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第三話 エリートスケルトンと剣の一撃

満腹になった霊夢たちは、温かい焚火の火を囲み、再び、預言の書を手に取った。先程までの騒がしさは嘘のように、静寂があたりを包み込む。燃え盛る炎の音、パチパチと爆ぜる薪の音だけが、静かな夜の森に響き渡る。


魔理沙は本の表紙を指でなぞりながら、独り言のように呟いた。「結局、この本は一体、何なんだ? 誰が何のために書いたんだか、さっぱり、見当もつかないぜ。」


妖夢は真剣な眼差しで本を見つめ、確信を込めた口調で言った。「でも、やっぱり、この内容、私たちのことが書かれてるとしか、思えませんね。三人の勇者、三匹のオオカミ……、偶然、と言うには、あまりにも符合しすぎている、と思います。」


ルーク(白オオカミ)は静かに頷き、重みのある声で肯定した。「確かに……。三人の勇者と三匹のオオカミ……。予言に書かれている内容と、お前たち、そして俺たちの状況は……、あまりにも一致している。否定する理由は見当たらない。」


ガロン(黒オオカミ)は冷静な視点から、核心を突くように言った。「だが、問題はそこじゃない。本当に、重要なのは……、“なぜ”、お前たちがこの世界に召喚されたのか、だ。」


霊夢は預言の書の一節を思い起こすように、ゆっくりと言葉を紡いだ。「……この本には……、“世界が闇に包まれる時、勇者が現れる”、って書いてあったね。」


魔理沙は顎に手を当て、考え込むように唸った。「つまり、この世界は今、“闇に包まれかけてる”、ってことか? エンダードラゴンに支配されてるって状況も……、無関係じゃなさそうだな。」


妖夢は二人の言葉を繋ぎ合わせ、結論を導き出すように言った。「エンダードラゴンが支配している世界……。そして、預言の書……。……つまり、私たちはこの世界を救うため……、その使命を果たすために召喚された……、ということになるんでしょうか……?」


霊夢たちは再び、互いに顔を見合わせた。信じられない、けれど、否定もできない。預言の書、オオカミたちの言葉、そして、自分たちの置かれた、奇妙な状況。全てが一本の線で繋がり始める、そんな、予感が胸をよぎった。


フィン(灰オオカミ)は無邪気な瞳を輝かせ、興奮気味に身を乗り出した。「ボクたち……、運命の戦士ってこと!? なんか、カッコイイね! ワクワクしてきた!」


霊夢はフィンの言葉に苦笑いを浮かべ、冷静さを保つように言った。「運命の戦士、か……。そんな大層なものじゃないと思うけど……。でも、偶然、と言うには、あまりにも出来すぎてる。何か……、私たちはこの世界と、深い、繋がりがあるのかもしれないね。」


ルークは静かに頷き、重々しい声で言った。「お前たちが召喚された理由……。それを知るためには、この世界をもっと、深く、調べる必要があるだろう。」


ガロンはルークの言葉を受けて、具体的な行動を提案した。「まずは、情報を集めるべきだな。人に話を聞き、書物を探し、この世界の歴史や現状を把握する。それが、最初の一歩だ。」


魔理沙は立ち上がり、両手をパンと叩き、いつもの調子で宣言した。「よし、決まりだ! 明日は拠点を作りつつ、この世界のことをもっと、色々、調べてみようぜ! 面白そうな場所とか、色々、ありそうだしな!」


霊夢たちは互いに頷き、意思を確認し合った。預言の書の謎、召喚された理由、そして、エンダードラゴンの支配する世界……。解き明かすべき謎は山積みだが、今はまだ、何もかもが手探り状態だ。だが、確実に、何かが……、動き始めている、そんな、確信が胸にあった。


霊夢たちは作業台の横に腰を下ろし、燃え盛る焚火の火をじっと見つめながら、今日の出来事を静かに、振り返った。異世界への召喚、オオカミたちとの出会い、預言の書、そして、エンチャント金リンゴの木……。信じられないことばかりが起こった、濃密な一日だった。


食料を確保し、預言の書の謎について話し合った霊夢たちは、明日の行動を決定した。拠点を作るのではなく……、人の情報を求めて……、村を探すことに決めた。


しかし、空を見上げると……、既に太陽は西に傾き、森は徐々に……、夕闇に包まれ始めていた──。


魔理沙はネザライトの斧を肩に担ぎ、夜の帳が降り始めた森を見渡し、どこか逸る気持ちを抑えきれないように言った。「さて、そろそろ出発、といくか。」


妖夢は不安げに空を見上げ、周囲の木々の影が濃くなり始めた森に視線を彷徨わせた。「で、でも……、夜に移動するのって、やっぱり危険じゃないでしょうか……? モンスターが活発になるって……。」


ルーク(白オオカミ)は冷静に状況を分析し、頷きながら言った。「確かに夜はモンスターの活動が活発になる。特に、村を探すとなると、開けた場所を移動する必要が出てくる。道中で敵に遭遇する可能性は……、昼間よりも遥かに高いだろう。」


ガロン(黒オオカミ)は反論するように、低い唸り声で言った。「だが、この場所に留まっていても、安全とは言い切れない。焚火の煙や匂いは、遠くのモンスターを引き寄せる可能性もある。どこに隠れていても、結局……、見つかる時は見つかる、ということだ。」


フィン(灰オオカミ)は尻尾をピンと立て、元気よく吠えた。「だったら、じっとしているよりも、移動しながら戦う方がマシだよ! ボクたち、強いもん!」


霊夢たちは互いに顔を見合わせ、僅かに頷きあった。決意を固めたように、荷物を背負い直し、夜の森へと足を踏み出した。昼間の明るさは消え、森は闇に包まれ、木々のシルエットは黒い牙のように尖り、まるで巨大な怪物の群れのように迫ってくる。月明かりはなく、星の光だけが僅かに道を照らす、心細い夜道だった。


その時──


「グォォォ……!」


森の静寂を切り裂くように、不気味な唸り声が響き渡った。闇の奥から響く、地の底から這い上がってくるような、おぞましい……、咆哮。


直後、森の木々の間から、無数の赤い光が点滅し始めた。ゾンビ、スケルトン、クリーパー……、闇に潜んでいたモンスターたちが、まるで呼応するように、次々と姿を現したのだ。蠢く影、うごめく屍、不気味な笑い声……、平和だった昼間の森は一変、一瞬にして化け物たちの棲家へと姿を変えた。


霊夢はネザライトの剣を抜き放ち、静かに、しかし確実に戦闘態勢に入った。「……来たね。」


魔理沙はニヤリと笑い、ネザライトの斧を振り回し、豪快に叫んだ。「モンスターの夜のパーティー、というわけか! 上等じゃねぇか! こっちも手土産、たっぷり用意してきたんだ! さあ、派手に暴れるぞ!」


妖夢は二刀を静かに構え、凛とした表情で言い放った。「戦闘準備、完了しました。……いつでも、行けます。」


ゾンビの群れが怒涛のように襲いかかってくる。腐肉の臭い、蠢く手足、虚ろな眼……、悪夢が具現化したような光景。しかし、霊夢は動じない。ネザライトの剣を軽く、しかし……、力強く振り払った、その瞬間──


ザシュッ!!!


閃光が走り、衝撃波が爆発したかのような錯覚。ネザライトの剣から放たれた一撃は、目に見えない力場を生み出し、薙ぎ払われた軌跡上にいた数体のゾンビを、まとめて……、文字通り……、吹き飛ばした。ゾンビたちは悲鳴を上げる間もなく、バラバラに四散し、地面に転がり落ちる。


霊夢は剣先に付着した僅かな血を払い、涼しげな表情で呟いた。「ふっ、さすがの火力だね。ネザライト装備、伊達じゃないってわけだ。」


魔理沙も負けじとばかりにネザライトの斧を振り回し、スケルトンの群れに突進した。渾身の力を込めた一撃は、スケルトンの骨を粉砕し、鉄と骨がぶつかり合う、凄まじい音を響き渡らせる。スケルトンたちは悲鳴を上げ、次々に叩き伏せられていく。


妖夢は持ち前の剣術を活かし、素早く、優雅に舞いながら、ゾンビとスケルトンの間を駆け抜け、二刀を閃かせた。研ぎ澄まされた刃は正確に敵の急所を捉え、最小限の動きで最大限の効果を発揮する。ゾンビたちは首を刎ねられ、スケルトンたちは骨を断ち割られ、次々と倒れていく。


妖夢は剣を鞘に納めながら、驚嘆の声で言った。「一撃で倒せるとは……。この装備、本当にすごいですね! まるで夢みたい……。」


ルーク、ガロン、フィンも黙ってはいない。オオカミならではの鋭い牙と爪を武器に、モンスターの群れに果敢に飛び込み、加勢する。牙はゾンビの喉を掻き裂き、爪はスケルトンの骨を砕き、怒涛の如く……、次々とモンスターを撃退していく。


フィン(灰オオカミ)は興奮した様子で叫んだ。「やったー! もうほとんど……、倒しちゃったよ! ボクたち、最強だね!」


確かに、霊夢たちの圧倒的な力の前に、モンスターたちは為す術もなく、次々と倒れ伏していく。ゾンビの群れは崩壊し、スケルトンの軍勢は壊滅寸前。勝利は目前……、そう、誰もが……、確信しかけた、その時──


しかし──その時。



倒れ伏すモンスターたちの屍を見下ろし、勝利を確信しかけた霊夢たちの耳に、新たな足音が届いた。他のモンスターたちの軽快な音とは異なり、重く鈍い、しかし確実に近づいてくる、威圧感を孕んだ足音だった。


音の発生源は森の奥深く。闇の中から、ゆっくりと、一体のスケルトンが姿を現した。


その瞬間、霊夢たちは息を呑んだ。現れたスケルトンは、先ほどまで戦っていた雑多なスケルトンたちとは明らかに異質で、佇みや雰囲気、纏う空気すべてが格違いだった。体は煤のように黒ずみ、骨はまるで鉄のように硬く、鎧は磨き上げられた黒曜石のように重厚で威圧感を放っている。手に持つ弓は黒曜石と金で装飾され、刃こぼれ一つない鋭利な矢が用意されていた。そして何より、異様だったのはその眼窩に灯る赤い炎――まるで地獄の業火が宿っているかのように、妖しく燃え盛る双眸であった。


ルークは低く唸りながら警戒を強め、つぶやいた。


「……まずいな。」


ガロンも重々しく頷き、震える声で言った。


「……エリートスケルトンか。」


妖夢は戸惑いながら問い返した。


「エリートスケルトン……ですか?」


ルークは緊張した面持ちで頷き、説明を始めた。


「これはただのスケルトンとは違う。特殊な力を持つ上位個体だ。戦闘能力、魔力、知能、すべてが桁違いで、生半可な武器では傷一つ付けることすら容易ではない。」


魔理沙は怯むことなく、不敵な笑みを浮かべながらネザライトの斧を握り直し、声を上げた。


「へぇ、面白そうじゃねぇか。手応えのありそうな相手、大歓迎だぜ!」


エリートスケルトンはゆっくりと弓を構え、狙いを定める。その動作は緩やかだが、放たれる気迫は尋常ではなく、まるで死神が鎌を振るうかのような絶対的な威圧感を放っていた。


シュッ!!


弦が震え、矢が放たれる。矢は光を帯び、一直線に霊夢へと飛んでくる。普通の矢とは明らかに威力が異なり、空気を切り裂き、風を巻き起こし、まるで意思を持つかのように正確に急所を狙っていた。


霊夢は冷静に飛来する矢を見据え、体を僅かに傾け、紙一重で回避した。


「……でも、こっちにはネザライト装備があるんだよな。」


霊夢は余裕の笑みを浮かべながら地面を蹴り、矢の軌跡を追うように一気にエリートスケルトンへ向かって跳躍した。空中で体勢を立て直し、剣を構え、一言。


「えいっ!」


刹那──


ザシュッ!!!


金属が擦れる音、肉が斬り裂かれる音、骨が砕ける音――すべてが同時に響いたかのように、時間が一瞬止まったかのような静寂が訪れた。


次の瞬間、エリートスケルトンの巨体はゆっくりと傾き、まるで糸の切れた人形や砂の城が崩れるかのように、真っ二つに両断された。


──たった一撃だった。


魔理沙は唖然とした表情で呟いた。


「あれ……?」


妖夢も信じられない様子で目を瞬かせた。


「……あっさり倒しましたね。」


エリートスケルトンは倒れる間際、赤い双眸を大きく見開き、信じ難いという驚愕の表情を浮かべていた。自分の身に何が起こったのか理解する暇もなかったのだろう。


フィン(灰オオカミ)は目をキラキラと輝かせ、歓喜の声を上げた。


「す、すごい……!! 霊夢、マジでかっこいい……!!」


ルークは驚愕を隠せず呟いた。


「……まさか……ここまで圧倒的とは。」


ガロンも信じられない様子で首を横に振りながら言った。


「俺たちが知っているエリートスケルトンは、こんな簡単に倒せるはずがない。いったい、何が起こったんだ……?」


その瞬間、エリートスケルトンの死体が地面に崩れ落ちたと同時に、森の奥深くから悲鳴にも似た叫び声が轟いた。周囲のモンスターたち―ゾンビ、スケルトン、クリーパー、蜘蛛―先ほどまで威勢の良かった彼らは、一斉に逃げ出し、まるで蜘蛛の子が散らばるかのように地響きを立てながら、悲鳴を上げ、逃げ惑った。


霊夢は呆然と立ち尽くし、何が起こったのか理解できず呟いた。


「……あれ……?」


魔理沙は逃げるモンスターたちを指差し、不思議そうに首をかしげた。


「あいつら……戦意を失ったのか? 一体、何があったんだ?」


妖夢は状況を推し量るように言った。


「もしかして……エリートスケルトンが、リーダーのような存在だったのかしら……?」


ルークは頷きながら納得した様子で呟いた。


「そうかもしれないな。エリートスケルトンを倒したことで、奴らの士気は完全に崩壊したんだろう。」


フィンは嬉しそうに跳び上がり、歓喜の声を上げた。


「すごーい! ボクたち、モンスターに勝っちゃった!! やったー!!」


霊夢たちは、モンスターたちが逃げ出す様子を見ながら、自分たちの圧倒的な力を実感した。ネザライト装備、リスポーンの祝福、そして預言の書――すべてが重なり合い、彼女たちを規格外の存在へと押し上げる。しかし、同時にこの世界の脅威もまた計り知れないという事実を、彼女たちはまだ知らなかった。

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