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第四十八話 裏金と戦争は許さない

 ヒガラがイカルの作った呪いのインクを解析し、「消毒霧」を作った。霧吹きの瓶にはドクロのマークがついているが、液体は無臭無着色。成分はクイナが持ち帰った薬草だ。


「奴の毒々しい存在を打ち消すには、この消毒霧だ」


 ヒガラが言って鉢植えのアロエに霧を吹きかける。するとアロエの表面はツヤツヤと輝き出した。


「ほら、すごいだろう。植物には栄養にもなる」


 ヒガラが鼻を鳴らして、自慢気に言う。


「おお、すごいな。それはわかった。だが、俺の留守の間に、診療所に地下を作るな!」


 クイナの寝室に、床が剥がされて地下へと続く階段ができていた。地下三階まである。ヒガラは魔術界で「モグラ」とも呼ばれている。いつも地下で魔術薬を作っているからだ。


「しばらく、兄さんと暮らす。嬉しいだろう? それに薬だって作ってやる。家賃分は働くぞ」


「いや、そうじゃなくて俺の了承を得てからにしろ、と言っているだろう。まったく、おまえは勝手ばかりして。魔術協会からの呼び出しも無視しただろう」


 実は「モグラ」は魔術協会の一員である。


「それは地下にもぐっていたから、気づかなかった」


「バティスト様に叱られるのは、俺なんだから!」


「あー…………兄さん、ジーモンさんに会いに行った方がいいぞ。久しぶりのデートでもしてくるがよかろう」


「話を逸らすな! まあ、もう掘ってしまったものは仕方ないか。そうだな、ジーモンに会いに行ってくる」


 クイナはため息をついて診療所を出た。

 ヒガラとは十歳までしか一緒にいなかった。クイナは子家に、ヒガラは高齢の魔術師に引き取られた。ヒガラの才能を魔術師は引き出してくれたが、人としてのしつけはされていない。


 久しぶりにジーモンを訪ねると、いきなり抱きつかれた。

 ジーモンからは疲労の匂いがした。


「見てくれ、私には足の裏に無限星の印があった」


 ジーモンが得意そうに言って、足の裏の無限星の印を見せてきた。触るとくすぐったいと言って足を引っ込める。


「あると思ったが、ここだったか。おまえらしいな。まあしかし、おまえは無限星の印があってもなくても、この国において重要な人物だ」


 クイナが言うと、ジーモンはうなずいて微笑んだ。


 ※


 アステールの夏は暑いが、国会議事堂は冷えている。

 ジーモンの手配で、貴族院よりも多い人数の記者が入っていた。席を取れなかった記者は立ち見で、鋭い目を大臣たちに向けている。


「エドワード陛下の入場です」


 ジーモンが告げると、黒い垂れ幕からエドワードが胸を張って出てきた。その後ろをライモが歩く。


 ライモが王のマントを踏んで立ち止まらせた。

 エドワードがのけぞって、手足をばたつかせる。観客席と記者席で笑いが起きたが、貴族院も衆議院も硬い表情のままだ。


「おっと、なんといたずらな道化師だ。足をどけないか」


 エドワードが言うが、ライモは足をどけない。


「せっかく大勢の記者が来てくれたんだ。おっさん、ちょっとみんなにいい顔をしておきなよ」


 ライモが軽口を叩く。


「そうだな。みなさん、よく来てくれました。私は今から懺悔します」


 王が記者たちに手を振るが、「懺悔」の言葉にざわつく。


「ライモや、王座に座らせてくれ。王として懺悔しなければいけない」


 ライモが足をどけた。

 エドワードは大股で歩き、王座に座った。


 エドワードの瞳には活気が戻っていた。

 議事堂を見回して、反応を見ている。


「私は病にかかっている時に、不正な書類に印をしてしまった。病にかかっていたと言い訳はできない。私の過失だ、申し訳がない。私がすべきことは、その書類を出した者に罰を下し、そして私も罰を受けることだ。カール・ワインストン防衛大臣、壇上へ」


 エドワードに指名されたワインストン防衛大臣は、垂れた頬を震わせた。

 記者たちの注目が集まる。


「おい、聞こえなかったか? エスコートしてやろうか? 嫌だけどね」


 ライモが壇上を指さして、ワインストンの顔を水晶で照らす。


「防衛大臣、壇上で王の質問に答えてください」


 ジーモンが命じると、ようやくワインストンは重そうな腰を上げて、壇上に上がった。


 白髪混じりの髪に、丸い肩。燕尾服の仕立てはいいが、それを着ている男はたるんだ頬と腹のだらしない容貌をしている。


「まずは私の身に起きたことについて、説明させていただく」


 エドワードが立ち上がり、記者席と観客席に体を向けた。


「私は元妻のキャリーから送られて来た手紙の封を開けてしまった。私が迂闊だった。なんとその手紙は魔術師が作った呪いのインクで書かれていたのだ。最初の手紙を受け取ってから頭がぼんやりしており、異変を感じた。次は手紙を受け取るまいと気をつけていたが、気がつくとキャリーからの手紙を読んでいた。いや、読まされていたのです。騎士団師団長、フランク・クレイが直接私に手紙を渡してきたのです。呪いをかけられた身となり、それを拒むことができなかった。情けない話です」


 エドワードが頭を垂れる。

 記者席がざわついた。


「それは王の責任ではありません。師団長フランク・クレイ氏。ワインストン氏と共に壇上で説明してください!」


 タスク・マウンテンが鋭く叫んだが、師団長フランクは国会議事堂の壁際でおろおろして、団長のゴドーを見つめている。


「さあ、まとめて二人、壇上へ来い。逃げられはしないぞ」


 ライモが杖を振りかざすと、無数の蝶が現れてゴドーとフランクを囲んで、壇上へと連れてきた。


「これで三大悪党の顔がそろったな。

 防衛大臣ワインストン。十年近く大臣の席に座っていやがる。最近はパーティーで毎晩飲んだくれ。仕事はどうもパッとしないが、騎士団には『よく訓練しろ』とハッパをかけている。

 騎士団長ゴドー。庶民から成り上がって、さらに甘い汁を吸って正義を忘れてしまっている。騎士団の青年たちには偉そうで、男らしく強くあれ、戦えと正論ぶってお説教。しかし妻には逃げられた。

 師団長、フランク。ああ、なぜにこうなった。王に呪いの手紙を渡したおまえの罪は重いぞ。思い上がって民の国家治安を忘れてしまい、置いてけぼりの正義感。

 さて、ここに並びました三人の顔。不正義衆と名付けましょう」


 ライモの口上に拍手が起きる。ライモはとびきりの笑顔を記者たちに向けた。


「師団長、フランク。王に渡した手紙の真実について話してください」


 ジーモンは青ざめているフランクに言った。

 長身で体格がよく騎士服が様になっているが、不正義衆の一員となった今は師団長の証である赤い腕章が滑稽だ。


「…………き、記憶にございません。私はただ、手紙を王に渡せと命令されただけです。団長ゴドーに聞いてください」


 フランクは俯いて言った。


「では団長ゴドー。手紙の詳細について知っていますか?」


 続けてジーモンは質問をする。


「知りません。私は無関係です」


 ゴドーは即答した。


「知らぬ存ぜぬを繰り返すなら、おまえたちがしたことを見せてやろう。まずは王を手紙で呪い、判断力を鈍らせた。そして王は捺印してはならない書類、不正な書類に捺印してしまった。

 ーーーセラフィム研究所。そこまで調べはついている!」


 ライモが杖を高く掲げると、議事堂の天井から金貨が降ってきた。大量の金貨が壇上に上がった三人の足元を埋め尽くし、一番後ろに立っていたフランクがよろけると、三人は倒れて金貨に埋もれていった。


「や、やめろ!」

「息ができない!」

「どけ、俺からどけ!」


 三人が叫び、金貨の山から出ようとする。


「嬉しいでしょ? おまえたちは人を騙してでも金が欲しかった。大好きな金貨だよ、もっと喜んでよ。

 裏金とは何ともうらめしいもの。うっかり悪事を考えて、嘘をついて金貨を懐に入れることに夢中になって、敬い申し上げていた大臣様、騎士団長様、師団長様は、道化師よりもうつけに成り下がり。

 皆の者、憂いたまえ。不正義衆たちのもがく姿をとくとご覧あれ。悪いことをすると、こうなっちまうよ」


 ライモがあざ笑う。

 金貨は不正義衆たちの上に降り積もって山となり、うめき声が聞こえてくる。


「おっといけない。ここで倒れられては困るな。

 ショーははじまったばかりなんだから」


 ライモは冷たい笑みを浮かべて、金貨を消して倒れている無様な三人を見つめた。

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