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第五十一話 みんな存在するだけで愛されている

 戴冠式の舞台はすぐに片付けられ、誕生祭の楽団がやってきた。熱気さめやらぬ世界樹の広場で、人々が踊り出す。市場では誕生祭のごちそうと、お菓子が並んだ。


  フーオはいつまでも泣いているイーモンドと、キキレイロウ国の代表として、アイラ女王の祝辞の挨拶へ向かう。


 城の門は開かれ、今日は誰でも城に入ることができる。

 アイラ女王の王座の前には、すでに行列ができていた。


「ああ、私はまた泣いてしまいそうです。緊張もしてきました」


 ハンカチで顔をぬぐい、イーモンドがソワソワしだす。


「情緒不安定だなぁ。僕が挨拶するから、イーモンドは顔を伏せていなよ」


 見かねてフーオは言った。順番が回ってきた。


「キキレイロウの国の王子、フーオです! アイラ女王、戴冠を心よりお祝い申し上げます。偉大なる宣誓に立ち会えて光栄です。そしてお誕生日、おめでとうございます!」


 フーオははりきって言った。

 アイラ女王は驚いた表情から、満面の笑みを浮かべ、王座から立ち上がりフーオの手を握った。


「キキレイロウの王子、我が国アステールで留学していると聞きました。これからは城へも来てください。あなたの額にある無限星の印、あなたが奇跡を起こす印ですよ」


「はい、ありがとうございます! 僕はまだまだ勉強中ですが、この額の印を誇りに思っています。こちらは僕の教師のイーモンドです。恥ずかしがっていますが、彼も印を持つ一人で有能です」


「と、とんでもございません」


 イーモンドは耳まで真っ赤にしている。


「ええ、頼りにしていますよ。城の宴会場では、仮面舞踏会もやっています。お祭りも楽しんでいってね」


「はい! お祭り楽しんできます!」


 フーオはイーモンドと街に出た。

 今日しか食べられないお祭りの屋台を楽しむ。


「王冠クッキー、王冠クッキーです! あの美しき宮廷道化師ライモ氏が考えた、食べるとみんな特別になるクッキーだよ!」


 フーオはその呼び込みに惹かれて、王冠のアイシングクッキーを買った。


「ママ、見て! あたしの王冠はピンクのお花だよ!」

「パパ、僕の王冠、おっきいでしょ!」


 屋台の周りには、色あざやかで形も様々な王冠をつけた子供たちがたくさんいた。


 フーオが王冠のクッキーを食べると、月桂冠が黄金の王冠に変化した。満月のような石が真ん中にはめこまれている。


「おお、なんと。食べるだけで王冠が出現するとは。すごいですね、ライモ様は」


 イーモンドが感嘆して拍手をする。


「魔法のお菓子だ、すごいねぇ。イーモンドも食べたら?」


「いえ、私は恥ずかしいのでやめておきます」


「迷子のお知らせです! 黄色い服の五歳の坊ちゃんを迷子預かり所で預かっております」


 黄色いベストを着たミモザ騎士団が、呼びかけている。

 ミモザ騎士団は女性だけではなく、トランス女性やクィアの人たちも所属している、市民に寄り添う騎士団だ。


 フーオは焼き鳥やとうもろこし、ケバブ、アイスクリームと次々と食べた。さすが真ん中の国アステール、食べ物の種類も豊富だ。


「そんなに食べたら、お腹壊しますよ」


 イーモンドに注意され、フーオは食べ物の屋台から物品の屋台へと足を向けた。


「母上のお土産に、刺繍のお守りを買って帰ろう」


「そちらのお兄さん、それならばこれがオススメだよ。どんな濁った空気も一発で清浄する魔法の霧吹き。天然の薬草を使っているよ」


 声をかけてきたのは、分厚いレンズのメガネをかけた、黒いローブの女性だ。店の名前は「ヒガラの便利な魔法道具屋さん」


「へー、すごい! 一つください!」


 フーオは魔法の霧を買った。


「まいどあり。ふっふふふ、お客さんには特別にこちらもお見せしようかな。これは放浪の王オーと天才魔術師のヒガラがコラボしたアイテム、虫除けの霧だよ。これを使えばどんな虫も寄ってこない」


「買います!」


 イーモンドが叫んで、すぐに財布を出した。

 イーモンドは大の虫嫌いなのだ。


「なんとあなたは、素晴らしい魔術師さまですね。このアイディア商品はすべての虫嫌いを救います」


 イーモンドは絶賛して、赤いリボンがついた小瓶を大金で買い、胸に抱いた。


「ふふふ、まいどあり。お客さんに祝福を」


 ヒガラ魔術師が言うと、イーモンドのスーツが真っ黒から薄紫色に変化し。


「お客さんにはその色のほうが似合う」


「え、恥ずかしい!」


 イーモンドが赤面して路地裏に走って行ったので、フーオは追いかけた。


 ※


 魔術協会と平和連は久しぶりに合同した。


「会長、みんな楽しく踊っています」

「お店も賑やか。王冠を頭につけた子供たちが楽しそうです」


 フウカとレンゲが、バティストに教える。


「ええ、楽しい雰囲気が伝わってきます。みんな、存在するだけで愛されている。そのことにみんなが気づいている」


 バティストが言った。

 サダコとアンネは、りんご飴を食べている。

 ダニアンはワインを飲んで、すでに少し酔っている。


「いいねぇ、この賑やかな雰囲気、俺は好きだな」


 フレデリクは周りを見て、楽しそうに言った。


 遅れてきた平和連の書記ワンガリは感無量で言葉がまだ出てこない。


 ワンガリは十三歳の時、孤児院を抜け出してスリの仲間に入った。警察騎士団に捕まって、ジーモンの家に引き取られた。

 ジーモンはワンガリに衣食住を与えてくれて、自由をくれた。その日を生き延びるため悪事に手を染める生活から抜け出せた。読み書きを丁寧に教えられ、食事を作ってもらえる。親の愛を知らないワンガリはジーモンに特別扱いされることで、自然と更生して、大学を卒業後に平和連に入った。


 戴冠式でアイラ女王はもちろんのこと、ジーモンが宰相として堂々と立っている姿に胸を打たれた。


「この平和が長く続くよう、祈ろう。すべての命は尊い」


 オーガ・テレサがしみじみと言った。


「はい。俺は平和連の一員として誇りに思います」


 ワンガリは頷いて言った。


「どうでしょう? みんなでレストランに入って食事をしましょう」


 コダールが言った。そうしよう、と魔術協会と平和連は仲良く食事をした。

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