。
職場で家庭の問題を言い訳にして不機嫌をまき散らさないで欲しい。
自分の機嫌は自分で取れと言うではないか。
大体、自己管理もできないほど太っている宮下さんだ、お子さんに対する教育の面でも問題があったんじゃないだろうか。
だいたい、奥さんは何してたんだろ。
ああ、そんなことよりさっきからまた足がかゆくなってきた。
そういえば仕事の帰りにドラッグストアに寄って買い足しておかないと、もうすぐ薬がなくなるんだった。
こういう時パートナーがいれば一緒に盛り上がれるんだろうけど。
でも下手に結婚して宮下さんとこみたいに子供が不登校になっても嫌だし。
うちは片親だけどそれはそれで大変だったって母からよく聞かされてるし。
独り身は年をとってからが大変だとは聞くけれど、そんなのなってみなくちゃ分からないし。
とりあえず今のところ私の悩みは水虫ということで。
それが何より幸せな証だと思う今日このごろだったりする。
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