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第六十九話 災害の避難民

 スメラ国のクリスは、ミモザ騎士団に一時的に入れてもらい、ジェンダーの人たちに「最年少」として可愛がってもらっている。


 ナーガ川の水害、そしてガナム山の山崩れから逃げてきた人々が、城の宴会場や会議室にテントで生活している。


 街では仮設住宅の建設が始まった。大工仕事もしたことがある、というミモザ騎士団副団長でトランス女性のティナが、仮設住宅建設を手際よく進めている。長い栗色の髪をお団子にまとめて、作業着で仕事をしているティナも美しい。


 ミモザ騎士団の最年長、七十歳のマリーは東洋の主食の米を丸めて「おにぎり」をたくさん作って避難所に配った。クリスも食べさせてもらった。塩と米の旨味がぎゅっと一塊になっていて、美味しい。手軽に食べられて一度にたくさん作ることができるおにぎりは良い発明だ。


「みんなー! お城の庭で鬼ごっこしよう!」


 額に無限星の印がある男の子が、子供たちに声をかけた。キキレイロウからきた王子のフーオだ。彼の誘いに子供たちが集まっていく。


「それっ、庭までもかけっこだよ!」


 フーオは掛け声をかけると、子供たちがはしゃいで廊下へ飛び出していく。

 廊下を走るな、と思いつつ彼の底抜けな明るさは子供たちの癒しだ。街では災害募金も募っており「額に星がある子」としてすっかり有名人だ。


「るんったった、るんったった。今日も元気なアンヌちゃんですっ。魔法のスペシャル畑に行きたい人ー、おいでなさぁい」


 麦わら帽子を被ったアンヌがスキップしてやってきた。


 村の人たちは農家の人がほとんどだ。避難所でじっとしているより、元の生活の農作業をしている方が落ち着く、という人が多い。


「おはよう、アンヌ」

「畑の様子が楽しみだなぁ」

「魔法の畑というのは本当にすごい、一晩でトマトが実るとは」


 落ち込んでいた人の顔に活気が戻る。


 村がいつ復興されるかわからない、さらに龍の攻撃という危機にさらされている。

 家と家財を失った人々の傷は深いだろう。


 ナーガ川の水害からは村人全員が助かったが、ガナム山の救助は間に合わず、村の半数以上の人が亡くなった。その遺骸を掘り起こす作業に騎士団が向かっている。龍の出現までに全員の遺体を見つけなければならない。


 赤ん坊の泣き声がした。


「おー、よしよし。ハリス、ハリスちゃん」


 元騎士団長の妻、ヘレナがテントから出てきて、赤ん坊を抱いて廊下に出る。そこからのっそりと、髪の毛がぐしゃぐしゃのリディアが出てきた。ガナム山の救助に向かった彼女は「避難民が気になる」と避難所で生活をしている。


「ハリス、どうしたの?」


 リディアがハリスの顔を覗き込んでいう。ハリスの母は生き埋めで死んだ。おくるみにハリスと刺繍がされていて、赤ん坊は男の子で生後六か月だとわかった。ヘレナはハリスを養子にすると決めている。


「クリス、子供たちは?」


 リディアが聞いてきた。


「フーオが遊びに連れて行きました」


「またあの子か。城内教室を避難民の子供たちにも解放しようと思うの。教育係のイーモンドさんが協力してくれることになったわ。クリス、あなたも子供たちに勉強を教えてくれる?」


 リディアが乱れた髪を結びなおしながら言った。


「はい。ぜひ、私にできることならなんでもやります」


 クリスは即答した。


「助かるわ。これ、遅くなってごめんね。ミモザ騎士団のブローチよ」


 リディアがエプロンのポケットから、ブローチを出してクリスに渡した。金色い石が金色の軸にいくつもついている、真鍮の緑の葉がついたミモザ騎士団のブローチだ。


「これ…………私はこの国の者ではないのに、もらっていいんですか?」


「当たり前じゃない。あなたは避難所でよく働いてくれているもの。私たちは仲間よ。アイラが龍討伐に向かう間、三官女が女王代行をすることになったの。私は忙しくてここに来れるのは夜だけになる。あなたがここにいてくれることが、とても心強いわ」


 リディアが微笑む。クリスは受け取ったブローチをはぎゅっ握りしめた。スメラの王女から解放されて、人々の役に立つ仕事ができるのが嬉しい。


 龍討伐隊のメンバーが決まった。

 勇者アイラ隊は魔術協会のヒガラ、一級魔術師のヤグ、ミモザ騎士団団長ビリー、回復魔術が使えるローレライ。


 ライモ勇者隊はオー、騎士のラティス、魔術協会のダニアン、魔術医師のクイナ。


 出発前夜、討伐隊は避難所に来た。


「必ず龍を討伐し、みなさんの村を守ります」


 アイラが言った。銅の銀甲冑に赤いマント、高い位置で結んだポニーテールの彼女は勇者の風格を持っている。簡易な軍服で装飾品はないが、アイラの華やかさが勇気をくれる。


「そして一刻も早い復興を約束します」


 そう言ってライモは深々と頭を下げた。白いショートマント、グレーの編み上げのロングブーツ、腰に下げた銀色の剣の鞘は正義のためにふるわれる、という説得力が彼の優しい雰囲気から感じられた。


 アイラとライモは剣を交差させて誓った。


「お願いします。私たちはもう一度、あの村に戻りたい。一からすべてやり直す覚悟はあります」

「どうか我々の土地をお守りください」

「お願いします」


 人々の願いを聞いて、アイラとライモは剣を収めると、腰を低くして災害から逃げてきた人々と話し始めた。

 アイラとライモは、一人一人の苦しみから目をそらさなかった。


「大丈夫だからね。みんなを守るよ」


 子供たちに慕われているビリーが、しばしの別れに泣く子供を抱き上げてなぐさめた。金髪のショートカットで細身、少年のようなビリーだが十代の時に北の極寒の土地で、女性も入れる軍隊にいたことがある。そこで悲惨な戦争を経験し、二十五歳の今は平和のために戦うと誓っている。


「腰痛の薬、腹痛の薬、解熱剤。ここに薬を置いていきますから、使ってください。いいえ、お金はいりませんから」


 クイナはテントを回って、薬を渡している。


「ええ、二人は真の勇者ですよ。放浪の王と呼ばれていた俺はありとあらゆる英傑を見てきました。アイラとライモは間違いありません!」


 オーは聞かれてもいないが、大声で周りに言っている。


「クリスーーーしばらく離れ離れで寂しいけど、龍殺してみたいから行くなぁ」


 ヤグがクリスの頬にぺったりと柔らかい頬を押し付け、甘えた声で言った。


「はいはい。私はここで忙しく過ごす予定だから、ヤグがいなくても大丈夫。お互い、やれることを頑張ろ」


 クリスはヤグを抱きしめて言った。


「ヤグ。ちゃんとアイラ女王の言うこと聞くのよ。そしてもし少しでもイカルの気配を感じたら鳩で知らせて」


 クリスはイカルがこの機会を逃すはずはない、と予感している。スメラ国から逃亡したイカルが何か企んでいる、そして双龍出現の混乱に乗じてやってくるだろう。

 

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