第五十九話 勝利
「続いて、医師たちの給与制度です。医師と看護師たちには国から給与を支給し、利益追求から解放します。命を守ることに専念できるよう、民間の利益追求から解放された医療を提供します。
また、医大と看護学校の補助金制度も導入します」
記者たちがペンを走らせる。クライブは鳥肌が立った。
「そして、医療機関不足の解消もただちに行います。まずは市立病院の設立、診療所開設の支援を行います。
生命は、すべて平等です。
命に、値札をつけさせない。
命を、誰にも見捨てさせない。
それが、私たちアステールの、未来です!
私の改案は以上です。質問、ご意見がある方はどうぞ」
女王が言い終えて、周囲を見る。
「はっ、文句のつけようがないねぇ。俺はこれでやっと、闇医者を辞められるってぇ訳だ。命を救ったら国が金をくれる、最高じゃねぇか」
キストラーは泣いていた。
「そうだ。これで私は…………すべての人に執刀できる。ただ、命を救うためだけに」
ハイムも泣いていた。
「俺も魔術研究は妹に任せて、訪問医療をやれるな。さすがアイラ女王だ、わかってくれていた。キストラー、ハイム、せめて国会出てから泣けよ」
後ろの席からハイムとキストラーの肩に手を置いて言ったクイナも、目を潤ませていた。
「質問があります」
貴族院で、中年の男が手を挙げた。
「はい、どうぞ。リスケ貴族議員」
ジーモンが発言を許可する。
「その財源はどこにあるのですか? 国民医療保険を払わない者にも医療を提供できるのですか?」
「その質問には、私が答えましょう」
セバスチャン大蔵大臣が手を挙げた。
「ご心配はご無用。財源はたっぷりあります。ほら、あの裏金騒動。流出した大金を私がすべて回収し、税金として納めました。おや、みなさん。ワインストン氏、ゴルドー氏のお屋敷が売りに出されたのをご存知ないのですね。
無駄な支出を省き、税金で国民の命を救いましょう。税金とは国民が生きるために払ったお金のことですよ」
笑いながらだが、セバスチャンの言葉には有無を言わさぬ力があった。
「そうだそうだ、おまえら仕事してない奴の給料減らして、国民を生かすことにお金使ったほうがいい。おまえたちもご自慢の屋敷に住み続けたかったら、ちゃんと仕事しろよ」
ライモが貴族院席に向かって言う。
「しかし、よかったよかった。この宮廷道化師ライモさまがいたから、裏金もすぐに見つけられて、全員から裏金回収して命を救うために使えるもんね。市立病院の名前は、ライモ病院にしてほしいよ」
ライモがけらけら笑う。
「ライモ、調子乗ってないで、こっちきなさい」
アイラに叱られて、「はーい」とライモが壇上に上がる。
「医師、看護師、そして国民のみなさん。今日はありがとう、そしてお疲れさまでした。皆さんの戦った姿を私は忘れません」
アイラが深々と、クライブたちに頭を下げた。
「ありがとう、アイラ女王!」
クララが立ち上がって叫ぶ。
「ありがとうございます、仕事、頑張ります!」
クライブも立ち上がって叫んだ。
拍手喝采の中、国会は終わった。
ただし、貴族院の中にはじっとりと、恨めしそうにその様子を見ている者がいた。
※
選挙の季節になった。
アイラは、選挙法改正を打ち出した。
「選挙権は十八歳以上の男女に与えられる。身分は問わない」
「立候補者は二十五歳以上の男女、身分は問わない」
「貴族制度の世襲制度の廃止。貴族も選挙活動をして投票により議員に選ばれること」
貴族の世襲廃止については、未だあがいている。
リディアの父がその一人だ。
久しぶりに服を取りに帰ったリディアは、父と遭遇してしまった。
「これ、絶縁状です。私も十八歳になりました。これからは自分の力で生きていきます。リディアという娘はいなかったものと思ってください」
リディアは離縁状を父に押し付けた。
「何を勝手なことを! 小娘一人でどうやって生きていくつもりだ」
「そうよ、リディア。あなたは世の中を甘く見ている。女一人で生きていけないのよ」
両親が前に立ち、引き止めにきた。
「誰が小娘ですって? あなたたちに頼るくらいなら、なんだってするわよ。あなたたちは娘のことを何一つ知らないのね。私はもう女王の家臣、三官女のリーダーよ」
リディアは両親を押し切って、屋敷を出た。
「お嬢様…………こりゃあ、大荷物ですなぁ。じいが、馬車で送りますよ」
玄関で、使用人のじいやが馬車をすでに用意してくれていた。
「ありがとう、じいや」
リディアはじいやに微笑み、三つのトランクを馬車に乗せた。
「まったく、ご主人も奥様もわかってねえべ。リディアお嬢様はえれぇ人だ。じいやはリディアお嬢様の活躍が楽しみで、メイドに新聞読んでもらっとるんだよ」
じいやが嬉しそうに話す。じいやだけは昔から、反抗して食事抜きにされたリディアにこっそりパンを届けてくれるなど、優しくしてくれた。乗馬と格闘技を教えてくれたのも、じいやだ。
白髪で白い髭のじいやだが、よく陽に焼けた顔には活気があり、足腰や腕にはまだ筋肉があり、昔は戦士だったという昔話に納得できる。
屋敷から城に行く途中、選挙の立候補者が演説をしているのを見かけた。
フェミニズム協会のカレンが立候補した。
リディアは応援演説、選挙活動で忙しい日々を送っている。大事なことの前だから家とはスッパリ縁を切ろうと決意してよかった。
「ありがと、じいや。健康にね。それから、選挙に行ってね。もし選挙用紙がなかったら、役所に行けばもらえるわ」
リディアが言うと、何度もじいやはうなずいた。
「お嬢さん、何かあればじいやを、このラウエー・マッチを頼ってっかぁさぃ」
ラウエーがそう言って背中を向けた時、うなじに、焼けた肌に白く浮かび上がっている無限の星を見つけた。
「じいや! あなたも無限星の印を持つ人だったのね」
リディアは引き止めて、前髪をかき分けて額の無限星の印を見せた。ラウエーがにっこり笑う。
「そうです。この国のお役に立つ一人です。ではまた、お嬢様」
「無限星の印、本当に108人、そろうかもしれない。早く、選挙活動に行かないと!」
トランクを書庫に放り込んでサニーを驚かせ、リディアは選挙啓発のチラシを印刷所に取りに行き、町行く人に配った。
「あなたの一票で、国が変わるんです!」
街頭でリディアは叫ぶ。




