第四十七話 毒母に罰を、魔術協会との連隊
「お母様へ
お母様、お母さま。私はもうすぐ十八歳になります。
お母さまが復縁を望んでお父様に手紙を書いていらっしゃることを知ってしまいました。成人になる前にお母様に会って話がしたいです。アイラがお母様とお父様を復縁させてあげます。
アイラ」
この手紙はライモが代筆した。毒母に送る手紙を書くという苦痛な作業をアイラにさせたくなかった。まんまと手紙に釣られたキャリーは「いつでも城へおいでなさい」と返信してきた。
その通り、アイラと三官女とオーはスメラ国へ向かう。
「アイラ女王、オーはきっとあなたの役に立ちますよ」
ライモはそう言って、アイラを見送った。
「そんなこと言っていいの? 相変わらず素直じゃないのね」
レイサンダーが言う。
「いいんだよ。オーの魅力にアイラも気づけばいい。それよりレイサンダー、密偵、頑張れよ」
「わかっているわよ。陛下に呪いの手紙を渡したのは、師団長あたりよ」
レイサンダーはエドワード王の療養の警護を終えてすぐ、裏金に関わった騎士団員をあぶり出す作戦に就いた。「女っぽいオカマ」とレイサンダーを見下している騎士たちが焼きを入れられることだろう。
ライモはノラからの「裏金報告書」を読んで、舞台を考える。
※
オーが手綱を引くと、どんな馬も駿馬になる。
スメラ国には朝早く着いたが、城の門は開かれた。
岩作りの武骨な城だが、場内は赤と金の装飾で派手だ。カーペットにも鳳凰が金糸で刺繍され、廊下にはスメラ国の紋章である「赤い剣」の旗が初夏の風で揺れていた。
アイラたちを客間に通した兵士たちは、女たちと男一人と甘く見ているのがわかった。
「まあまあ、こんな朝早くに来るなんて。お化粧もまだ終わっていないのよ。ちょっと待っていてね、愛しいアイラ。」
キャシーは屏風の向こうで、弾んだ声で言った。その後に「早くしなさい」とメイドを叱責している声がする。
「どうぞ、ごゆっくりなさってください」
アイラは黒いソファーに腰掛け、赤いクッションにもたれかかって言った。オーが客間のあちこちを嗅ぎ回っている。
三官女はそれを気にすることなく、アイラの後ろに立っていた。
「アイラ…………! まあまあ、なんと美しく成長したのかしら!」
歓喜の声をあげて近づいてきたキャシーを、アイラは立ち上がって腕を組み、拒否した。
「キャシー、あなたってばケバいおばさんになったね。何その頭の羽根。『アタクシはアホです』って自己紹介もいいとこね。いいこと、キャシー。今度こそ罪を償い、少しはマシになってよ」
アイラは冷たく言い放った。
娘との再会を楽しみにしていたキャシーは、面食らっておろおろと立ち尽くす。
「キャシー・スメラ。罪状を読み上げます。あなたはイカル・スメラから魔術のインクを受け取って、アステール国の王エドワードに復縁を迫る手紙を書きました。呪いのインクは魔術法違反、および王に呪いをかけた国家転覆罪で、魔術法違反および国際法違反で逮捕します」
リディアが前に出て言った。
「確保する」
エルサがキャシーの後ろに周り、後ろに手を回させた。
「痛いっ! 何するのよ! あたしは知らないわよ、何よ国家転覆罪って!」
キャシーが暴れるので、エルサはさらに彼女を締め上げた。
フリルとリボン、レースがたっぷりのドレスは相変わらず、小皺が増えて、盛り上げた金髪も、くすんでいる。
これが母か、とアイラは情けなくなる。
「あなたは悪いことをしたのよ。イカル・スメラ。あなたはこの人物をよく知っているわよね。イカルはどこに行った?」
アイラは床に伏せさせられたキャシーを見下して問う。
「知らないわよ! あいつ、いつの間にかいなくなっててぇ。それにあたし、何も知らないわよ! イカルに巻き込まれたのでしょう、あたしは?」
「知らないで納得するとでも? イカルについての情報をできるだけ思い出して話しなさい。牢獄でドレスを脱いで、自分と向き合いなさい、キャシー。そろそろお迎えがくるころよ」
「なんてひどいことを言うの! あたしが産んでやったのに!」
キャシーが金切り声をあげる。
この人は、何も変わらないな。
「そうね。産んでくれてどうもありがとう。でも、私はあなたを母親だと認めたくないわ。拒否します」
アイラは言って、下がった。
扉が開いて、空気が変わる。
先頭は、黒いローブを着た背の高い女だ。金髪の腰まである長い髪で、目は紫色のリボンで隠している。彼女の左右には瓜二つの少女が立っている。黒いワンピースに三つ編みで、その地味さがこの場では逆に目立った。
「なんとか間に合いましたね。魔術協会の会長、バティストです。そして双子のフウカとレンゲです。アステールのアイラ王女。罪人をお知らせくださり、ありがとうございます。罪人よ、あなたが使ったインク、あれは毒のようなものです。ここではなく、さて、牢獄でたっぷり聴取しましょう」
バティストがキャシーを指差すと、フウカとレンゲが無言で大きな書物を二人で開いた。キャシーはそこに吸い込まれて消える。
「なるほど、封印の書ですね。罪人を持ち運べる」
オーが言った。
「その声は、オー。またおまえか」
バティストの声が鋭くなった。
「はい、オーです。今はおとなしくしています」
いつも明るく堂々としているオーが、明らかに動揺している。
アイラはバティストの迫力に息を飲んだ。
彼女は目を隠しているが、視覚より一段上の世界を見ているようだ。
「呪いのインクなんて古風なものを使うなぁ。バティスト様、イカルの部屋を調べに行ってきます。これはこれは、アイラ王女。俺は魔術協会のダニアンです」
黒髪で髭を生やした中年の男が部屋に入ってきて、挨拶をした。アイラも挨拶を返す。
「オー、あなたの嗅覚でイカルを覚えてきて」
アイラに命じられて、オーは屏風から出てきた。隠れようとしていたらしい。
「またおまえか、オー。王女のおっしゃる通りだ。その力を生かせ」
ダニアンに連れて行かれるオーを見て、アイラはため息をついてソファーに座った。毒母との対決、きつかった。
「お疲れさまでした。私は魔術協会のコダールです。あなたの勇気を祝福します」
紺の僧衣に、星のペンダントをつけた、聖職者風の若い男が話しかけてきた。髪も瞳も茶色で、おとなしそうな顔をしている。
魔術協会の人たちはみんな個性豊かだ。
「あと二人の魔術協会のメンバーがアステールに向かい、インクの調査をしているでしょう」
コダールが言った。
「はあ、なんという悪臭だ。こりゃたまらん」
帰ってきたオーはずっとくしゃみをしていた。
「俺は悪者の悪臭を嗅ぐと、しばらくくしゃみが止まらなくなる」
オーは窓を開けて、大きなくしゃみを繰り返した。
「アイラ、こちらで裏金の手引きをした兵長を見つけましたよ」
いつの間にか部屋から出ていたノラが、青ざめた男を連れてきた。まだ寝巻きのままで、この状況をよくわかっていない様子の、五十歳くらいの男にアイラは近づく。
ぼさぼさの髪で無精髭、兵長という肩書きにしては軽く見えた。
「あなた、そんなに戦争がしたかったの? 戦争軍需って、人の命と引き換えなのよ。これからこっぴどく平和連に叱られなさい。連れて行って」
アイラが言うと、フウカとレンゲが男を書物の中に封印した。
本の中に、次々と兵長の他にも「戦争企画」に加担した者たちが吸い込まれていった。中ではさぞかし罪のなすり合いをしていることだろう。




