11 瀕死になる主人公
あのしょげ具合はものすごく可愛かったが、機嫌を直すのが大変だった。
なで回したり、声を掛け続けたりしても、なかなか直らないのでさっきは焦った。
これからは、気を付けよう。
……反省したことだし、今日も魔力を感じる練習をしようと思う。
まぁ、やり方はわからないけど。
うーん。どうしよう。
5分ほど考えたり、「いでよ魔力ー。」と言ってみたり、瞑想してみたりしていると、ペラッペラッと後ろから、本をめくる音が聞こえた。
見てみると、ハルがキリッとした顔で本を読んでいた。
えっ、読めるの!?犬なのに!?
なに読んでいるんだろう?
遠くからそっと見てみると、俺がちょっと怖いからと置いておいた『番外編 魔術書』だった。
何でそれなの!!!読むにしても、初級編とか中級編とか上級編とかあるでしょう?
これでハルが、凶悪な魔術を覚えて暴れだしたりしたらどうしよう……。
そんなことを考えていると、ハルが光りだした。
ど、どどどうしよう。害のある光りだったら、ハルが危ない。
光りが収まったと思ったら、煙が、ボンッ、と出た。
え……? 何事!? ハルは無事なの?? 大丈夫なの??
煙が消えると、そこには6才ほどの、犬耳と尻尾が付いた黒髪の美幼女がいた。
……え? もしかしてハル?ハルなの?
ハル?は、俺を見て、
「やっと、おはなしができますね! にーさま!」
とニコッと笑い、腰辺りに抱きついてき、ハル?の顔を俺のお腹にうずめてきた。
……可愛い。可愛すぎるだろぉ。
前世で俺が幼稚園に入ってから少し仲良くなったやつが、「妹が生まれたんだ!」と、ウキウキで可愛い可愛いと、連呼していた理由が分かった気がする。
「にーさま?」
おっと。興奮し過ぎたようだ。
一応確認しておくか。
「ハルだよな?」
「はい!はるです!」
元気いっぱいに、ハルは答えた。
可愛い!!!!!
妹ができるってこんな感じなんだろうな。兄と呼んでくれてるし。
「これからいっぱい、にーさまとおはなしできるなんて。わたしは、しあわせものです!」
ハルは俺を見上げて、またニコッと笑った。
ハルの可愛さ攻撃をもろに食らった俺は、瀕死になって倒れそうになるが、気力で立つ。
危なかった……。
「にーさま。わたしは、がんばったりました。なでなでしてください。いつもなでてくれるでしょう?」
「よしよし。よく頑張ったな。」
撫でてやると、尻尾を高速で降る。
可愛い!!
でもな、尻尾が千切れそうで俺は怖いよ……。
◇ ◇ ◇
色々あって、わたしはずっと会いたかった人と会った。
その人は何て呼べばわからなかった。名乗らなかったから。
とりあえず、兄と呼ぶことにした。
母が別にいるので親とは言えない。兄か弟か。弟にしてはわたしより大きい。
だから兄だ。
そのわたしの大好きな兄は、わたしに名前をつけた。
だから母から貰った名前は一旦封印。
わたしはハルになった。兄がつけてくれた大切な名前。
時間が立つにつれ、わたし──ハルは兄と話をしたくなった。
母は念話が出来るけれど、ハルはまだまだ未熟で、高等技術である念話は使えない。
ワーウルフが使う文字は知っているけれど、ハルはまだちゃんと習っていないし、兄は恐らく読めない。
だから、まだワーウルフの里にいたときに習っていた途中の、姿を変える変身魔術を練習した。
けれどコツがつかめなくてまだ出来ない。
そんなとき。
「いでよ魔力ー。」
兄の声が聞こえた。
さっきから何をやっているのかよくわからなかったが、今のセリフで何がやりたいのかよくわかった。
兄は魔術が使いたいのだ。
かつて──といっても5年ほど前からハルがやり始めたこと。
いでよ魔力とか言っても、魔力は操作出来ない。ひとりで魔力を感じとるのはとても難しい。そんなのは本に書いていない。魔術師の師匠が、弟子に魔力を流し、動かし感じ取らせるのが常識だからだ。
教えてあげたいと思った。それにはやっぱり話せるようにならなければいけない。
やる気が出たところで、番外編と書いてある魔術書がハルの目に入った。
変身魔術について、書いてあるだろうか。
1人の魔術師として、興味が湧いた。興味があるなら、読まないという選択肢はない。
早速読んでみると、すぐ変身魔術についての記述を発見した。
三回ほど読み込んでから、実践を始める。
魔力を練り、変化させる。幻術はハリボテ。だが、変化は実体が変わるのだ。
そこを履き違えてはいけない。
数秒後、ハルは姿を人間へと変えた。耳と尻尾はそのままで。
中途半端な変身だと思った。だが、それよりも。
「やっと、おはなしできますね! にーさま!」
喜びの方が強かった。
だから兄に抱き付いた。
口が犬や狼と違うと、大変だなと思いながら。




