和都歴450年7月 神との謁見
>紗矢へ
君は僕という旦那が居ながら、兄を誑かし、カラダまで売ったのか?
やはり妖の言う事は正しかった。君はもう僕の妻でも何でもない。
僕は君の様な下品な女を認めない。
僕には神の巫女たる妖のような女性が相応しい。
そして、驚くといい。
僕はついに神と謁見したのだ。
黄色い野原の様な場所をただただ歩いていると、そこに無数の人間が居た。
話しかけても言葉が聞こえていないようだった。
しばらく歩くと更に人の数は増え、建物についた。神殿、社と言うべきだろうか?
そこにいる人は神だった。
彼は僕の感覚に、意識に直接話しかけてきた。
言葉はいらない。❝脳デバイス❞から既に読み取った…と、そう言った。。
そして、僕のすべての意思・感覚を答えとして再現して返してきたとき、気がおかしくなりそうだった。
例えば妻・紗矢の髪色、黒子の位置だけじゃない。匂い、僕だけが嫌と感じる箇所などを、瞬間にだ。
何故、周りの人間は彼方の様に反応してくれないかという問いにも答えてくれた。
『彼らは、君で言うところの人間ではない。ロボットというと分かるのかね?彼らは我ら❝神❞という❝人種❞に選別されず、滅亡する一途となる。
そこで奴隷という契約で生きながらえることを選んだのだ。心身の苦痛を脱却する術として、自ら人間であることを放棄していった。最初は手や足、臓器に至り、性欲と食欲、睡眠欲という時間すらも削ぎ落していったのだ。下層人種の成れの果てだよ。』
僕はゾッとした。神は平和と幸せを人々に与える存在だと思っていた。
しかし、言い換えれば僕も神に、人を支配する人種になれるということかと問うと、彼はこう言った。
神の血脈しか、ここへは辿り着けないシステムになっているんだとか。つまり…
そうこうしていると蓮次の学び舎で、妖に起こされている自分が居た。
神に会った話を妖にイの一番に報告した。
彼女はとても喜んだ。こんな笑顔をするのかと新しい一面を見た。
今夜は、神酒抜きで一緒に過ごそうと言われた。
妖が僕に夢中になる道理もようやく理解できた。
そう、僕はもう神の子だ。求められても仕方がない。
良二郎
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良二郎さんへ
彼方の思考が神どころか、もはや人間ではありません。
私たち家族を放っておいて、神になると?妖という女の戯言に惑わされる神が居るというのですか?
もうお義父様は、都の官人に貴方の捜索を依頼したようです。逆らえば処罰されるので、素直に帰還してください。
どうなったとしても、彼方はこの子の父親なのですから。
しかし、彼方の心はもう私ではなく、妖という女神なのですね。
紗矢
次回2025/4/11(金) 18:00~「和都歴450年8月 僕は英雄、俺は妖を愛する者」を配信予定です。