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第十話 お説教と新しい魔術

 訓練中、遊びに夢中になったライモとレイサンダーは「謹慎中」の札を首にかけられた。シャツにズボンの私服で二人は並んで城門に立ち、「ここはアステール国の城です」と道ゆく人に案内の声をかける。

 この罰は道ゆく人に笑われて、年頃の少年にとっては恥ずかしいものだ。

 レイサンダーはずっとうつむき、声が小さい。


 リディアが歩み寄ってきて、腕を組んで睨みつけてきた。


「まったく人騒がせな。あんた、ジーモン宰相の家に居候させてもらってる身であることを自覚しなさい」


 リディアが冷たい声で言った。


「わざわざ叱りに来てくれて、ありがとう。黒いローブで暴れているとき、君の蹴りが飛んできそうで怖かったよ。アイラ王女をちゃんと守っていたね。今日のピンクのドレスも可愛いよ」


 ライモが言うと、リディアはますます怖い顔になった。

 リディアは縦巻きの髪を二つ結びにし、膝下のフリルがたくさんついたピンク色のドレスを着て、白い日傘をさしている。

 かわいいお嬢さんだ。


「あんたってきっと口から産まれてきたのね。あんたの口の良さには騙されないわよ。レイサンダー、友達は選んだほうがいいわね」


 リディアは鼻で笑って、背中を向けてスタスタ歩いて行った。


「ここがアステール国のお城ですよ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。優しいエドワード王が話を聞いてくれますよ」


 ライモは目があった女の子に手を振って、呼びかける。


「ライモ、ほんとにおまえはお調子者だな。手を振るな、真面目にやれ」


 逃げ出さないように見張っているクイナが、呆れて言った。


「俺はなんてくじ運が悪いんだ。ガキ二人に一日を振り回されて終わるとは。こうなったら俺の仕事が終わるまで付き合ってもらうぞ。ライモ、おまえ防衛魔術は使えるか?」


 ライモは首を横に振った。


「では、今日中に覚えてもらおう。レイサンダーは攻撃役だ」


「やった、クイナさん、僕のこと指導してくださるんですね! 僕、クイナさんに憧れててずっと魔術を教えてもらいたくて」


「はぁ…………ライモ、おまえなんて調子のいい奴なんだ」


「えへ、そんな僕もかわいいでしょう?」


「レイサンダーは恥ずかしいです、友人が恥ずかしい」


「気が合うな、俺もだ。見ろ、鳥肌が立った」


 クイナが白いローブをまくって、白い腕を見せた。

 道ゆく人の視線を感じて、ライモはにっこりと笑う。


「ようこそ、アステール国のお城へ!」

 魔術騎士隊長クイナは苦労人だ。

 東洋の一級魔術師の家系に生まれたが、幼い頃に侵略者にさらわれ奴隷として売り飛ばされたが、運良く騎士団に保護され、孤児院に引き取られた。

 魔術の才能はありながら、東洋人の魔術師と中央大陸の魔術師では魔力の使い方が違うため、クイナは魔術学校を落第してしまう。その後、東洋語を学んで魔力の使い方を独学で学び、力を発揮、魔術学校に再入学後は特待生となった。          


 魔術師の中でも一級とされるユリの刺繍入りの白いマントを手に入れるまで、クイナは血のにじむ努力をしてきた。

 童顔で小柄、東洋人だからと低く見られてもクイナは動じずに仕事をこなす。実力で軽んじた者を黙らせる。その背中にライモは憧れていた。


「謹慎中の刑」を終えた夕方、ライモとレイサンダーは団長に再び説教され、騎士団の稽古場に来た。謹慎中の刑の最中、クイナがチョコレートを一欠片、口に入れてくれたので、ライモは団長に叱られても怖くなかった。


 漆喰の壁と屋根の、ただっ広い稽古場にはまだ騎士たちの熱気が残っている。


「今日のおまえたちがやっていたのは、どっちも攻撃だ。それでは王女を守れないだろう。ライモ、おまえはレイサンダーの攻撃を受けたな。おまえは避ければいいと思っているが、避けられないこともあるとわかっただろう。レイサンダーは攻撃に熱中すると脇がガラ空きだ。とても格好悪かったぞ」


 クイナの淡々とした指摘に、ぐうの音も出ない。


 アイラの前でレイサンダーに切られたことは、忘れようとしていたのに。ライモはしょげた。


「戦うにはまず自分を大事にすることだ。そのための防御だ。レイサンダーは騎士隊長からもっと防御を教わりなさい。ライモ、おまえには俺から防御魔術を教える。レイサンダーには、今日できなかった魔術師の防御の固さを実感してもらおう。 

 東洋魔術と中央大陸魔術の違いは、力の出力だ。魔術師が持つ魔力血管、ここから力を発するのにライモは念じて出力している。東洋魔術は喉を使う、発声だ」


 クイナが説明する。教えるときのクイナは、目を合わせて、全身から伝授しようという意志と根気強さが感じられた。


「バオフージキダル」


 ゆっくりとクイナが言うと、彼を守るように大きな鏡が現れた。


「レイサンダー、そこの木刀でかかってきてくれ。全力だ」


「はい!」


 レイサンダーが木刀で鏡を叩く。ひび割れが起きたが、ガラスの結晶が集まって鏡は修復する。鏡が割れるたびにクイナが呪文を唱えている。


「こういう時、鏡を攻撃しても意味がない。レイサンダー、隙を教えよう。簡単だ、この場合は背後を狙え。とっさに背後に切り替えるには時間がかかる。後ろに回ってかかってこい」


 レイサンダーが木刀を構え直し、クイナの背中に振り下ろす。

 クイナが振り返り、手をかざすと木刀は折れた。


「すまん、言い忘れていたな。俺は中央大陸の魔術も使える。とっさの時は手のひらからの魔力出力が早い」


 クイナが笑って言った。


「もう、騙されたぁ。疲れました」


 レイサンダーがぐったりして言う。


「すまない、練習に付き合わせたな。レイサンダーは帰っていいぞ」


「はぁい」


 レイサンダーはとぼとぼと帰っていく。


「僕は防御魔術、使えるようになるまで帰りません!」


 ライモが宣言すると、クイナは優しい目になった。


「よしよし、教えてやろう。ライモ、喉に手を当ててみろ。しっかり喉を震わせて発声しろ」


 ライモは言われた通りにした。


「バオフージキダル!」


 思いきって叫ぶと、想像よりも大きな鏡が出現した。


「すごいじゃないか! 一発でできたな」


 クイナが笑顔で頭をなでてくれた。


「やった! もっと呪文を教えてください!」


「いや、また今度にしよう。ジーモンが迎えに来たぞ」


 クイナに言われて、ライモは背中がゾッとした。


「すまないな、クイナ。残業させてすまない」


 ライモはジーモンの顔が見られない。


「いや、いいんだ。あまり叱ってやるなよ」


 ジーモンの怖い顔を見て、クイナが笑っていられるのが不思議だ。


「今日はすみませんでした。そしてありがとうございました、ではさようなら」


 ライモはクイナにお辞儀をして、「帰るぞ」と歩き出したジーモンについていく。

 家についてジーモンが食卓に座り、ライモはその前に座った。


「今日のことはすべて聞いたぞ。ライモ、おまえというやつは」


 ライモは縮こまって、下を向く。


「はっははは」

「ははは」

「はーははははは!」


 ジーモンが笑い出した。


「子供二人の茶番劇に、慌てふためく騎士団がおもしろかったぞ。武器を買う予算を上げろと息巻いている団長が慌てておった。武器云々より統制が取れていない、そう言ってやった。騎士団には戦争が好きな残党がいる。そいつらが軍備を放棄した国で武器を持ちたがっておる。そいつらの鼻を明かしてやってせいせいした」


「あ、ああ。そうだったんだーそれはよかった」


 ライモがヘラヘラ言うと、ぎっとジーモンに睨まれた。


「しかしおまえ、最近は浮かれて調子に乗りすぎた。クイナにも迷惑をかけよって。おまえは人よりなんでもできるからと、驕ってはいかん。身を引き締めなさい」


「はい、すみませんでした」


「よろしい。では今日はシチューだ。おまえは宿題をしてきなさい」


「わあ、シチューだ。にんじん、多めがいいな」


「ふっ、わかっている」


 ジーモンがエプロンをつけて、ニヤッと笑った。

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― 新着の感想 ―
無能で、いろいろ内部統制が取れていない…きっとこの騎士団、酷いいじめを部下にしたり、そもそもトイレットペーバーを買うお金も何故かないんだろうな…、と、自作の小説を書くときに見る自衛隊のサイトを見て思い…
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