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第六十八話 若鹿殺し

 イカル・スメラは手銃を構えた。

 森の中を若い鹿が走っている。

 つぶらな黒い瞳は何も疑うことなく、細い足は大地を力強く蹴って、胴体を躍動させている。

 イカルは狙いを定め、鹿の角の間を打った。


 火薬の臭いをイカルは吸い込んだ。

 鹿は四肢を動かして、死からもがいていた。イカルは筒の底に黒い火薬をいれ、小石を詰めた。人差し指で炎を出して、火口にあてる。


 鹿の頭にもう一発、打った。動かなくなった鹿の角を、イカルは乱暴に抉りとる。


「これは実にいいな。この臭いが好きだ。これをもう二つ三つ、買って来い」


 イカルは手銃の持ち手に口づけをして、そばに控えていた海賊に金貨の入った袋を持たせた。


「かしこまりました」


 イカルの拷問により片手を失い目もつぶれさせられた男は、かつて船長だった男だ。

 今やイカルが屋敷を構えた無人島と船を行き来するただの使用人だ。海賊たちもイカルの世話をする下僕に成り下がった。


 スメラ国とアステール国の戦争をしたがっている奴らは、呆気なく捕まった。

 王を呪わせた叔母も全部は話してしまって、馬鹿ばかりだ。



 イカルは厳しい岩の城を建て、庭でペットを飼っている。


 トカゲを巨大にし、鷹の羽をつけたような巨大生物は、イカルを見ると大きく口をあける。イカルは魔物の骨を島で発見し、魔術で蘇らせた。イカルは魔術法律の「生物を作ってはならない」を十歳の時から破っている。


「よしよし、かわいいな。ジョーカー。ほれ、餌だ」


 魔物の口の中に鹿の肉を放り込む。

 熊ほどの大きさで、尖った耳と鋭い爪、長い尻尾の赤い目が三つある魔物がキィキィと鳴く。


「バンディ、ほれ」


 イカルは鹿の下半身ごと、バンディの前に投げる。バンディは長い牙でかじりつく。


 水中の中には巨大鮫のアブル、三つの首がある狼のカルビン、城の地下にはイカルが十歳の時に作った、凶悪な血吸いネズミがいる。


 イカルは一通りかわいい魔物たちに餌をやり、鼻歌をうたいながら岩の城に入る。厨房からは気に食わない匂いがする。


 イカルは大っ嫌いな玉ねぎを切っている海賊の頭を、煮えたぎった鍋のなかに押し込んだ。

 小柄な海賊は叫び声を上げた。


「物覚えの悪い奴は嫌いだ。さっさと肉を焼いて持ってこないと、おまえたちを撃つぞ!」


 イカルは銃を体が大きな男に向けた。ひえっと男は両手をあげる。


 イカルはニヤリと笑い、食堂に行く。

 一人専用の細長い大理石の食卓、中央には黒い薔薇を飾っている。灰色と黒のインテリアにこだわり、イカルは血の赤以外の色は城に持ち込ませない。


 慌てて海賊が持ってきた肉に、イカルはナイフを突き立てる。食事にスプーンもフォークもいらない。ナイフだけでいい、ナイフに刺さった肉を食うのが好きだ。


「ライモ…………美しく育った。あの肉をまた味わえると思うとたまらない。龍を倒すと誓った勇者…………かわいそうに。俺が助けてやるからな、運命だとか愛だとか、そんなものから俺が助けてやろう、一生、俺に組み敷かれていればいい」


 イカルは言って、笑う。


「そうだ、こうしよう。アイラ女王様を、ライモの前で殺してあげよう。その方がライモも未練などなくなる。そしてあの子は一生、黒いドレスで過ごす」


 イカルは食事を終えて、小躍りしながら二階のダンスホールに向かう。壁にはさまざまなデザインの黒いドレスがびっしりとかかっている。イカルはドレスの柔らかい素材を指先で楽しみながら、選ぶ。


 フリルがたっぷりついたドレスを引っ張って、指を鳴らしてライモの幻影を作り出す。ダンスホールの隅に座っていた男たちが慌てて立ち上がり、曲を奏でる。


 イカルは月光が差すダンスホールで、黒いドレスのライモの幻影と楽しく踊った。


 ※


 国会は「双龍対策委員会」に変わり、日夜記者や作戦を立てる騎士たちが忙しく行き交った。キキレイロウの援軍がきた。


 スメラの国王も自分の妹が王を呪ったことの償いをしたいと、全面的な協力をしてくれた。皮肉にもスメラ国の兵士が裏金で買っていた最新の武器が役に立つことになった。


 大砲という北の国から来た最新の武器を見たとき、ジーモンは怖気が走った。人が人を殺すために、こんな凝ったものを作ってしまうとは。制作した者はその費用と時間で人を救う物を作ろうと考えなかったのだろうか。


 アステールの城の地下から、魔術協会のフウカとレンゲが「龍のひげの剣」を見つけた。それは独裁王時代に、独裁王が好んでいたことから封印され、やがて忘れられて誰もどこにあるかわからなかった。


 銀の細く長い剣は、精度の高い検査結果で、銀でない不明の素材であるとわかった。


「これを、龍のひげの剣だと発表しましょう。たとえ偽物でも、こういう混乱の時期こそおとぎ話の遺物が、人々を魅了するものよ」


 アイラがジーモンを説得した。

 勇者アイラが選んだ剣、もうこれは龍の剣だ。


「それでは、僕は自分自身の剣を生み出します」


 ライモは含み笑いをした。


 記者が集まった国家で、アイラとライモは勇者の誓いをした。

 アイラがまず龍の剣を、議事堂の天井に掲げた。


「私、アイラは勇者として赤の龍を倒します。龍の急所は角と角の間です、この剣で私は貫きます」


 ライモは胸に手を当てて、うつ向いて顔を歪めた。体をそらして、ライモは胸から白い剣を取り出した。目を閉じて彼は少し唇をひらき、恍惚とした表情を浮かべる。

 ライモの口の端から、血が流れた。


「私、ライモは勇者として同じく龍を殺します。この剣は、僕の肋骨から作りました。命の剣です」


 アイラとライモが銀の剣を交差させた。

 どちらも人を殺さない、討つべき龍の額のみを狙う、荘厳な輝きを放っている。

 アイラがそっとライモの体を支える。

 なんと危ういことをするのだ、とジーモンはライモを見る目を震わせた。


 二人の堂々とした会見に、記者たちただ拍手をするしかない。

 若い二人の決意に息を飲んだ。

 

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