第六話 村の発見
妖夢は、まだ微かに震える手で二刀を鞘に納め、深く、長く息を吐き出した。張り詰めていた緊張が、ようやく解けていくのを感じる。「……まさか、こんなにも強いドラゴンと出会うなんて、想像もしていませんでした。でも……、なんとか、倒せましたね。」
妖夢の言葉は、安堵と、そして、自分たちが成し遂げたことへの、僅かな自信を含んでいた。
ルーク(白オオカミ)は、静かに周囲の警戒を続けながら、低い声で言った。「……ああ。だが、まだ油断は禁物だ。…この辺りには、まだ何かが潜んでいるかもしれない。」
ルークの言葉は、冷静な警告だった。しかし、彼の瞳の奥には、勝利の喜びと、仲間たちへの信頼が宿っていた。
ガロン(黒オオカミ)は、倒れたファイアドラゴンの巨体を、まるで巨大な岩山を見下ろすかのように見下ろしながら、静かに語った。「……確かに、想像を絶するほど強大な力だった。…だが、それ以上にお前たちの力、そして、お互いを信じる心が、それを上回ったということだ。…規格外、という言葉すら、生ぬるい。」
ガロンの言葉は、賞賛というよりも、むしろ、驚嘆に近い響きを持っていた。
フィン(灰オオカミ)は、喜びのあまり、尻尾をブンブンと振り回しながら、霊夢たちに駆け寄った。「やったね! やったんだ! すごいよ、みんな! 本当に、ドラゴンを倒しちゃったんだ!」
フィンは、まるで子犬のように、霊夢たちの周りを飛び跳ね回り、その喜びを全身で表現していた。
霊夢は、疲労困憊ながらも、優しく微笑みながら言った。「まあね。…でも、もうしばらくは、こんな大きいドラゴンとの戦いは勘弁かな。」
霊夢の言葉には、冗談めかした調子が含まれていたが、その瞳の奥には、まだ消えない疲労と、そして、安堵の色が浮かんでいた。
魔理沙は、空を見上げ、沈みかけた太陽の光を浴びながら、大げさに肩をすくめて付け加えた。「ったく、日が傾いてきちまったな。そろそろ、本格的に日が暮れちまうぞ。村を探すって言ってたけど、この見渡す限りの焼け野原じゃあ、見つけるのは、骨が折れそうだな。」
魔理沙の言葉は、軽口を叩いているようだったが、その表情には、疲労と、そして、これからどうするか、という不安の色が浮かんでいた。
妖夢は、周囲を見回し、注意深く状況を観察しながら言った。「でも、諦めるわけにはいきません。どこかに、必ず村があるはずです。預言の書にも、人が住んでいる場所がある、というような描写がありましたし……。」
妖夢の言葉は、決意に満ちていた。彼女は、まだ希望を捨てていなかった。
ルークは、鼻を地面に近づけ、深く息を吸い込み、周囲の匂いを嗅ぎ取っていた。そして、ゆっくりと顔を上げ、確信に満ちた声で言った。「……少し遠いが、確かに人の匂いがする。…それも、かなり微かだが、この焦土の臭いに混じって、確かに…村がある方向だ。」
ガロンは、ルークの言葉に、驚きの表情を浮かべながら言った。「本当か? この、何もかも焼き尽くされた焦土から、人の匂いを嗅ぎ分けられるとは……。さすがだな、ルーク。」
ガロンの言葉は、賞賛と、そして、ルークへの信頼を表していた。
ルークは、自信ありげに頷きながら続けた。「ああ、俺の鼻を信じろ。…間違いない。おそらく、あの森の向こうだ。」
ルークは、焼け野原の先に広がる、鬱蒼とした森を指差した。その森は、まるで、先ほどの戦いが嘘だったかのように、静かで、そして、生命力に満ち溢れているように見えた。
霊夢は、意を決したように、力強く頷きながら言った。「よし、分かった。…行ってみよう。日が完全に暮れてしまう前に、なんとか村に辿り着きたい。…希望を捨てずに、進むしかないわね。」
霊夢の言葉は、仲間たちを鼓舞し、そして、自分自身を奮い立たせるための、決意表明だった。
再び歩き始めた霊夢たちは、ルークの導きに従い、広大な焼け野原を抜け、希望の光が差し込む、緑豊かな森へと、足を踏み入れた。
森の中は、先ほどの焦土とは対照的に、緑が生い茂り、生命力に満ち溢れていた。木漏れ日が、まるでスポットライトのように優しく差し込み、鳥たちのさえずりが、まるで美しい音楽のように、耳に心地よく響いている。
しばらく森の中を、道なき道を進むと、視界が開け、開けた場所に出た。そこには、明らかに人の手によって作られた、細い道が続いていた。
魔理沙は、その道を見つけると、嬉しそうに叫んだ。「おっ! 道だ! 道があるぞ! やっぱり、村は近いんだ!」
魔理沙の言葉は、希望に満ちていた。彼は、この道が、自分たちを村へと導いてくれる、と確信していた。
妖夢も、周囲を見渡し、注意深く状況を観察しながら言った。「人の気配も、だんだん濃くなってきました。…間違いなく、この道の先に、村があるはずです。」
妖夢の言葉は、確信に満ちていた。彼女は、もうすぐ村に辿り着ける、と信じていた。
道を辿って、しばらく歩くと、木々の間から、ついに村の輪郭が見えてきた。木製の柵で囲まれた、こぢんまりとした、しかし、温かみのある村。畑には、青々とした作物が植えられ、家々の屋根からは、夕食の支度だろうか、白い煙が立ち上っている。
フィンは、村の姿を認めると、喜びのあまり、まるで子供のように走り出しながら叫んだ。「村だ! 村が見えたよ! やったー!」
フィンの叫び声は、純粋な喜びと、そして、安堵の感情を表していた。
村の入り口に近づくと、日に照らされた畑で、一人の農民が黙々と農作業をしているのが見えた。彼は、深くかぶった麦わら帽子で顔の半分を隠し、土にまみれた手で、年季の入った鍬を力強く振るっていた。その姿は、まるで大地そのものに根を張ったかのように、力強く、そして、どこか哀愁を帯びていた。
霊夢たちは、警戒されないように、ゆっくりと、そして、静かに農民に近づき、声をかけることにした。
霊夢は、できるだけ穏やかで、親しみを込めた声で話しかけた。「あのー、すみません! 少し、お話を聞かせてもらっても良いですか?」
霊夢の声は、夕暮れの静けさの中に、優しく響いた。
農民は、霊夢の声に気づき、まるで石像のようにピタリと動きを止めた。そして、ゆっくりと鍬を地面に置き、重い腰を上げ、顔を上げた。
最初は、警戒心と、そして、長年の苦労によって刻まれた深い皺が刻まれた顔に、硬い表情を浮かべていた。しかし、霊夢たちの姿を、麦わら帽子の陰からじっくりと観察すると、その表情は、ほんの僅かだけ和らいだ。だが、それでも、彼の瞳の奥には、拭い去れない不安と、警戒の色が、濃く残っていた。
農民は、低い、そして、少し嗄れた声で尋ねた。「……あんたたちは、旅の人かい? …こんな、何もない辺鄙な場所に、一体何の用だ…?」
その声には、警戒心と、そして、諦めに似た感情が、滲み出ていた。彼は、この村に、何か良いことが起こるなどとは、もう長い間、信じていないようだった。
霊夢は、農民の警戒心を解こうと、精一杯の笑顔を作り、優しく微笑みながら答えた。「ええ、まあ、旅人…みたいなものです。実は、この近くに村があると聞いて、やって来たんです。…もしかして、ここが、その村でしょうか?」
霊夢の言葉は、慎重に、そして、相手を刺激しないように、ゆっくりと紡がれた。
農民は、小さく頷きながら答えた。「……ああ、ここが〇〇村だ。…だが、あんたたちみたいに、小綺麗な格好をした旅人が来るなんて、珍しいな。…それも、こんな物騒な時期に…。」
農民の言葉には、皮肉と、そして、諦めが混じっていた。彼は、この村に、希望などない、とでも言うように、重い口調で続けた。
魔理沙は、農民の言葉に、少し苛立ちを感じながらも、それを抑え、尋ねた。「物騒な時期…? 何かあったのか?」
魔理沙の言葉は、短く、そして、核心を突いていた。
農民は、魔理沙の問いかけに、一瞬、言葉を詰まらせた。そして、まるで重い荷物を背負うように、深く息を吐き出し、顔を曇らせながら答えた。「……まあ、色々とな。…この辺りじゃ、最近、モンスターの出現が、以前にも増して酷くなってるんだ。…それに、最近は、村人たちの間で、変な噂も流れてるしな…。」
農民の言葉は、まるで、この村が、絶望の淵に立たされていることを、物語っているかのようだった。
妖夢は、農民の言葉に、不安を感じながらも、さらに詳しく尋ねた。「変な噂、ですか? …よろしければ、詳しく教えていただけませんか?」
妖夢の言葉は、優しく、そして、相手に寄り添うような響きを持っていた。
農民は、妖夢の問いかけに、一瞬、躊躇するような表情を見せた。しかし、すぐに、諦めたように、ゆっくりと話し始めた。「……ああ、…どうせ、遅かれ早かれ、知ることになるだろうからな。…この世界を支配している、暗黒竜…エンダードラゴンのことだよ。…最近、奴の力が、ますます強まっているとか、…近いうちに、もっと恐ろしいモンスターが、この辺りに現れるとか…、そんな噂が広まっててな…。村人たちは皆、不安と恐怖に怯えながら、毎日を過ごしてるんだ…。」
農民の言葉は、重く、そして、絶望的だった。彼は、まるで、この村に、もう未来はない、とでも言うように、力なく呟いた。
霊夢は、農民の言葉を聞きながら、内心で深く頷いた。やはり、この世界は、エンダードラゴンの支配によって、深刻な影響を受けている。そして、その影響は、この小さな村にも、確実に及んでいるのだ。
霊夢は、農民の重苦しい話を聞き、何か力になれることはないかと、言葉を続けた。「実は、私たち、少し道に迷ってしまって……。もしよろしければ、この村のこと、少し教えていただけませんか? それと、この辺りで、安全に休める場所とか、食料が手に入る場所とか、ご存知でしたら……。」
霊夢の言葉は、控えめながらも、切実な願いを込めていた。
農民は、霊夢の言葉を聞きながら、まるで値踏みをするかのように、じっと彼女たちの顔を見つめた。最初は警戒の色を濃く残していたその表情が、時間の経過とともに、徐々に変化していく。まるで、凍りついていた心が、ゆっくりと溶け始めるかのように。そして、何か…、心の奥底に眠っていた記憶、あるいは、希望の光が、再び灯り始めたかのように、彼の瞳に、微かな光が宿り始めた。
農民は、しばらくの間、口ごもり、言葉を探していた。まるで、長い間、誰にも話すことのなかった秘密を、打ち明けるかのように。そして、震える声で、ゆっくりと、しかし、確信を込めて言った。「……あんたたち……、もしかして……、もしかすると……。」
彼は、霊夢、魔理沙、妖夢の顔を、順番に、まるで何かを確認するかのように見つめた。そして、彼女たちの背後に控えている、三匹のオオカミたち──ルーク、ガロン、フィンに、視線を移した。その瞬間、彼の瞳に、驚きと、そして、希望の光が、はっきりと灯った。
「……まさか……、そんなことが……。いや、しかし……。あんたたちが、…預言に書かれていた……。」
農民の声は、震え、そして、上ずっていた。それは、長年、信じることを諦めていた希望が、突如として目の前に現れたことへの、戸惑いと、興奮の表れだった。
霊夢は、農民の言葉に、そして、その表情の変化に、何が起こっているのか理解できず、少し戸惑いながら尋ねた。「預言、ですか? …預言って、一体、何のことでしょう…?」
霊夢の問いかけに、農民は、まるで夢から覚めたかのように、ハッとした表情を浮かべた。そして、興奮した様子で、身を乗り出しながら、早口で答えた。「ああ! 間違いない! …この村に古くから伝わる預言に、そう書かれていたんだ! …闇が世界を覆う時、三人の勇者と、彼らに付き従う三匹のオオカミが現れ、世界を救う、と…! まさに、あんたたちのことじゃないか!」
農民の言葉は、まるで、長年待ち望んでいた奇跡が、ついに現実のものとなったことを、告げているかのようだった。
魔理沙は、突然の展開に、驚きを隠せず、目を大きく見開きながら言った。「え、マジかよ!? それって、あの森で見つけた、あの古ぼけた本に書いてあった、預言のことか!?」
魔理沙の言葉は、信じられない、という気持ちと、そして、微かな興奮を、表していた。
妖夢も、驚きのあまり、言葉を失っていたが、やがて、ハッとしたように呟いた。「……まさか、本当に、そんな預言があったなんて……。信じられません……。」
妖夢の言葉は、驚きと、そして、自分たちが、何か大きな運命に巻き込まれていることを、予感させるものだった。
ルーク(白オオカミ)は、静かに、しかし、確信を込めて頷きながら言った。「……どうやら、あの預言の書は、単なるおとぎ話ではなく、真実を語っていたようだ。…我々を、この村に導いたのは、運命だったのかもしれない。」
ルークの言葉は、冷静ながらも、どこか神秘的な響きを持っていた。
ガロン(黒オオカミ)は、冷静に状況を見守りながら、何も言わなかった。しかし、彼の瞳の奥には、微かな光が宿っていた。
フィン(灰オオカミ)は、興奮のあまり、尻尾を激しく振り、まるで子供のように、喜びを全身で表現していた。
農民は、さらに興奮を募らせ、まるで子供のように、目を輝かせながら叫んだ。「やっぱり! やっぱり、あんたたちだったんだ! 村長様も、ずっと、ずっと、勇者様が現れるのを、心待ちにしていたんだ! さあ、さあ、早く! 早く村長様のところへ! きっと、村長様も、大喜びで、あんたたちを歓迎してくれるはずだ!」
農民は、そう言うと、手に持っていた鍬を、まるで不要な荷物のように、その場に放り出し、霊夢たちを村の中心部へと、早足で案内し始めた。
彼の表情は、先ほどまでの、警戒心と絶望に満ちたものから一変し、希望と、喜びに満ち溢れていた。まるで、暗闇の中に、突如として差し込んだ、一筋の光を見つけたかのように。
「さあ、こちらへ! 村長様は、村の中心にある、一番大きな家にいらっしゃる! きっと、あんたたちに、色々なことを教えてくれるはずだ!」
興奮冷めやらぬ農民に導かれ、霊夢たちは、まるで時代劇のセットに迷い込んだかのような、古き良き村の中へと足を踏み入れた。
村人たちは、最初こそ珍しそうに、そして、どこか警戒するような目で霊夢たちを見ていた。しかし、先導する農民が、身振り手振りを交え、大声で何かを告げると、皆、一様に驚きの表情を浮かべ、そして、次の瞬間には、まるで祭りの始まりを告げる歓声のような、喜びの声を上げた。その表情は、暗闇の中に灯された希望の光のように、明るく輝いていた。
村の中心には、他の家々よりも一回り、いや、二回りも大きな、立派な木造の家が、まるで村全体を見守るかのように、堂々と建っていた。年季の入った木材は、長い年月を経て、深い飴色に変化し、その表面には、無数の傷や、補修の跡が見て取れる。それは、まるで、この村の歴史を、そのまま体現しているかのようだった。
農民は、その家の前に立ち止まり、まるで宝物を見せるかのように、誇らしげな表情で霊夢たちに言った。「ここが、村長様の家だ。…私が、村長様に話を通してくるから、あんたたちは、ここで少し待っていてくれ。」
農民は、そう言うと、まるで吸い込まれるように、重厚な木の扉を軽く叩き、家の中へと入っていった。
霊夢たちは、村長との対面を前に、期待と、そして、僅かな緊張を感じながら、静かにその時を待つことにした。
村長の家の奥、薄暗い廊下を抜けた先に、広々とした大広間があった。そこは、まるで、この家が、ただの住居ではないことを、静かに物語っているかのようだった。
部屋には、広い縁側があり、そこから、手入れの行き届いた庭が見渡せる。重厚な木製の机が、部屋の中央に、まるで王座のように鎮座し、その後ろの壁一面には、先祖代々伝わるものだろうか、古びた家宝や武具が、整然と飾られていた。使い込まれた漆塗りの棚には、無数の書物や巻物が、まるで図書館のように並べられ、長い年月を経てきたことを物語っている。
窓から差し込む夕暮れの光は、部屋全体を柔らかく包み込み、静謐ながらも、どこか荘厳な、そして、神聖な雰囲気さえ醸し出していた。長い年月を経た木材の温もりと、窓の外の荒廃した世界とは対照的な、穏やかな安らぎが、そこには満ちていた。
しばらくの、静寂とも呼べる時間が流れた後、重々しい足音が、廊下に響き渡った。そして、古びた、しかし、威厳に満ちた木の扉が、ゆっくりと、まるで歴史の重みを感じさせるかのように開かれた。
そこから現れたのは、白髪交じりで、背筋の伸びた、威厳ある姿の村長だった。深く刻まれた皺は、彼の人生の年輪を物語り、その眼差しは、深い知恵と、数々の伝説、そして、この村の長い歴史を見届けてきたかのような、静かな光を湛えていた。
村長は、まるで古代の王が謁見を許すかのように、静かに、そして、ゆっくりと歩み寄り、霊夢たち一行を、その深く、そして、優しい眼差しで見つめた。彼の姿は、この村の歴史と、そこに生きる人々の運命を、一身に背負っているかのように、重厚で、そして、威厳に満ちていた。
村長は、木目の深い、年季の入った机の前に、ゆっくりと腰を下ろした。そして、まるで儀式を始めるかのように、深く息を吸い込み、静かに、そして、重々しく語り始めた。
「ようこそ、遠き地より来られし、勇者たちよ。……長き時を経て、ついに、待望の時が訪れたのだ。……ここに集いしは、まさしく、古き預言に記されし、『三人の勇者と、三匹の忠実なる相棒』の姿であろう。」
村長は、そう言うと、まるで宝物を取り出すかのように、慎重に、古びた書物を机の上に広げた。その表面には、長い年月を経て色褪せた文字や、不思議な模様が、びっしりと書き込まれている。その書物は、まるで、それ自体が意思を持ち、静かに呼吸をしているかのように、微かな光を放っているように見えた。
「この古き書物に記された言葉は、単なる物語ではない。遠い昔、この地に確かに存在した、預言の証左なのだ。『暗黒の時代、邪悪なる竜の力が、世界を覆い尽くさんとする時、異世界より三人の勇者、そして彼らを支える三匹の忠実なる獣が現れん。勇者たちは、深き絆で結ばれし心と、失われた古代の力を解き放ち、世界に真の平和をもたらすであろう』。…これは、我々村人に、代々語り継がれてきた、希望の預言なのだ。」
村長は、まるで古代の魔法を詠唱するかのように、ゆっくりと、そして厳かに、古びた書物の一節を読み上げた。その声は、低く、静かでありながらも、不思議な力強さを持ち、まるで遠い過去の記憶を呼び起こすかのように、大広間全体に、静かに、しかし深く響き渡った。
「そして……」
村長は、一瞬、言葉を切り、まるで重い扉を開けるかのように、深い沈黙を挟んだ。そして、鋭い、しかし、どこか温かい眼差しで、霊夢たち一行を、一人一人、ゆっくりと見渡した。
「もしも、あんたたちが、真に預言に示されし勇者であるならば、…この村の北にある、古の遺跡…その中心に眠る、二本の伝説のトライデントを、岩盤より抜き出すことができるはずだ。あのトライデントこそ、この地に長きにわたり封印されてきた、邪悪なる力を完全に解放するための鍵…。そして、世界の未来を決定づける、究極の試練の証なのだ。」
村長の言葉は、まるで雷鳴のように、霊夢の胸に深く響き、心臓は、まるで警鐘のように激しく高鳴った。魔理沙と妖夢もまた、互いに顔を見合わせ、言葉には出さないものの、決意と不安、そして、微かな興奮が入り混じった、複雑な感情を共有しているようだった。
忠実なる三匹のオオカミ──ルークは、静かなる闘志を燃やし、ガロンは、冷静沈着な態度を崩さず、そして、好奇心旺盛なフィンは、微かに身震いしながらも、皆、鋭い眼差しで村長の言葉を受け止め、静かなる覚悟を、その佇まいで示していた。
村長は、まるで歴史の重みを背負うかのように、ゆっくりと立ち上がり、さらに言葉を続けた。
「伝説によれば、あの二本のトライデントは、かつて、この大地に降り注いだ流星のように、古の遺跡の岩盤に、深く、深く突き刺さっているという。その強大すぎる力を、正しき心の持ち主以外が引き出せば、世界は再び、暗黒竜の支配する闇へと堕ちてしまう…。しかし、真に勇者の資格を持つ者が、その力を解放すれば、邪悪なる暗黒竜の呪縛を打ち破り、世界に光を取り戻し、未来への新たな道を拓くことができるだろう。…だが、忘れてはならない。これを成し遂げるには、あんたたちの力だけでは足りない。…互いを信じ、支え合う、強固な絆と、何よりも、己自身の心の奥底にある、純粋な光…それが必要不可欠なのだ。試練は、想像を絶するほど厳しく、過酷なものとなるだろう。…失敗すれば、世界は、永遠に闇に閉ざされてしまうやもしれぬ。」
村長の話が進むにつれ、部屋に漂う空気は、一層重く、そして、張り詰めたものへと変化していった。それは、まるで、これから始まる試練の過酷さを、暗示しているかのようだった。
村長の言葉、一つ一つが、霊夢たちのこれまでの戦い、そして、これまで乗り越えてきた数々の苦難、失ったもの、そして、守り抜いてきたものを、走馬灯のように思い出させ、未来への希望とともに、新たなる使命感を、彼女たちの心に深く刻み込んでいく。
村長は、まるで遠い過去を懐かしむかのように、深い溜息をつき、静かに語った。
「我々の先祖は、かつて、あの試練を乗り越え、この地に、束の間の平和をもたらした。…しかし、時は流れ、世界は再び、闇に覆われようとしている。…邪悪な力は、何度滅ぼそうとも、形を変え、蘇るのだ。…もし、あんたたちが、あの試練を乗り越え、伝説のトライデントを、その手に掴むことができれば、…この大地に、再び希望の光が差し込み、未来は、大きく変わるであろう。」
霊夢は、村長の、厳かでありながらも、どこか温かみのある眼差しに、真っ向から見つめ返しながら、静かに、しかし、力強く頷いた。その瞳には、これまでの戦いで鍛え上げられた、揺るぎない決意と、そして、これから待ち受けるであろう、未知なる試練に対する、静かなる覚悟が、はっきりと宿っていた。
魔理沙は、片手に握りしめたネザライトの斧を、まるで己の決意の象徴であるかのように、しっかりと抱えながら、静かに闘志を燃やしていた。妖夢もまた、両手に持つ二刀の重みを、まるで己の使命の重みであるかのように感じながら、静かに、そして、深く呼吸を整えていた。
ルーク、ガロン、フィンといった、言葉を持たぬ仲間たちも、それぞれが、心の中で、この新たな試練に立ち向かう覚悟を決め、静かに、しかし、力強く、村長の言葉に耳を傾けているように見えた。
村長は、再び、古びた書物に目を落とし、まるで祈りを捧げるかのように、静かに言葉を紡いだ。「伝説のトライデントは、この村の北…、古の森の奥深くに存在する、忘れ去られし遺跡…その中心に、安置されていると伝えられている。…あの場所は、邪悪な力によって封印され、数百年もの間、誰一人として近づくことのできなかった、禁断の聖域だ。…しかし、預言に示されし勇者たちであれば、必ずや、その封印を破り、隠された力を引き出すことができるはずだ。…だが、忘れてはならない。試練の中には、己自身の心の闇…弱さ、迷い、恐怖…、そういったものと、真っ向から向き合い、打ち勝たねばならぬ瞬間が、必ず訪れる。…お前たちが、その心の闇に打ち勝ち、己の真の力を、最大限に発揮できるかどうか…それが、この世界の未来を、大きく左右するのだ。」
村長の言葉は、まるで、太古の昔から響き渡る、預言のこだまのように、大広間に静かに響き渡り、霊夢たち全員の心に、深く、深く刻み込まれた。部屋の中に漂う静謐な空気と、窓から差し込む夕暮れの光が、まるで、これから始まる新たな伝説の幕開けを、静かに祝福しているかのようだった。