7 黒柴
外に出て、師匠は聞き耳を立てる。
「確かに何かがおるなぁ。それに、何かから逃げているように聞こえるのぅ。」
師匠もか。
俺もやっぱりそう聞こえるなぁ。
「ん?こっちに来てないか?」
「そうですよ。だから師匠を起こしたんです」
それに俺が勝手に色々やったりしたら師匠怒るでしょ。多分。
「この速さなら、ここに着くまで5分ぐらいかのぅ。迎えに行ってみるか。付いてこい。」
そう言って師匠は音速ではない程度のスピードで走った。
その後ろに俺がぴったり付いて行く。
俺の足の速さが遅いからと、「追いかけてくるのじゃ。」とか言って師匠を追いかけるという修行を昔やった。
あれはきつかったなぁ。
だが、あれがあったからこそ俺は師匠について行ける。
それにしても師匠。速すぎるよ。スピード出しすぎじゃない?
まぁ、全力で走っているわけではないと思うけど。
でも、疲れない?
俺? 俺は疲れたよ……。
◇ ◇ ◇
数十秒走った後、
「見つけたぞ。」
何かから逃げていたと思われる人を見付けた。
しかもその人は師匠みたいな犬だった。
ということは恐らくワーウルフだろう。
ワーウルフの人は、ボロボロで黒い毛玉を抱いていた。
なにそれ?
「どうしたのじゃ! 里に何かあったのか!! それに、その抱いておるのは……。」
「さ…とが……しゅ…う…げぎ…され……て………」
ん?里が襲撃されて?
やばいじゃん。超やばいじゃん。
「里が襲撃を受けたのか!! お前は里の中でもなかなか強いほうだったな。相当強かったんじゃろう。
ノル、わしは里へ行く。お前はどうする?」
「俺は、この人の怪我の治療をしてます。里には一人で行ってください。」
「そうか。だがそれは、無意味だと思うぞい」
そう言ってから師匠は、走っていった。
もう無意味? 助からないっていうこと? どうして? 臓器がいくつもつぶれているようにも、大きな傷があるようにも見えない。
ならどうして?どういうこと?
「あ…の……この…お…か…たを……たす…け…て……」
そう言って、震えながら黒い毛玉を掲げた。
と言うかこのお方? その黒いの生き物だったんだ……。
というかなんでそんなに震えているの?
力を振り絞って黒いのを掲げているように見える、し……。
……あぁ。わかった。この人は、もう生きようと魂があがいていないんだ。
生きたいと願う者と、生きたいと願わない者。どちらの方が助かる確率が高いかなんてすぐわかる。
……結局死ぬならこのまま死ぬより、安心してから死ぬほうがこの人にとっていいのかもしれない。
それならば、
「わかった。その黒いのを助けよう。だから安心してくれ。」
この人の最後の願いを叶えてやるのが1番だな。
「よ…かっ……た……。」
そうしてワーウルフの人はあの世へ旅立った。
涙はない。この世界は命が軽いということを実感しただけだ。ただ、それだけ。
◇ ◇ ◇
ワーウルフの人があの世へ旅立った後、お墓を建てた。
なかなかの重労働だったが後悔はしていない。
重労働が終わった後、黒い毛玉を洗おうと思った。真っ黒で、持つと手が真っ黒になるのだ。
「お前、こんなに汚れるぐらい苦労したんだな。」
と言ってお湯を作り、ゴッシゴッシと洗った。
泡がどんどん黒くなっていく。水をかけると黒い泡が流れる。そして毛玉の色の確認。
それを何度も、繰り返す。
綺麗になったかと黒かった毛玉を見ると、
「黒い。真っ黒だ。」
見事なくらい黒かった。
「ブルブルブルッ!」
黒いのが犬っぽい動きをした。
その黒いのには、頭に三角形が二つ、足が四本、尻尾があり、目がぱっちりしていた。
でも、なぜか目が紅。
犬だ。子犬だ!
これ、目の色を除けば完全に黒柴だろ!!
...…でも可愛い。