第八話 スケルトンの会議
一方、その頃、スケルトンたちの秘密会議は、人知れず、朽ち果てた古城の、奥深くの一室で執り行われていた。そこは、月の光すら届かぬ、闇と湿気に支配された、まるで現世と隔絶された異空間。壁には、古の呪いのように蜘蛛の巣が幾重にも張り巡らされ、床には、かつての栄華を偲ばせる瓦礫が、無造作に散乱し、踏みしめるたびに、乾いた音を立てる。
部屋を満たすのは、重苦しい沈黙と、骨の擦れる微かな音、そして、時折聞こえる、何かの蠢くような、不気味な気配だけ。この場所に集っているのは、通常のスケルトンとは一線を画す、異形の者たち──黒ずんだ骨格を持ち、それぞれが豪華な、しかし、どこか禍々しい装飾が施された武具を身につけた、エリートスケルトンたちだった。
部屋の中央には、古木の、それも、樹齢数百年は経ているであろう巨木から切り出された、重厚なテーブルが置かれ、その周囲を囲むように、十数体のエリートスケルトンが、まるで石像のように静かに座していた。彼らの眼窩には、生命の灯火の代わりに、不気味な赤い光が揺らめき、まるで地獄の業火を宿しているかのように、暗闇の中で、妖しく瞬いている。
沈黙は、重く、冷たく、まるで死神の吐息のように、部屋全体にのしかかっていた。その静寂を破ったのは、ひときわ装飾の豪華な、黒曜石の兜を深く被ったスケルトンだった。彼は、ゆっくりと立ち上がり、低い、しかし、骨の奥底から響くような声で、口を開いた。
「……諸君らも、既に聞き及んでいると思うが……、つい最近のことだ。…我らが誇るエリート部隊のうちの一人が、…人間ごときに、討ち取られた、という報告が入った。」
その言葉は、まるで冷たい刃のように、部屋の空気を切り裂いた。周囲のスケルトンたちの間に、目に見えない動揺が走る。カチカチと、骨と骨とが擦れ合う音、そして、まるで何かが蠢くような、微かなざわめきが、暗闇の中で、不気味に響き渡った。
スケルトン2:「何だと…? 我らがエリート部隊の精鋭が、…やられた、だと…? そんな馬鹿なことが、あってたまるか……。」
スケルトン3:「相手は、…人間、だと…? まさか、…あの忌々しい村の連中か…?」
黒曜石の兜のスケルトンは、まるで感情を持たない機械のように、静かに、しかし、明確に首を横に振った。
「いや、…村の人間ではない。…どうやら、最近、この地に現れた、異世界の人間だという情報が入ってきている。」
その言葉は、先ほど以上の、深い動揺を、スケルトンたちの間に引き起こした。まるで、冷たい水が、彼らの骨の髄まで染み渡っていくかのようだった。
スケルトン4:「異世界の人間…だと…? 一体、何者だ……。何故、我々の世界に…。」
黒曜石の兜のスケルトンは、まるで儀式を執り行うかのように、ゆっくりと、テーブルの上に、一枚の古びた羊皮紙を広げた。そこには、粗末な、しかし、異様な迫力を持つ絵で、三人の人影と、そして、彼らに付き従う、三匹の獣の姿が描かれていた。
「これが、目撃情報、…そして、生き残った者たちの証言を元に描かせた、異世界の人間たちの姿だ。…三人の人間と、…三匹のオオカミ……。」
スケルトンたちは、まるで獲物を狙う猛獣のように、羊皮紙に描かれた絵を、食い入るように見つめた。その姿は、彼らがこれまで見てきた、脆弱で、愚かな人間たちとは、明らかに異質だった。特に、人間でありながら、三匹ものオオカミを従えている、という点が、彼らの警戒心と、そして、本能的な嫌悪感を、さらに強く刺激した。
スケルトン5:「オオカミ…だと…? 人間が、獣を従えている、というのか…? そんなことが、…あり得るのか…?」
スケルトン6:「それに、…この装備……。…ただの人間ではないな。…まるで、我々と同じように、…いや、それ以上に、戦うために作られた、…特別な武装をしているようだ。」
黒曜石の兜のスケルトンは、重々しく、まるで石が擦れるような音を立てて、頷いた。
「情報によれば、奴らは、…非常に強力な、…それも、我々ですら、容易には手に入れられないような、武器と防具を所持しているという。…討たれたエリート部隊の最後の報告では、…奴らの刃は、我々の鎧を、まるで紙のように切り裂き、…そして、…一撃で、体が両断された、と……。」
その言葉は、まるで死刑宣告のように、部屋の中に重く響き渡った。エリート部隊の精鋭が、人間ごときに、それも、一撃で倒されるなど、彼らにとっては、想像を絶する、屈辱的な事態だった。相手が、ただの人間ではないことは、もはや明白だった。
スケルトン7:「一撃で、…両断…だと…? そんなことが、…可能な武器など……、存在するのか…?」
スケルトン8:「まさか……、…それは、…伝説に謳われる、…ネザライト装備か…?」
その言葉が出た瞬間、部屋の空気は、まるで凍りついたかのように、完全に静まり返った。
ネザライト装備──それは、この世界で最も希少で、最も強力な鉱物から作られた、伝説の武具。それは、神々の時代の遺物であり、それを持つ者は、無敵の力を得ると言われている。
黒曜石の兜のスケルトンは、張り詰めた沈黙を破るように、低く、しかし、力強い声で言った。「…ネザライト装備かどうかは、まだ断定できない。…しかし、いずれにせよ、奴らが、我々にとって、…極めて警戒すべき相手であることは、間違いない。」
スケルトン9:「しかし、…なぜ、今になって、…異世界の人間が、我々の世界に現れたのだ…? …何が目的だ…?」
スケルトン10:「……もしかすると、…奴らは、…我らが偉大なる、暗黒竜様にとって、…邪魔な存在、…排除すべき、…障害なのかもしれない……。」
その言葉は、まるで呪詛のように、部屋の中に響き渡り、再び、重苦しい沈黙が、場を支配した。
やがて、黒曜石の兜のスケルトンは、まるで古代の彫像のように、ゆっくりと立ち上がった。
「……いずれにせよ、…奴らの動向を、徹底的に監視する必要がある。…もし、奴らが、本当に、ネザライト装備を所持しているのであれば、…我々の勢力にとって、…そして、暗黒竜様にとって、…極めて重大な脅威となるだろう。」
スケルトンたちは、まるで操り人形のように、一斉に立ち上がり、黒曜石の兜を被ったスケルトンの方を向いた。彼らの眼窩には、不気味な赤い光が、まるで地獄の業火のように、激しく揺らめいていた。
黒曜石の兜のスケルトンは、まるで死神の宣告のように、力強く、そして、冷酷に宣言した。
「直ちに、エリート部隊を再編成し、…異世界の人間たちの調査を、徹底的に行う。…奴らの目的、…その力、…そして、弱点…、全てを、余すことなく調べ上げろ。…そして、もし、奴らが、我々の敵であると判明したならば、……躊躇うことなく、排除せよ。…この世界は、暗黒竜様のものだ。…邪魔する者は、何人たりとも、生かしてはおかん。」
スケルトンたちの間から、カチカチと、骨と骨とが擦れ合う、不気味な音が、まるで賛同の雄叫びのように響き渡った。それは、彼らの冷酷な決意と、暗黒竜への絶対的な忠誠心の、何よりの証だった。
「……暗黒竜、エンダードラゴン様へ、…早急に報告せねばならない。……異世界の勇者たちは、…我々にとって、…最大の脅威となるやもしれぬ……。」
黒曜石の兜のスケルトンの言葉は、まるで、これから始まるであろう、血で血を洗う戦いの、序曲のようだった。
暗闇の中で、不気味な赤い光が、まるで獲物を狙う獣の目のように、静かに、しかし、確実に、そして、激しく、燃え上がっていた。
こうして、スケルトンたちは、異世界の勇者たちに対する、冷酷な計画を、密かに、そして、着実に実行に移し始めた。
そして、その漆黒の影は、まるで死神の鎌のように、霊夢たちのすぐ近くまで、静かに、しかし、確実に、忍び寄ろうとしていた――。
朽ち果てた古城、その最上階の一室。スケルトンたちの暗く、重苦しい会議が終わると、黒曜石の兜を被ったエリートスケルトンは、まるで死神に付き従う亡霊のように、一人静かに立ち上がった。他のスケルトンたちが、それぞれの持ち場へと戻っていく中、彼だけは、まるで何かに導かれるかのように、別の方向へと、重い足取りで歩を進める。
古城の螺旋階段を、一段、また一段と降り、長く、そして、どこか永遠に続くかのような廊下を抜け、彼は、城の最深部、…いや、この世とあの世を繋ぐ境界線へと、近づいていった。そこは、生きた者が足を踏み入れることすら許されない、禁断の領域。暗黒竜エンダードラゴンの支配する、終焉の世界へと続く道だった。
廊下の壁には、古代の呪いのように、奇怪な紋様が刻まれ、床には、星の残骸を砕いて作ったかのようなエンドストーンが敷き詰められている。歩を進めるごとに、空気は重く、冷たく、そして、淀んでいく。微かに、硫黄のような、それでいて、どこか異質な、焦げた臭いが鼻を突く。ここは、希望に満ちた生の世界から遠く離れ、絶望と虚無が支配する、死の世界へと足を踏み入れる場所だった。
やがて、エリートスケルトンは、禍々しい光を放つエンドポータルの前に辿り着いた。それは、まるで巨大な魔物の口のように、暗闇の中にぽっかりと開いている。ポータルの奥からは、低く、唸るような、それでいて、空間全体を震わせるような、圧倒的な威圧感を放つ音が聞こえてくる。…暗黒竜の、鼓動、そして、息吹だった。
エリートスケルトンは、骨の髄まで凍りつくような恐怖を感じながらも、まるで儀式を行うかのように、骨の胸を大きく膨らませ、一度深く深呼吸をし、意を決して、エンドポータルの中へと、その身を投じた。
ポータルの向こう側は、想像を絶する、異様な空間だった。そこは、この世の終わりを体現したかのような、荒涼とした世界。黒曜石の巨大な柱が、まるで墓標のように、無数に林立し、その頂には、紫色に妖しく輝くエンドクリスタルが、まるで冒涜的な星のように、空間全体を不気味に照らしている。足元には、どこまでも続くエンドストーンの荒野が広がり、その中心には、巨大な、そして、圧倒的な存在感を放つ、黒い影が蠢いていた。
エンダードラゴン。
この世界を支配する、闇の王。
その巨体は、まるで山脈がそのまま生き物になったかのように、どこまでも高くそびえ立ち、漆黒の鱗は、周囲の光を全て飲み込み、まるでブラックホールのように、闇そのものを体現しているようだった。真紅の瞳は、まるで地獄の業火のように燃え盛り、冷酷な光を放ち、空間全体を、そして、エリートスケルトンの魂の奥底まで、見透かすように睨みつけている。
エリートスケルトンは、その圧倒的な威圧感と、存在そのものから発せられる、強大な魔力に、思わず膝を折りそうになるのを、必死に堪えた。彼は、暗黒竜の軍勢の中でも、最も上位に位置する、選ばれたエリートであり、並のモンスターを遥かに凌駕する力を持つ。しかし、それでもなお、エンダードラゴンの前では、まるで虫けらのように、ちっぽけで、無力な存在に過ぎないと感じてしまう。
「……エンダードラゴン様……。」
エリートスケルトンは、最大限の敬意と、そして、畏怖の念を込め、深く頭を垂れながら、報告を始めた。その声は、震え、そして、かすれていた。
「…恐れながら、…只今、緊急の報告がございます。」
エンダードラゴンは、まるで天地を揺るがす巨岩のように、ゆっくりと、しかし、確実に、その真紅の瞳を、エリートスケルトンへと向けた。
その視線は、まるでレーザー光線のように鋭く、エリートスケルトンの魂を、直接貫くかのようだった。
「……申せ。」
エンダードラゴンの声は、低く、重く、まるで地鳴りのように、空間全体を震わせた。それは、単なる声ではなく、彼の持つ圧倒的な力、そして、絶対的な支配力を、象徴しているかのようだった。
エリートスケルトンは、震える声で、簡潔に、しかし、詳細に、異世界の勇者たちの出現、そして、エリート部隊の一人が、彼らに討ち取られたという、屈辱的な事実を報告した。彼は、勇者たちの装備の異常なまでの強さ、ネザライト装備を所持している可能性、そして、彼らが持つ、未知なる力、…そして、その脅威について、包み隠さず、全てを正直に伝えた。
報告を聞き終えたエンダードラゴンは、しばしの間、沈黙した。それは、まるで嵐の前の静けさのように、重苦しく、そして、緊張感に満ちた沈黙だった。
その間、部屋には、エンドクリスタルが放つ、不気味な光だけが揺らめき、重苦しい静寂が、空間全体を支配していた。エリートスケルトンは、冷や汗が、骨の隙間から流れ落ちるのを感じながら、ただ、ひたすらに、暗黒竜の言葉を待った。
エンダードラゴンの思考は、深淵のように深く、そして、暗黒のように、計り知れない。彼が、今、何を考えているのか、エリートスケルトンには、全く想像することができなかった。
やがて、エンダードラゴンは、まるで世界を揺るがす巨岩が動くかのように、ゆっくりと、再び口を開いた。
「……異世界の勇者、か。……興味深い。」
その言葉は、意外なほど静かで、そして、穏やかだった。エリートスケルトンは、僅かに安堵した。少なくとも、怒り狂っているわけではなさそうだ。…ということは、まだ、最悪の事態は免れたのかもしれない。
エリートスケルトンは、恐る恐る、しかし、忠誠心から、進言した。「…恐れながら、エンダードラゴン様。…彼らは、…我々の支配、…そして、あなたの絶対的な力を、脅かす存在となりうるのでしょうか…?」
エンダードラゴンは、喉の奥で、低く、まるで洞窟の中に響く風のような、不気味な笑い声を上げた。
「脅威、だと…? …この私に…? たかが人間ごときが、…この、エンダードラゴンに、脅威となるとでも…? …笑わせるな。」
その言葉には、絶対的な自信と、圧倒的な力、そして、人間という存在に対する、完全なまでの侮蔑と、傲慢さが、滲み出ていた。
しかし、エリートスケルトンは、決して油断しなかった。彼らが、一撃で、エリート部隊の精鋭を倒したという事実は、決して軽視できるものではない。
「しかし、エンダードラゴン様……、彼らは、伝説のネザライト装備を所持している、…可能性があります。そして、…エリート部隊の一人を、…一撃で両断するほどの、…異常な力を……。」
エリートスケルトンは、震える声で、必死に言葉を続けた。
エンダードラゴンは、再び沈黙した。そして、まるで深淵を覗き込むように、低く、呟いた。
「……ネザライト、か。…神々が、…太古の昔に作り出したという、伝説の武具…。…それが、今になって、…よりにもよって、人間どもの手に渡るとはな……。」
エンダードラゴンの声には、僅かに、…ほんの僅かに、警戒の色が滲んでいた。しかし、それは、すぐに、彼の持つ圧倒的な自信と、傲慢さによって、かき消されてしまった。
「……よかろう。…ならば、調査を続けよ。」
エンダードラゴンは、まるで全てを見通すかのように、冷たく言い放った。
「異世界の勇者たちの目的、…その力、…そして、その弱点…。…全てを、詳細に調べ、私に報告せよ。…そして、もし、…奴らが、我が支配を邪魔するようなことがあれば……、その時は、…この私が、直々に、…始末してやる。」
エリートスケルトンは、深く、深く頭を垂れ、絶対的な忠誠を誓った。「…御意にございます。」
こうして、闇の王、エンダードラゴンは、ついに、霊夢たち、異世界の勇者たちの存在を、明確に認識した。
そして、その漆黒の影は、まるで死神の翼のように、確実に、彼女たちへと、…静かに、しかし、着実に、迫りつつあった――。