第九話 錬金術師、邂逅する
「マリアン! マリアンがいるのか! 」
アース公爵と呼ばれた初老の男性はギルドの中を歩きマリアンを見つけた。
すぐさま周りを気にせず近くによる。
「閣下! 何とか生き延びることが出来ました! 」
と、敬礼し言葉を述べる。
オレと冒険者達は状況が読めない。
何が起こっているんだ?
頭に疑問符を浮かべているとマリアンの前まで来た貴族は彼女を見て少し涙ぐんでいた。
「よかった。本当に良かった。君が殿を務めるといった時はどうなるかと」
「……実際死にかけました。しかし! そちらにいるアルケミナ殿の力により舞い戻ってきました! 」
「え? オレ? 」
「なんと! 」
バッ! と手でオレを紹介するとアース公爵がこちらを見てきた。
いや、何か誇張されている気がするんだが。
涙ぐむ貴族がこちらに近付いて来る。
同時に半歩下がってしまう。
何か察したのかケルブは横にずれた。
お、おい! オレを助けろ!
心の中でそう叫んでいると初老の男性がいきなりオレの手を取り、礼を言った。
「ありがとう。ありがとう。彼女が生きてくれていて本当に良かった」
「い、いやぁ……。出来ることをしただけで」
「瀕死の人間を生き返らせるなど……。君はもしかして高位の神官かな? 」
「い、いや。しがない兼業薬師だ。本業は錬金術師」
「そうか。しかし彼女が助かったのは事実。後程礼をさせてもらおう」
手をブンブン振りながらどんどんと話を進めていくアース公爵。
しかしマリアンの言葉を鵜吞みにして大丈夫なのか?
嘘をついているという可能性もあるのでは? と思うも口には出さない。
感極まっている貴族に水を差すようなことをすれば首が飛びかねない。物理的に。
その様子に周囲は圧倒されながらも「流石姉さんだぁぁ! 」と勝手に盛り上がりを見せるモヒカン達。
その声に冷静さが戻ったのか手を離して軽く咳払いをし、口を開いた。
「少し話があるのだが、部屋を一つ借りても良いかね? 」
そうミミに尋ねた。
★
「し、失礼します」
ミミに連れられオレ達は応接室へ。
そして促されるままにソファーに腰を下ろし、対面に初老の貴族が。
ミミは恐縮したのかすぐに部屋から出ていき緊張だけがこの場に残った。
そんな中目の前の男が口を開く。
「では改めて。私はこの町——アルミルの町を含む領土一帯を治めるシルヴァス王国の公爵。リガエ・アーク公爵。今回は助かったよ。薬師兼錬金術師殿」
キリっとした目つきで自己紹介した。
ならばオレも答えないといけない。
軽く震えながらも口を開く。
「オレ……いや私はアルケミナ魔法薬店の店主のアルケミナだ……です」
「はは。使い慣れない言葉使いは不自由だろう。今まで通りの言葉使いで大丈夫だ」
そ、そうか。
なら。
「コホン。それは助かる。オレの自己紹介はそんなところだ。薬師をするうえで錬金術が必要になったから兼業ってことになっている。ま、兼業と言ってもどっちが本業なのかわからない状態ではあるが。で、こっちなんだが」
「吾輩、魔導人形で知性ある魔道具のケルブ。この大きな子供のお守役と思ってくれて構わない」
白いシルクハットを頭から外してそのまま胸に当て紳士のように一礼するケルブ。
こ、こいつ。誰が大きな子供だ。
「ほほぅ。喋る魔導人形か」
「? 驚かないのですね」
「いや。驚いているとも。しかし珍しいがないわけではない。実際国内でも数体確認されているし、何より生産元では町を普通に歩いていると聞いている」
そうなのか、と思いケルブに目をやる。
「吾輩の同胞がこの国にもいるとは」
ケルブの声のピッチが少し上がった。
少し興味があるようだ。
だが、工房から出たという話を聞く限りだと同じように喋る魔導人形がいてもおかしくはない。
帽子を被り直すのも忘れてアーク公爵の方を見ていた。
しかしアーク公爵はその視線を気にせずに軽く後ろに控えるマリアンを見て、こちらを向いた。
「して、彼女が何故瀕死だったのか聞いているかい? 」
「そう言えば聞いてなかったな」
はぁ、と溜息をつき軽く後ろを睨む。
どこか気まずそうにし、頬を掻くマリアン。
「彼女は礼儀正しく、騎士を体現したかのような存在なのだがどこか抜けている所がある。それがたまに傷なのだが」
「い、言い忘れていました! 申し訳ありません!!! 」
鋭角に頭を下げるマリアン。
「聞かなかったオレ達も同罪だ。気にするな」
「しかし」
「そう言ってくれるとありがたい。彼女に謝らせるといつも堂々巡りになるからな」
はは、っと笑うアース公爵。
そんな様子が簡単に想像つく。
「で、何故死にかけていたのかというと、簡単に言うならば彼女が殿を務めると言い出したからだ」
「殿? 」
彼は大きく頷いた。
「いつもは使わない道を通ったところシルバー・ウルフの上位種に当たってな。しかも群れに。少し事情があって護衛を減らしていたのが仇になった。馬車ごとやられると思った時、突然彼女が殿を務めると言い出して」
「騎士たるもの護衛対象を守れずしてどうするのですか! 」
「確かにそうだが君は友人の娘。何かあったら顔向けが出来ん」
「それを理由に贔屓されるのは単なる侮辱です! アース公! 」
マリアンの勢いにアース公爵も気圧され少したじたじだ。
「すまん。言葉がすぎたようだ。謝ろう」
マリアンが謝罪を受けとり話は進む。
「それで一旦このアルミルの町に入り彼女を助けるべく冒険者ギルドへ依頼に来た、というわけだ。残念ながら今手元にある戦力だけじゃ足りないと考えてね。本来ならば昨日中に訪れようと考えていたのだが家臣達に止められてしまってね。まぁ......だが不要だったようでなによりだ」
そう言いどんどんと話は進んでいった。
そして彼女が何か気付いたのかアース公に耳打ちをした。
「しかし」や「だが」という言葉がアース公爵から聞こえるが何の話をしているんだ?
そう考えていると纏まったのかアース公爵がこっちを見た。
「アルケミナ殿。折り入って頼みがある」
「? 何でしょう」
そう返すとどこか難しい表情をするアース公爵。
言いにくい事なのだろうか?
それとも無理難題?
少し時間を空けてアーク公爵が続けた。
「実は息子を診て......可能ならば治して欲しいのだ」
「ご子息を? 」
大きく頷くアース公爵。
「今年で十三になったのだが、どうも病気にかかったらしく」
「??? 失礼ですが貴族、それも公爵となるとお抱えの医師や……それこそ回復魔法を使える神官との繋がりがあると思うのだが」
「無論すべてあたった。しかし、ダメだった。何かしらの病気だということらしいがそれ以上は」
と、首を横に振り悲しそうな顔をするアース公爵。
これは……オレがやるべきだ。
しかしお抱えの医師が投げ出すほどの病気?
オレに出来るのか?
疑念が頭を回る。
少し自問自答していると服を引っ張られる。
横を見るとケルブがこちらを見上げていた。
「考えるよりも診てみないとわからないだろ? それとも何かい? 怖気づいたかい? 」
こ、こいつ。一丁前に挑発してやがる。
だが。
「誰が。やってやろうじゃないか」
「おお、引き受けてくれるかね! 」
「まずは診てみないとわからない。だが最善は尽くそう」
少し晴れやかになった公爵の顔を見ながらオレ達は一回店に戻り準備をした。
そしてアース公爵領領都アースの館へと向かうのであった。
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