第十四話 ポーションと練習
どうやってここまで?
激しい戦いの後、霊夢たちは村へと戻り、束の間の休息を取っていた。村人たちは、勇者たちの帰還を心から喜び、温かい食事と寝床を提供してくれた。夜空には満月が輝き、村は静けさに包まれている。
魔理沙は、村の一室を借りて、エンチャントとポーションの研究に没頭していた。テーブルの上には、村人から譲り受けたネザーウォートや、様々な素材、そして、彼女が愛用する魔法書が、所狭しと並べられている。彼女は、時折、鋭い眼差しで素材を観察し、またある時は、魔法書を熱心に読みふけり、試行錯誤を繰り返していた。部屋の中には、魔法薬の独特な香りと、魔力を含んだ空気が漂っている。
妖夢は、村の鍛冶屋を訪ねていた。激しい戦いで傷ついた二刀を、熟練の鍛冶職人に丁寧に修理してもらっているのだ。鍛冶屋は、寡黙ながらも確かな腕を持つ職人で、妖夢の刀を、まるで自分の体の一部のように、大切に扱っていた。炉の炎が、妖夢の刀身を赤く染め上げ、職人の槌音が、静かな工房に響き渡る。
一方、霊夢は、特にすることもなく、村の中をぶらぶらと散歩していた。戦いの疲れは、エンチャント金リンゴによって癒されたものの、まだ、心身ともに、どこか落ち着かない気分だったのだ。
そして、霊夢は、ふと、魔理沙が研究をしている部屋の前を通りかかった。部屋の中からは、魔理沙の独り言と、何やら怪しげな実験をしている音が聞こえてくる。霊夢は、少しだけ、興味をそそられ、部屋の扉をノックした。
「魔理沙、入るわよー」
霊夢は、返事を待たずに、部屋の中に入った。部屋の中は、魔理沙が作り出した、様々な魔法薬の匂いが充満しており、そして、テーブルの上には、見たこともないような色の液体が入った、フラスコや試験管が、ずらりと並べられていた。
「お、霊夢か。どうしたんだ? こんな時間に」
魔理沙は、霊夢の姿を認めると、少し驚いたような表情を浮かべた。しかし、すぐに、彼女は、いつものように、ニヤリと笑って、霊夢に話しかけた。
「別に、ただの暇つぶしよ。それより、魔理沙、何してるの? また、何か、変なものを作ってるんじゃないでしょうね?」
霊夢は、魔理沙の研究内容に、半ば呆れ、半ば興味津々の様子で、尋ねた。
「変なものって言うなよ。これは、エンチャントとポーションの研究だ。この世界で生き残るためには、必要なことだろ?」
魔理沙は、そう言いながら、テーブルの上に並べられた、様々な色のポーションを、自慢げに見せた。
霊夢は、そのポーションを、興味深そうに眺めていた。その中でも、特に彼女の目を引いたのは、ひときわ美しい、虹色に輝くポーションだった。そのポーションは、まるで宝石のように、キラキラと輝いており、そして、何とも言えない、良い香りを放っていた。
「へえ、これがポーションなの? すごく綺麗ね…」
霊夢は、そのポーションに、すっかり魅了されてしまった。そして、彼女は、無意識のうちに、そのポーションに、手を伸ばしていた。
「ちょっと、霊夢! それは…!」
魔理沙は、霊夢の行動に、慌てて制止しようとした。しかし、時すでに遅し。霊夢は、そのポーションを、手に取り、そして、一口、飲んでしまったのだ。
「…!? な、何よ、これ…?」
霊夢は、ポーションを飲んだ瞬間、全身に、様々な感覚が、駆け巡るのを感じた。体が、宙に浮くような感覚。視界が、歪んで見える感覚。そして、何とも言えない、奇妙な高揚感。
「ちょ、ちょっと、霊夢! 大丈夫か!?」
魔理沙は、霊夢の異変に、焦りの表情を浮かべながら、彼女に駆け寄った。
「…わ、わからない…何だか、体が…変…」
霊夢は、混乱した様子で、そう言った。彼女の体は、目まぐるしく変化していく。
肌は、様々な色に変化し、目は、真っ暗になり、そして、耳からは、聞いたこともないような音が、聞こえてくる。彼女の体は、まるで、別の生き物に、なってしまったかのようだった。
「だ、大丈夫じゃないわね、これ…! 魔理沙、一体、何のポーションを飲ませたのよ!?」
霊夢は、怒りと、そして、不安が入り混じった声で、魔理沙に詰め寄った。
魔理沙は、困惑した表情で、ポーションのラベルを確認した。そして、彼女は、信じられないといった様子で、呟いた。
「こ、これは…試作品のポーションで…効果は、衝撃吸収、不吉な予感、盲目、コンジットパワー、暗闇、イルカの好意、火炎耐性、発光、採掘速度上昇、村の英雄、空腹、透明化、跳躍力上昇、浮遊、採掘速度低下、吐き気、暗視、毒、再生能力、耐性、落下速度低下、移動速度低下、移動速度上昇、攻撃力上昇、水中呼吸、弱体化、衰弱…の、はずなんだが…」
魔理沙は、ポーションの効果を、一つ一つ、確認しながら、言葉を失った。そのポーションは、様々な効果を持つ、実験的なポーションだったのだ。そして、その効果は、全て同時に発動し、そして、10秒間続くはずだった。
「…って、多すぎるわよ! 何なのよ、これ! 一体、どうなっちゃうの!?」
霊夢は、魔理沙の説明を聞いて、さらに混乱した。彼女は、自分の体が、これからどうなってしまうのか、全く予測できなかった。
「ま、まあ、落ち着けって、霊夢。効果は、10秒しか続かないはずだ。…多分、大丈夫だって…」
魔理沙は、そう言いながらも、その声は、どこか自信なさげだった。
「多分って何よ! 責任取りなさいよ!」
霊夢は、怒りながら、魔理沙を睨みつけた。しかし、その時、彼女の体は、再び、変化を始めた。
今度は、彼女の体が、突然、透明になり、そして、次の瞬間には、彼女の体は、地面から、フワリと浮き上がったのだ。
「きゃあああああ! な、何よ、これええええ!?」
霊夢は、突然の出来事に、悲鳴を上げた。彼女は、自分が、透明になり、そして、宙に浮いていることに、強い恐怖を感じていた。
「…と、とにかく、10秒待てば、元に戻るはずだ…! それまで、我慢しろ…!」
魔理沙は、そう言いながらも、その表情は、明らかに動揺していた。彼は、まさか、自分の作ったポーションが、こんな騒動を引き起こすとは、夢にも思っていなかったのだ。
そして、霊夢の体は、その後も、目まぐるしく変化を続けた。体が、光ったり、暗くなったり、大きくなったり、小さくなったり…。
霊夢は、その度に、悲鳴を上げ、魔理沙は、ただ、オロオロとするばかりだった。
そして、10秒後…
ついに、ポーションの効果が、完全に消えた。霊夢の体は、元の姿に戻り、そして、彼女は、地面に、ドスンと落ちた。
「…も、もう…何なのよ、これ…!」
霊夢は、地面に座り込み、涙目で、魔理沙を睨みつけた。彼女は、全身が、ガタガタと震えており、そして、心臓は、まだ、ドキドキと、激しく鼓動していた。
魔理沙は、霊夢の様子を見て、申し訳なさそうに、頭を下げた。
「す、すまん、霊夢…。まさか、こんなことになるとは…。」
「…全く、もう! 興味本位で、変なものを、飲んだりしないことね!」
霊夢は、怒りながら、魔理沙に、強く言い聞かせた。そして、彼女は、二度と、魔理沙の作ったポーションには、手を出さないことを、心に誓ったのだった。
その後、霊夢は、魔理沙に、今回の騒動について、たっぷりと説教をした。そして、魔理沙は、霊夢に、何度も、何度も、謝罪したのだった。
こうして、霊夢と魔理沙の、ドタバタな一夜は、幕を閉じた。しかし、この一件は、二人の絆を、さらに深めることになったのかもしれない。
霊夢の一件から一夜明け、村には再び穏やかな朝が訪れた。鳥のさえずりが響き渡り、朝日に照らされた村は、活気に満ち溢れている。しかし、霊夢たちの心には、昨夜の戦いの記憶が、まだ鮮明に残っていた。
練習
魔理沙は、昨夜の反省を活かし、新たな武器の開発に没頭していた。彼女の工房には、様々な素材や道具が散乱し、まるで錬金術師の研究室のような雰囲気を醸し出している。
「ふふふ、今度は失敗しないぞ…!」
魔理沙は、そう呟きながら、試作品のポーションを、慎重に調合していく。彼女の狙いは、ポーションの効果を矢に付与し、遠距離からでも敵に様々な状態異常を与えられる、強力な武器を作り出すことだった。
彼女は、様々なポーションを組み合わせ、試行錯誤を繰り返した。そして、ついに、彼女は、満足のいく、効能付きの矢を完成させた。その矢は、先端に特殊な加工が施されており、矢じりには、様々な色のポーションが、染み込ませてある。
妖夢は、村の広場で、鍛冶屋に修理してもらったばかりの愛刀を手に、黙々と素振りを繰り返していた。彼女の動きは、まるで舞を舞っているかのように、流れるようで、そして、力強い。
彼女は、まず、深呼吸をし、精神を統一する。そして、ゆっくりと、愛刀を鞘から抜き放った。刀身は、朝日に照らされ、鋭く輝いている。
妖夢は、愛刀を構え、そして、力強く、地面に置かれた藁の俵に向かって、斬りかかった。
スパァァァン!
彼女の剣は、まるで風のように、素早く、そして正確に、俵を両断した。切り口は、滑らかで、まるで、水面のように、美しい。
妖夢は、その切り口を、満足げに眺めると、再び、素振りを始めた。彼女の剣は、空気を切り裂き、風の音を奏でる。そして、彼女の体は、まるで、剣と一体化したかのように、自然に、そして、力強く、動いていた。
その頃、魔理沙は、完成したばかりの効能付きの矢を試すため、村外れの空き地へと向かっていた。彼女は、糸と棒を使って、即席の弓をクラフトし、そして、その弓に、効能付きの矢を番えた。
「さて、どれほどの威力があるか、試してみるか…!」
魔理沙は、そう呟きながら、弓を構え、そして、空き地に置かれた藁の俵を、狙いを定めた。彼女は、深呼吸をし、そして、一気に、弓を引いた。
シュッ!
矢は、まるで閃光のように、空を駆け抜け、そして、俵に命中した。その瞬間、矢じりに染み込ませてあったポーションが、弾け飛び、周囲に、様々な効果を発揮した。
俵は、突然、燃え上がったり、凍りついたり、あるいは、毒々しい色の煙を上げたりと、様々な状態変化を起こした。そして、最終的には、バラバラに崩れ落ちてしまった。
「よし! 成功だ!」
魔理沙は、その結果に、満足げに頷いた。彼女の作った効能付きの矢は、予想以上の効果を発揮したのだ。
その時、魔理沙の背後から、声が聞こえた。
「…おや、旅の方。何やら、面白いことをしているようですね。」
振り返ると、そこには、一人の村人が立っていた。彼は、穏やかな表情を浮かべながら、魔理沙の行動を、興味深そうに眺めていた。
「…ああ、あんたは、この村の人か?」
魔理沙は、村人に、そう尋ねた。
「ええ、そうです。私は、この村で、農業を営んでいる者です。…しかし、なぜ、あなたは、藁の俵を相手に、戦う練習をしているのですか? 何か、特別な理由でもあるのですか?」
村人は、不思議そうに、魔理沙に尋ねた。
魔理沙は、少し考えた後、昨夜の出来事を、村人に話すことにした。彼女は、ゾルクというミュータントゾンビが現れ、村を襲おうとしたこと、そして、自分たちが、それを撃退したことを、詳しく説明した。
村人は、魔理沙の話を、真剣な表情で聞いていた。そして、彼は、話を聞き終えると、深く息を吐き、そして、重々しく言った。
「…なるほど、そのようなことが…。それは、大変でしたね。しかし、あなた方のおかげで、村は救われた。本当に、感謝しております。」
村人は、魔理沙に、深く頭を下げた。
「…しかし、ゾルクというミュータントゾンビが現れたということは、この村は、まだ、危険な状態にあるということかもしれません。」
村人は、そう言うと、何かを決意したかのように、顔を上げた。
「…旅の方々。あなた方にお願いがあります。どうか、この村を守るために、力を貸していただけないでしょうか? …私には、あなた方に、何かお礼をできるような力はありません。しかし、この村に伝わる、ある秘密を、お教えすることができます。」
村人は、そう言うと、霊夢たちを、村の奥深くへと案内した。そして、彼は、村の守り神として、長年、祀られてきた、古い祠の前で、足を止めた。
「…この祠には、この村に古くから伝わる、ある秘密が隠されています。それは、…アイアンゴーレムの作り方です。」
村人は、そう言うと、祠の扉を開けた。中には、古びた書物と、いくつかの材料が置かれていた。
「アイアンゴーレム…それは、鉄の体を持つ、巨大な守護者。村に危機が迫った時、アイアンゴーレムは、その強大な力で、村を守ってくれるでしょう。」
村人は、書物を手に取り、霊夢たちに、アイアンゴーレムの作り方を、詳しく説明した。
「…アイアンゴーレムを作るには、鉄ブロックと、くり抜かれたカボチャが必要です。これらを集め、そして、特定の方法で組み合わせることで、アイアンゴーレムは、誕生します。」
村人は、そう言うと、祠の奥から、鉄ブロックと、くり抜かれたカボチャを取り出し、霊夢たちに、手渡した。
「…これらは、私たちが、長年、大切に保管してきたものです。どうか、これらを使って、アイアンゴーレムを作り、そして、この村を守ってください。」
霊夢たちは、村人の言葉に、深く心を動かされた。そして、彼女たちは、村を守るために、アイアンゴーレムを作ることを、決意したのだった。