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第三十二話  愛と忠誠とへその匂い

 大衆酒場に移動して、ライモたちはオーに無限星の印について話した。なるほど、そうか、それはすごいな、とオーは相槌を打ちながら酒を飲んでよく食べた。ライモはオーが奢ると言うので、三杯目のビールを頼む。


「使命があってここに来たのはわかっている。俺はそういう宿命なのだ。王位が危うくなり、王座が空になったとき、仮の王になる。それが俺の運命なのだ」


 オーが言った。ライモはリディアと顔を見合わせ、険しい顔をしたエルサとこ困惑したノラの顔を見る。


「では、エドワード王は王ではなくなると?」


 リディアが訊いた。


「おそらく。それがいつかを探っていたのだが、この星の印が気になって仕方なくなってな。俺はこの無限星が出た皮膚を自分で剥がしたのだが、なんと一晩で皮膚は復活して無限星の印が浮かんだ。なので俺は自分の皮膚を食ってみた。そうして俺は自分と同じ印を持つ者と、そしてこれに関わる者の匂いを嗅ぎ分けることができるようになった。無限星を持つあなたたちと、魔力の強い魔術師ライモ様が集まっている、その匂いにつられやってきた」


 何を言っているのか、まったくわからない。


「狂気だわ…………自分で自分の皮膚を剥がして食べた? あなた、本当になんなの…………」


 リディアが青ざめて引いている。


「ふむ。すまない、気持ちの悪いことを話してしまった。俺は魔術師ではないが、特殊能力がある。一つは舌、たとえばなぜか鼻水が止まらないという者の鼻水を舐めたら、鼻炎か風邪かわかるなど、舌から情報を分析できる。そして嗅覚、俺は人を顔ではなく匂いで覚える。俺は風を舐めて、王が危うい状態にある国がどこか判断する。俺は北の最果てのヨギ国で生まれ、あまりにも突飛な存在ゆえに、定住することはできない放浪の王だ。はっははは、我ながらこうして話してみると奇妙な男だなぁ、俺は」


「すごく変だ」


 ライモとリディアの声は重なった、二人は呆れた顔でグータッチする。二人は直感した、こいつはまだ若い十八歳の自分たちでは処理できない、力を合わせよう。 


「だが、舐めただけで分かるなら、早くていいな。検査が必要ない。匂いで人を判断するとは犬のようだ。風を舐めるとは何だ」


 エルサが大真面目な顔で言う。


「俺は血を舐めたら血液型、病気、遺伝する病、遺伝子情報までわかる。へその臭いを嗅げば内蔵疾患がわかる。俺の嗅覚は犬より上だ。犬と競争したら勝った。俺は一度嗅いだ匂いは忘れず、名前をつけて記憶している。ライモ殿のことは泣き虫美少年と名付けて記憶していた」


「誰が泣き虫美少年だ! 確かに泣いてたけど、いちいち言わなくていいんだよ! この変人!」


 ライモはビールのジョッキを机にどん、と置いて怒鳴った。


「そうだそうだ、そうやって変な能力で知り得たことをベラベラ喋るのは守秘義務の違反よ! 犬と競争したってなんなの。オー、あんた本当のこと言ってる? そんなとんでもないこと、信じられないわよ。あなたは生態系の破壊をしているわ」


 リディアが腕を組んで言った。


「そうだ、本当なのか!? 放浪の王なんて聞いたことがない。へその臭いを嗅いだけで内蔵疾患がわかるとか、それって適当に言って当ててるんじゃないのか? 一見して病気だとわかるぐらい体調悪そうな人にどこどこの内臓が悪い、と言っておけば当たることもあるだろう」


 ライモが言うと、オーは目を伏せて悲しそうな顔をして、肩をすくめた。


「…………ああ、そうだな。なかなか信じてもらえないよな」


 寂しそうにオーが言うとライモは居心地が悪くなった。

 本当だとしたらかなり役に立つ力を持っている、オーの力で救われるものがたくさんいるだろう。にわかに信じがたい。


「そうね、本当かしらって思うけれど。あなたは特別な人のようね。人の味覚や嗅覚というのは不思議な物で、その可能性は未知数だと思うわ。味覚による情報分析というのはできるかも。さっきオーさんが男の手を舐めたのは、汗などの皮膚からの分泌物から解析なさってのではないかしら。…………嗅覚、匂いで人を覚えるってことも私はあるわ。相性が良い異性から良い匂いがするの、私は夫の匂いが好き。人間もフェロモンで交配すると良い相手を選ぶのよ。

 オーさん、あなたが無限星の印を持っているのは、その力を生かす使命があるのかもしれないわ。そして、あなたがライモくんを探し当てたのも、あなたのような無知数の力がライモくんの中にもあるのではなくて? 似た者同志は惹かれ合うものよ」


 ノラが慰めるようにお、オーに微笑みかけて言った。


「ノラさん、ありがとう。その通りなのだ。俺の放浪の王というのも、ヨギ国でたまに現れる謎の遺伝子なのだ。放浪の王の真の力を解明するためにも、俺はライモ様の匂いからわかる、只者ではない正体。それについて知りたい。ライモ様もご自分の力を存じられた方が、力を発揮できるでしょう」


 オーが元気を取り戻し、ライモに面と向かっていう。

 すごい説得力だ。


「そ、それはまぁ知りたい…………その、様っいうのはやめてよ。あんたの方が年上だろうし。だけど嫌だな、僕の力を知るには、さっきの酔っぱらいみたく手のひら舐めるとかなら、気持ち悪いから嫌だなぁ」


「いや、直接舐めなくてもいい。提供しても良いと思う体液を舐めればわかるだろう。あなたが口をつけたそのグラスを舐めてもわかる」


「おえっ、それ絵面が気持ち悪いな。だったら、血を出すからそれをあんたの手に垂らす、それを舐めるとかでどうだろう。明るいところでやるのは嫌だから、外の薄暗いところで」


「いいだろう!」


 ライモが言うと、笑顔でオーは席を立った。

 自分の力については早く知りたい、仕方あるまい。ライモが立ち上がると、リディアがついてきてくれた。リディアに背中を守ってもらい、酒場の横の路地裏でライモは指先を軽く切って、オーのてのひらに血を落とした。オーがそれを舐めるのを、ライモは顔を背けて見ない。


「やはり、ライモ様。あなたは俺が探してい力の持ち主だ。さまよう俺を使命へと導いてくださる、たった一人の人。愛しています」


 オーが跪き、うっとりした声で言うとライモの左手の薬指に指輪をはめた。整ったオーの顔にはたと見惚れてしまい、ライモはそれを拒絶することができなかった。


 アイラに恋していなかったら、ライモはオーに抱きついていただろう。自分のすべてを受け入れていれていると感じる、完璧な愛の告白だった。抱かれてもいい。


 いやいやい、ダメだ、違う。

 ライモは首を振って冷静になる。


「うわ、プロポーズじゃん。アイラにちくってやろう」


 リディアが言って、居酒屋に戻っていく。


「な、なんだよこの指輪!」


 薬指にはめられた細い金の指輪は取れない。


「忠誠の証です。ライモ様、私はあなたを守ります。俺を右腕だと思ってそばに置いてください」


 オーがライモの肩に手を置いて言う。


「急にそんなこと言われて。僕はただの宮廷道化師だし、忠誠を誓うも何も。ああ、もうっこの指輪抜けないし、リディアに誤解されるしっ! もう帰る、飲み代払っといて」


「払ってきますからお持ちを、危ない」


「危なくない」


 オーはすぐに戻ってきて、後ろをついてきた。


「…………わかった、後悔させてやる。僕のお父さんは鬼の宰相と言われる怖い人なんだぞ。あー、結構飲んだから歩くのだるい。手、ひっぱって」


 ライモは気だるく言って、オーに手を差し出す。


「なんと、お父上に紹介していただけるとは!」


オーは力強くライモの手を握り、ずんずん歩く。

 家に帰ると、リビングにはクイナがいて、オーを見ると驚いた顔をした。


「帰りが遅いぞ。まったく酒の味を早々に覚えて飲みに行ってばかりとは、飛び級で大学を出たからといい気になるなよ。ん、そちらは誰だ?」


 ジーモンがオーを見上げる。


「君、今日の夕方に診察を受けに来た青年だな! 血を調べて欲しいとのことだったが、調べた結果、驚くべきことがわかった。心して聞いてくれ」


 クイナが珍しく慌てている。オーは落ち着いて、ふむ、と頷いた。


「どうにもこうにも、俺は人間とけた外れな存在です。俺の生い立ちを聞いていただきたい、ライモ様、ライモの父上、クイナ名医」


 オーは食卓の真ん中に座ると、語り出した。


 オーは北大陸の最果ての国「ヨギ」で生まれた。

 皇后は七人の皇子を産み、八人目のオーを産んで乳をやっている最中に死んでしまった。オーを憎んだ父の国王は赤子のオーを海に投げ捨てた。オーはイルカの背に乗って助かり、イルカに育てられ無人島にたどりつき、猿やオオカミ、イグアナや鳥などさまざまな動物によって生かされた。


 無人島に流れ着いたヨギ国の人間に発見され、連れて帰られた。そのたぐいまれなる強さに七人の兄たちは恐れをなし、また父王からは許されず「放浪の呪い」をかけられた。

 それゆえ、オーは一つの国にとどまることはない。

 しかしその強さはどこに行っても目立ち、王がいなくなった国では運命的に王座に座ることになるが、すぐに次の王を見つけてオーは旅立つのだった。


「そこで今回、俺はアステールにたどり付きました。また国が荒れて仮の王が必要かと思いきや、予想が外れました。あなた様こそ、ライモ様こそ、俺の人生を捧げるお人、呪いを解ける人なのです」


「解けない」


 ライモはすぐに言った。


「きっと勘違いだ。僕はそこまで強い力を持ってない。もう次の国に行けば? 」


「おい、そんな冷たい言い方はないだろう。この人は医学の救世主かもしれない。君が言う味覚と嗅覚の異様さだが、血液から異常な白血球と赤血球が確認され、血液量がかなり多い。もっと詳しく調べたいが、検査してもいいか?」


 クイナかワクワクしている。本当か、とライモはオーに疑いの目を向けた。


「はい、クイナ名医。解剖するなりなんなり、してください」


「はっははは」


 ジーモンが笑った。


「ハッハハハハ、これは面白い。イルカに助けられあらゆる動物に生かされたと。はっハハハハハハ」


「はっははは、愉快でしょう」


 ジーモンとオーの高笑いを聞いて、ライモは頭が痛くなった。              


 

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