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イマジナリ・ハーツ  作者: 流川真一
Case-002 Mirage God
14/26

05

「来て下さったんですね! 本入会されるということでよろしいですか?」


 エントランスホールで上機嫌に出迎えたイザリーに、登悟は軽く手を上げて歩み寄った。

 事前に連絡を入れていたわけではないのだが話は早かった。無警戒な若者に見えるように軽く手を上げてイザリーへと歩み寄る。


「俺とこいつ、二人とも頼む」


 イザリーは上機嫌で頷くと、応接用のhIEに登悟と灼の個人認証タグを登録するように命じた。法衣を着た女性型hIEが登悟のリストバンド型の個人認証タグを撫でると、軽い電子音と共に仮登録がなされ、携帯端末に許諾の可否を仰ぐログが表示された。応接用hIEは灼の個人認証タグにも同じようにしたが、灼のそれは事前に詠子が用意したダミーだった。携帯端末で許可を出し、二人の名前が『アルカ・トエルの福音』の電子名簿にしっかりと記載された。

 イザリーはhIEが手渡したタブレットを確認して満足げに頷くと、親しげな笑みを向けてきた。


「昨日のうちにお布施を頂けたんですね。ありがとうございます。きっと教主様も喜びます」

「帰りの移動中に入会を決めたよ。あんた方の教えってやつをもっと知りたいんだ」


 イザリーは嬉しそうに微笑んだ。本心からの笑顔に見えた。


「ちょうど今日の礼拝が始まるので、ぜひ参加していってください。詳しい話はその後に」

「そりゃ都合がいいな」


 白々しく聞こえないように注意して答える。事前に礼拝の時間を調べておいたのだ。施設に出入りする人間の数を見れば時間を推測することは容易だ。

 イザリーの案内で幅広の階段を降りると、一気に視界が開けた。硬質な白い石材を用いた広大な空間だ。長椅子が円形に整然と配置され、中央には螺旋と女神の像が設置されている。既に五十人ほどの信徒が長椅子に腰掛け、昨日登悟たちが貰ったのと同じシンボルを目の高さに掲げながら、一心に祈りを捧げていた。

 奥の方から黒桐がゆったりとした足取りで近付いてきた。


「これはこれは。お二人とも来て下さったのですね。つまり……」

「二人とも本入会して頂けました、教主様! 今日から一緒に教主様のお言葉を聞いてゆきます」

「喜ばしいことですね。信仰を共にする仲間は一人でも多い方がいい。きっと二人ともよい信者になってくれることでしょう」


 柔和に微笑む黒桐を観察しながら尋ねた。


「あの中央のが、アルカ・トエルって二柱の神様なんだっけ」

「ええそうです。是非近くでご覧下さい。あなた方のような若者を、アルカ様とトエル様は特に祝福されますので」


 黒桐は大きな身振りで中央を示すと、登悟たちを伴って歩き出した。

 改めて女神像を見上げた。これだけ至近距離で見ても一切の歪みのない高精度のホログラムだ。実際に手で触れなければ、そこに実体がないなどとは誰も思わないだろう。

 黒桐は微笑んでいる。


「いかがです? 間近で見ると、より清らかな心持ちになるでしょう」

「ああ、そうだな――」


 登悟は頷く代わりに、懐の銃を抜いて黒桐の顎先に突きつけた。

 黒桐は微動だにしない。ただ柔和に細められていた瞳が、研がれた刃のように細く開いた。


「……どういうつもりですか? 登悟君」

「いい加減猫被るのは止めようぜ、教主サマ。それとも間近で反抗されるとは夢にも思わなかったか?」

「昨日渡したシンボルに祈りを捧げてきてくれたものだとばかり思っていましたがね。いえ、それ以前に、なぜそんなにもはっきりと私のことを見ていられるのです? この女神像の前で」


 実に奇妙な会話だった。だがそれに違和感を覚えられるだけの余裕のある者は、登悟たちを除けば誰も居なかった。イザリーも回りの信徒たちも、穏やかな昼下がりと銃という組み合わせが頭の中で結びつかず、悲鳴も上げられずに硬直していた。


「一斉に襲われることも覚悟してたが、咄嗟に暗示を変えるのは無理らしいな。高度AIだからこそ、機能を絞らないと制御しきれないってわけだ」

「何を言っているのか――」


 黒桐の言葉を遮って、中央に拳大の多面体を投げた。

 黒桐が反応したが遅かった。登悟が投げた物体は空中で四方に分かれると、それぞれが空中で静止して空間に霧のような真っ白いホログラムを投影した。ものの五秒と経たないうちに、その場にいた信徒たちが意思を失ったように硬直した。

 黒桐から笑みが消えた。


「あなた、何者です」

「やっぱあんたには効かないか。でも邪魔が入らない方が話しやすくていいだろ?」


 登悟の右目が鮮やかなブルーに輝いていた。

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著者ページ:流川真一
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