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第四十二話 相棒

 ドアがノックされた。入っていいよと答えると、オーがピザの箱とビール瓶を持って部屋に入ってきた。


 ライモはベッドから起き上がり、オーと乾杯してビールを一気に喉に流し込む。カーペットの上にあぐらをかいて、ピザを食べる。


「存分に飲もう。いっぱい買ってきたからな。今日からライモ様と呼ぶのはやめる。俺は気づいた、俺はおまえと友達になりたかった。だがな、俺は放浪の身だから友達をろくに作ったことがなくてな、おまえに対するこの感情は敬愛でおまえの人生の手助けをしたくなってな、これは仕えることかと、勘違いしていた」


 オーが正座して、真面目な顔で言った。

 ライモは笑う。


「なんだそれ、聞いたことないな。助かったよ、ライモ様ライモ様言われておまえが僕の世話を焼くのはうんざりだったからな。

 なんでもできるのに、そんなに不器用なのも…………父親に捨てられた、特殊な人生のせいで。さぞかし生き辛いだろう。それになんでもできると、人から期待されて常にその期待に応えないといけない。そういうのも、しんどいよな」


「そうなんだ…………ありがとうな。そうやってわかってくれたのは、おまえが初めだ。嬉しいよ。少し泣くぞ」


 そう言ってオーは三滴、涙を流してぐっと袖で拭いた。


「僕も親に捨てられたからな。お父さんも子爵に引き取られるまでは孤児院で暮らしていて、捨てられた新聞を拾って読んで学んだそうだ。放浪してきたおまえも、ここは居心地がいいんじゃないか」


「ジーモン殿もそんな苦労を。確かに、この国は居心地が良い。だが俺は旅人体質だからなぁ。ライモ、おまえと旅をしてみたい。きっと楽しいだろうな」


 オーがライモの杯にビールを注いで言う。美味いビールだ、麦のホップが舌で弾けていい気分になってくる。


「旅かぁ。サーカス団にいた頃は巡業で他国に行ったが、観光をする暇がなかった。純粋に旅をしたことがない。その日暮らしでいろんな国を巡って、曲芸とおまえのその特殊能力で稼いで生きていくのもいいな………海辺の宿でゆっくりするのがいいな。僕の魔術師としての元素タイプは、水なんだ。水に浸かると力が回復する。海に潜るのはどんな気分だろう」


「海はいいぞ! いろんな生き物がいる。俺は海に育てられたからな。俺にとって海が親だ。それに魚介類は美味い。釣りも楽しい」


「そうかぁ、いいなぁ」


 ライモはとろっとした気分になってきて、横に寝そべった。

 酒が胃のなかでぽかぽかする。


「民族の文化を知るのも面白いぞ。旅は未知の世界を知ることだ。俺はあらゆる国の仮の王となった、たまに苦労もしたが人助けはやはり良い。ライモ、おまえだってそうだ。おまえの良い噂はたくさん耳にした。城の使用人たちはおまえが仕事を手伝ってくれたこと、国民は謁見で優しくしてもらったと感謝していた。二人で旅をして、困った人を見つけては協力して助ける。そんなのもアリじゃないか?」


 オーの熱弁に、ライモは心をくすぐられる。


「相棒………だな。オーと僕にふさわしい言葉は、そうなると相棒だ。僕の非力さをおまえが助け、僕はおまえの不器用さを助ける。良い相棒になれそうだ。どうだ、契りの祝杯でもしようじゃないか」


「嬉しいことを言ってくれるな。やろう」


 オーがワインをグラスに注ぎ半分飲んで、ライモに渡す。

 ライモはゆっくりと飲んだ。味の重さがあり余韻が残る、契りにふさわしい味わいだ。


「オーとならたくさんの人を救えそうだ…………カナリア、あの子も助けられたかもしれない。オーはすごい力を持っている。僕には、せいぜい気休めの曲芸魔術しか使えないからな。それに、おまえ、ほんと体がでかいなぁ」


 ライモはオーの肩に腕を回して、笑って言った。

 オーは屋根裏で寝ている。この図体でよくあの狭さに耐えられるなと感心している。


「おまえ、体温高いなぁ。ほんと顔もハンサムで、筋肉もこんなに。いいなぁ、僕は筋肉つかないからなぁ。安定感のある肩だなあ」


 ライモはオーの肩に寄りかかる。


「世話焼いてもらって、うっとうしいとか言ってごめん。いつもごはん作ってくれて、掃除して…………おまえほど完璧な男はいない。だから、アイラの…………お婿さんに」


「ん、なんだそれは。それより、冒険の話をしよう!」


 オーがライモの肩を抱いて言う。


「ん、冒険ねぇ。あれ、あれを言ってみたい。さっとお嬢さんを助けてさ…………あなたのお名前は? って聞かれて名乗るほどの者ではありませんって、立ち去る」


「あっははは、それはベタすぎるぞ!」


「だよな!」


 ライモもゲラゲラ笑う。


「そうだなー子供の頃に読んだ本で、船で旅をする勇者の話が面白かった。あちこちの島に行って怪物退治をする話だったか」


「航海はいいぞ。魔術師の国の仮の王になった時は、魔物退治が忙しかった」


「それはいつの話だ? 魔物はとっくに絶滅したのでは」


 ライモはオーから離れて、よくよくその整った顔を見つめた。


「何年前か忘れたな。しかし、まだ魔物が出るところはあるそうだ。特に精霊が多い地域では、精霊が魔物化することもあるそうだな」        


「確かに精霊は魔物化するが、その前に封印魔術師が捕まえるのに。っていうかオー、おまえって歳はいくつだ?」


 オーは首を傾げた。


「ん、わからん。年齢ってそんな大事か? さっきから酒飲むの忘れているぞ、このワインは今日中に飲んだ方がいいぞ」


 オーにワインを注がれて、ライモは飲み干す。


「大事だよ。彼の王になったのは歴史に残るぞ。その怪物の出たのも記録しないといけないし。おまえは歴史記録者をお供にした方がいい。まったく、ふらふらと…………もしや、百歳超えてたり」


 ライモはオーの頬をペちぺちと触ってみた。弾力があってすべすべしていて、どう見ても二十代の青年にしか見えない。長く生きている魔術師でも、一見若くても手や肌に老いが見えるものだ。


 オーがライモの手を握る。

 酒が回ってきて、ライモは目がとろんとしてきた。


「では、おまえが俺の記録係になってくれ。おまえは頭がよくて文を書くのがうまい。なあ、俺の相棒だろ? この国を出て一緒に冒険しよう。俺は俄然、妄想では終われぬほどおまえと旅がしたくなってきたぞ!」


「そうだな、いっそ冒険に出てみるのもありか。おまえはほんと計り知れぬ、面白い男だからな。ねー、ワインもっと」


 ライモはワインをついでもらい、ぐっと飲み干す。


「こんないい酒を買ってくる男となら、一生の相棒でいられるな。さすが味覚が鋭いやつだ。ねーそれで、魔物退治ってどうやったの?」


 ライモは寝そべって、上目遣いでオーを見る。


「いいぞ、教えてやろう! おまえ、その顔、かわいいな! その顔をすれば男女問わず秘密を話してしまいそうだ」


「でしょう? この顔の相棒がいれば最高だろ。おまえ、目立ちすぎるから僕のような美貌の者がついててやる方がいい。はっははは、僕たち最高じゃん! 美形の正義の二人組。これは傑作、舞台のようだ」


 ライモは腹を抱えて笑う。


「はっははは、そうだな。しかしすまん、魔物については魔術協会から喋るなと言われていた。あの人たちはとても怖い」


 オーがグラスを床におき、腕を組んで首を横に振る。

 魔術協会は全世界の魔術師の法を管理している。魔術研究、違法魔術の取り締まり、世界の異変を予言する重鎮の組織だ。


「えー、もう喋ったも同然だろ。僕は口が固いよ。教えてよ」


 ライモはオーの膝を軽く蹴った。


「ライモ、こっちの酒も飲め。これも美味いぞ」


 オーがシャンパンのコルクを抜いた。そのポン、という音がなぜか面白くてライモは笑う。


「ライモは笑い上戸だ。かわいいな。ほら、シャンパンだ。飲め」


「えー、飲めと言われたら飲むしかないなー。ねー、どうしたら教えてくれる? 何して欲しい?」


「ライモ、このチーズうまいぞ」


 オーにチーズを食べさせられ、ライモは咀嚼しながら眠くなってきた。


「よしよし、おねむだな。よしよしよし」


 オーにベッドに運ばれる。ライモはされるがまま、寝かしつけられた。


「よし、これで…………ごまかせたか。魔術協会はおっかないからな。すまん、ライモ」


 オーの言葉を聞きながら、ライモは眠りについた。オーの「すまん、ライモ」が聞こえたそのとき、ライモは夢の中で、少しだけ笑った。


 翌朝、ライモは二日酔いで起き上がれなかった

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