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第一話 始まり

「……ん……」


霊夢は、重たい瞼をゆっくりと持ち上げた。意識が戻るにつれて、全身にじんわりと倦怠感が広がってくる。ここは一体どこだろう。見慣れない草の香り、頬を撫でるそよ風。そして、目の前に広がるのは、今まで見たことのない奇妙な景色だった。


「あれ……? 私、外にいる……?」


ぼんやりとした視界をこすりながら、霊夢はゆっくりと体を起こす。周囲を見渡すと、まるで積み木を重ねたかのように四角い木々が生い茂る森が目に飛び込んできた。葉一枚一枚も、幹の表面も、どこかカクカクとした幾何学的な形状をしている。


「四角い木……? もしかして、ここは……マイクラの世界……?」


突拍子もない考えが頭をよぎる。ありえないと思いながらも、目の前の光景はあまりにもゲームの世界観と一致していた。


その時、どこからともなく聞こえてきた慣れた声に、霊夢は振り返る。そこには、腕組みをして太い木の幹に寄りかかる魔理沙がいた。彼女もまた、周囲の景色をじっと見つめ、どこか戸惑った様子で考え込んでいる。


「魔理沙……? 一体、ここは……」


霊夢の問いかけより先に、背後から控えめな声が聞こえた。


「あの……霊夢さん、魔理沙さん。ここは一体……?」


振り返ると、不安そうな表情で立つ妖夢がいた。彼女もまた、異様な景色に気づき、落ち着かない様子で辺りを見回している。


「森っぽいですけど……なんだか、様子が普段と違う気がしますね。」


妖夢は眉をひそめ、指先で目の前の木に触れて確かめるように呟いた。


「あれ……? この木も、地面も、全部……四角い……?」


魔理沙は腕組みを解いてゆっくりと立ち上がり、静かに頷いた。


「どうやら、ここは普通の森じゃないみたいだな。まるで、ゲームの中に迷い込んだみたいだ。」


霊夢は自分の服装に目を落とす。いつもの博麗神社の巫女装束だが、よく見ると袖口や裾のラインが、まるでドット絵のように角ばっている。


「え……? もしかして、私たち……ドット絵みたいになってるの……?」


霊夢の言葉に、魔理沙は自分の腕をじっと見つめ、顎に手を当てながら苦笑いする。


「言われてみれば……そんな気もするな。」


妖夢は少しためらいながらも、自分の頬をつねってみると、痛みが走った。


「……痛い。夢じゃないみたいです。」


三人は顔を見合わせ、深い戸惑いを共有する。こんな奇妙で四角い世界――夢ではなく、リアルな感触を伴う現実。一体、何が起こっているのか。


その時、彼女たちの目の前に唐突に現れたのは、無造作に置かれた木製のチェストだった。


「え……? なんでこんなところにチェストが……?」


霊夢は警戒心を抱きながらも、興味に駆られてチェストに近づく。


「誰かが置いたのかしら? こんな場所にわざわざ……」

魔理沙もまた、不自然なチェストの存在に疑問を呈する。


「なんだか、不気味ですね……」

と、妖夢は少し身をすくめながらチェストを見つめる。


意を決した霊夢は、チェストの蓋をそっと開ける。中には、数枚の紙が折り畳んで入っており、そのうちの一枚を取り出し、声に出して読む。


「『この世界は、暗黒竜(エンダードラゴン)とそのモンスターたちに支配されている』……え? 何これ……?」


紙に記された衝撃的な言葉は、まるで物語のプロローグのように、彼女たちを非日常へと引き込む始まりの合図だった。


魔理沙は腕組みをしながら顎を撫で、「ふむ……まるで物語の幕開けみたいだな」と呟く。


妖夢は不安げに周囲を見渡しながら、「この紙は、一体誰が書いたんでしょう?」と尋ねる。


三人が互いの困惑を確かめ合っていると、不意に背後から複数の低い声が重なって響いた。


「……お前たち……」


「……え?」


驚いて振り返ると、そこに立っていたのは、三匹のオオカミだった。純白、漆黒、そして灰色がかった毛並みのオオカミたち。だが、彼らはただのオオカミではなかった。


「……オオカミが……喋ってる……?」


霊夢は信じられない様子で、三匹のオオカミを見つめる。魔理沙は目を丸くして交互に見比べ、言葉を失う。妖夢は驚きのあまり、三匹のオオカミの前で小さく後ずさる。


確かに、そこに現れたのは、言葉を話すオオカミたちだった――。


三匹のオオカミは、まるで示し合わせたように、ゆっくりと霊夢たちに近づいてきた。先頭に立ったのは、純白の毛並みが月光を浴びて輝く、威厳のあるオオカミだった。彼は胸を張り、自信に満ちた声で、まるで騎士が名乗りを上げるかのように言った。


オオカミ(白)「俺の名はルーク。この世界に住まう者だ。」


続いて、漆黒の毛並みを持つ二匹目のオオカミが、低い唸り声のような声で、重々しく言葉を紡いだ。


オオカミ(黒)「……ガロン、だ。」


最後に、灰色がかった毛並みの、ひときわ小柄なオオカミが、短い尻尾をピクピクと振りながら、元気いっぱいの声で名乗りを上げた。


オオカミ(灰)「ボクはフィン! よろしくね!」


突然の自己紹介に、霊夢、魔理沙、妖夢の三人は、完全に言葉を失っていた。思考が追いつかない、とはまさにこのことだろう。しかし、ルークと名乗った白いオオカミは、三人の困惑など気にも留めず、泰然とした態度で話を続けた。


ルーク「お前たちがどこから来たのかは知らんが、おそらく……この世界に召喚されたのだろう。」


魔理沙はようやく口を開き、驚きと疑問が入り混じった声で問い返した。「召喚……? 一体、誰にだよ?」


ガロンは重々しく頷き、低い声で答えた。「それは……我々にも分からん。だが、お前たちはこの世界で生き抜かねばならん。そして……戦うことになるだろう。」


妖夢は不安げに眉をひそめ、おずおずと尋ねた。「戦う……、と、仰いますと……?」


フィンは無邪気な笑顔を浮かべ、尻尾をパタパタさせながら言った。「うん! だって、この世界はとっても危険なんだもん!」


ルークは鋭い視線を霊夢たちに向け、確信を持って言った。「お前たち……チェストを開けたな?」


霊夢はハッとして、もう一度チェストの中を覗き込んだ。先程は紙に気を取られていたが、改めて中身を見ると、確かに、見慣れない、異様な輝きを放つ装備が鎮座していた。


ネザライトのヘルメット(ダメージ軽減20)

ネザライトの剣(ダメージ増加10)

ネザライトの斧(ダメージ増加10、効率強化100)

ネザライトのツルハシ(効率強化100)

ネザライトのシャベル(効率強化100)


魔理沙はチェストの中身を見るなり、目を丸くして叫んだ。「なんだこのエンチャント!? ありえないレベルじゃねぇか! おいおい、マジかよ……!」


妖夢は信じられないといった表情で、ネザライト装備を見つめ、戸惑いを隠せない声で呟いた。「こんな……強力な装備……。一体、私たちに何をさせるおつもりなんでしょうか……?」


ガロンは重々しく頷き、静かに、しかし力強く言った。「その装備は、お前たちがこの世界で生き残るため、そして……戦い抜くためのものだ。」


霊夢は意を決したように、ネザライトの剣を手に取り、軽く宙を斬ってみた。ひんやりとした金属の感触が手に伝わる。ゲームで見た無機質な剣のイメージとは異なり、妙に手にしっくりと馴染む感覚があった。


霊夢はネザライトの剣をまじまじと見つめ、確信を込めた口調で問いかけた。「……つまり、この世界はゲームなんかじゃなくて、本物の現実ってこと……?」


ルークは静かに、しかし力強く頷いた。「その通りだ。」


そして、重い口を開き、核心を語り始めた。


ルーク「この世界は……暗黒竜、エンダードラゴンによって支配されている。」


その言葉に、三人同時に息を呑んだ。衝撃が静かに、しかし確実に、彼女たちの心を締め付ける。


ガロンは低い唸り声のような声で、重々しく語り始めた。「元々、この世界は平和だった。人間、様々な種族が、互いに助け合い、穏やかに暮らしていた……。だが、ある時、突然、エンダードラゴンが現れ、世界を蹂躙し始めたのだ。」


妖夢は青ざめた表情で、震える声で問い返した。「エンダードラゴン……、が……?」


フィンは俯き、悲しげな表情で小さな声を添えた。「うん……。そしてね、ゾンビ、スケルトン、クリーパー、エンダーマン……、おそろしいモンスターたちが、いっぱい、いっぱい増えちゃったんだ……。」


魔理沙は顔をしかめ、焦燥感を滲ませた声で尋ねた。「じゃあ、村は……? 人は、どうなったんだ?」


ルークは悲痛な表情を浮かべ、重い口調で答えた。「村は……ほとんど壊滅した。炎に焼かれ、モンスターに蹂躙され、廃墟と化した場所も多い。生き残った者たちは……、僅かに残された森や山奥、あるいは……空に浮かぶ土地へと、逃げ延びるしかなかった。」


妖夢は希望を探すように、かすかな声で問いかけた。「……地下には、隠れられなかったんですか?」


ガロンは首を横に振り、冷酷な現実を突きつけた。「地下は……もっと危険だ。暗闇にモンスターが巣食い、地上よりも遥かに危険な場所と化した。夜と地下は、この世界で最も……、死に近い場所だ。」


霊夢は腕組みをし、沈黙したまま深く考え込んだ。重苦しい沈黙が、森を静かに包み込む。


やがて、霊夢は顔を上げ、どこか諦めと覚悟が混ざったような表情で、問いかけるように言った。「……なるほどね。つまり、私たちはこの世界に訳も分からず放り込まれて……、どうにかして、そのエンダードラゴンってのを倒せ、ってこと……?」


ルークは力強く頷いた。「そういうことだ。」


霊夢はふっと自嘲気味に笑い、ネザライトの剣をキュッと握り直した。その表情には、迷いは微塵も感じられない。


霊夢「まあ、異変解決はいつものことだしね。今更、怖いとか言っても始まらないか。……やるしかない、ってことだ。」


魔理沙はニヤリと笑い、いつもの自信を取り戻したように言った。「マイクラの世界でサバイバル……、悪くないじゃないか。むしろ、ちょっと……楽しそうだな!」


その軽い調子に、ルークは僅かに眉をひそめ、今までの穏やかな表情から一変、鋭く、真剣な眼差しを霊夢たちに向けた。


ルークは、言葉を区切るように、ゆっくりと、しかし重々しく言った。


「……ただし、お前たちには一つだけ、この世界の祝福が与えられている。」


霊夢は怪訝そうに眉をひそめ、問い返す。


「祝福……ですか?」


その瞬間、フィンはぱっと表情を輝かせ、無邪気な笑顔で元気よく言った。


「そう! リスポーンができるんだよ!」


妖夢は目を丸くし、信じられない様子でルークに視線を向けた。


「えっ……リスポーン、ですか? わ、私たちが、死んでも生き返る、と……?」


ルークは静かに頷いた。


「ああ。この世界では、本来リスポーンという概念は存在しない。死は絶対で、一度生命を失えば二度と蘇ることはない。だが、お前たちは例外だ。」


魔理沙は腕を組み、顎に手を当てながら考え込むように呟いた。


「……どうして、私たちだけが特別なんだ?」


ガロンは重々しく頷き、深い意味を含んだ低い声で答えた。


「おそらく……この世界が、『お前たちを必要としている』からだろう。」


霊夢、魔理沙、妖夢の三人は、ルークの言葉の意味を必死に理解しようと努めた。リスポーン、すなわち死からの復活――ゲームのシステムでは馴染み深いものだが、現実の体験となると、途端にその実感は薄れる。


霊夢は自問自答するように、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「……つまり、私たちは倒されても何度でも復活できる……。でも、それって、ある意味、すごく大きな意味を持つってことだよね……。」


妖夢は希望に満ちた表情で、少し浮かれた様子で尋ねた。


「じゃあ……死ぬのが怖くないってことですか?」


ルークは妖夢の言葉を遮るように、冷たく、釘を刺すような厳しい口調で言った。


「甘く見るな。この世界での死は、想像を絶するほどの苦痛を伴う。肉体は引き裂かれ、魂は焼き焦がされるような耐え難い絶望と苦悶を味わうことになるだろう。そして、リスポーンできるとはいえ、何度でも無制限に復活できるわけではない。」


三人はルークの言葉に息を呑み、顔色を青ざめさせた。祝福と希望に満ちた響きを持つ「リスポーン」という言葉の裏側に隠された、真実の重さを理解した瞬間だった。


魔理沙はゴクリと唾を飲み込み、重い口を開いた。


「……なるほどな。無限じゃないってことか。回数制限があるってことか……。」


ルークたちオオカミ三匹は、静かに、深く頷いた。肯定でもあり、警告でもあり、そして激励でもある複雑な意味合いを含んだ沈黙が広がる中、ルークは再び顔を上げ、決意を新たにした強い眼差しで三人を見据えた。


「お前たちの目的は、まず生き残ること。そして、力をつけ、エンダードラゴンの支配からこの世界を解放することだ。」


三人は互いに顔を見合わせ、言葉を交わさずとも、心は一つになった。覚悟、決意、そして僅かな希望。


魔理沙はにやりと笑い、いつもの調子を取り戻すかのように言った。


「よし、まずは拠点作りだな。安全な寝床と、物資を保管する場所が必要だ。」


霊夢は空を見上げ、夕焼けが迫っているのに気づく。焦燥感が胸を駆り立てる。


「モンスターは夜になると凶暴化する。数も増える……急がないと、日が暮れてしまう。」


妖夢は真剣な表情で問いかけた。


「ところで……食料はどうするんですか? この世界でどうやって食べ物を手に入れるのか……。」


フィンはにこっと無邪気に笑い、希望に満ちた声で返した。


「そこから学ぶんだよ!」


魔理沙は腕をまくり、気合を入れたように続ける。


「さて、とりあえず……腹ごしらえだな。食料を集めないと、何も始まらない。」


妖夢は不安げに森の奥を見つめ、小さく呟いた。


「野生の動物とか……いますかね……?」


ルーク(白オオカミ)は落ち着いた声で答える。


「この世界にも、牛や羊、鶏などの動物はいる。ただし、モンスターの影響で数は少ないだろう。」


ガロン(黒オオカミ)は低い声で注意を促した。


「狩りをするなら、静かに動け。大きな音を立てると、モンスターが寄ってくるぞ。」


フィン(灰オオカミ)は希望を込めて言った。


「でも、運が良ければ、野生の作物も見つかるかもね!」


霊夢たちはうなずき、食料を求めて森の中へと足を踏み出した。これが、生存のための第一歩。少女たちとオオカミたちによる、長く険しい異世界サバイバルの幕が、今、静かに開けたのだった。

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