第四話 錬金術師、採取する 一
「ここが、ハイ・スタミナ・ポーションの材料が採れる山ですか」
「おう」
「……多少町から離れたけど、近い」
「だろうな」
「どんな植物でしょうか? 」
「見てのお楽しみだ」
オレ達は冒険者ギルドを出て町の近くにある山を見上げている。
案外近くにあることに道を照らす者達は驚いているが、オレからすれば別段驚くことではない。
店を構える時にこの町を選んだのにも関係するが、ハイ・スタミナ・ポーションやハイ・マナ・ポーション類の材料がこの山では採れる。
素材が近くで採れるというのは――錬金術師のみならず他の職業でもそうだが――開業する場所の決定理由になる。なにせ新鮮な物が採れて輸送コストがかからないからだ。
しかしこの山にも弱点はある。
それは普通の山では採れる――スタミナ・ポーションを作る材料の――スタミナ草が採れない事だ。だからスタミナ草は他の山に行かないといけない。端的に言うと違う町まで足を運ばないといけなくなる。
よって他の錬金術師はこの町——アルミルの町ではなく隣町のウルの町で開業するのが一般的だ。
おかげでこの町の需要はオレと数人の錬金術師が回している。
「アルケミナ。いよいよ悪人顔になってますよ」
「おっといけない」
どうやら顔に出ていたようだ。
他の皆も苦笑い。
笑っていると何やら音が聞こえる。
音の方を見ると街道だった。
貴族の馬車だろうか。豪華な馬車が音を立て、砂ぼこりを巻き上げながら爆走している。
それを避ける街道の人達が目に映る。
何か急用だろうか。町に関係のない事ならばいいのだが。
ふぅ、と息を吐き道を照らす者達に目を戻す。
「今の所モンスターや人の気配は? 」
「山の方からは……冒険者でしょうか。誰かいるように感じます」
どうやらガロが気配感知を使ったようだ。
少し黒い瞳を山に向けた。
しかし冒険者か。出くわしたくないな。
「じゃ、気配がする方を避けつつ警戒して進もう」
こうして人の気配を回避しつつオレ達は山へ入った。
★
「確かに人はいないがっ! シッ! 」
「脆弱な。風剣」
前衛のウルガスとケルブが迫りくるゴブリンを切り刻んでいく。
それを鑑賞しながら彼らの足元にモルト草がないか確認。
「モ、モンスターに襲われているのに何しているのですか?! 」
「なに、モルト草は小さいんだ。そして数が必要。よってこうして踏まれていないか確認しながら進み……あった、あった」
「アルケミナさん?! 」
「困った人だ。瞬動。風剣乱舞」
少し前にあったモルト草をいち早く見つけそれを確保。
しゃがみそれを採る。
モンスターがやって来たようだ。
イリアの悲鳴ともとれる声が聞こえてくる。
しかしここは相棒の出番。
武技でモンスターを細切れにしたようだ。
風剣乱舞を使ったということは数体迫っていたのか。
まぁ関係ない。
「少し緊張感を持ってください」
「緊張感ならある! モルト草が踏まれないか。そもそもモルト草の群生地が見つかっていないのがわる――」
「チッ! こざかしい。斬鉄桜花」
またモンスターがやって来たようだ。今回は少し硬めのモンスターか?
しばらくしてモンスター達が迫りくる音が無くなった。
オレもオレで必要量のモルト草を採ることができた。
手に着いた土を軽く黒いローブではたいて落とし立ち上がる。
鼻につくゴブリンの臭いがするからに、いや見なくてもわかる。
大量のゴブリンがやってきたのだろう。そしてそれを倒した、と。
完全に立ち、周りを見渡す。
息を荒げ、膝をつくウルガスに無表情ながらもどこか疲れが見えるミスナ。
人族二人は今回は出番がなかったようだ。あまり来た時と変わらない。少しばかし青く感じるくらいだ。
「よし。次行くか! 」
「「「オーガか!!! 」」」
全員にツッコまれた。
閑話休題。
せめて休憩が欲しいということで、一旦休憩。
ボトル式の水筒を豪快に口をつけるウルガスにちびちびと水分補給をするミスナ。
「? それはマナ・ポーションだな」
「……よくわかった」
「そりゃぁわかる。何せ本職だ」
「……確かに」
「しかしこの町で買ったものじゃないだろう? 」
「……何故わかる? 」
「臭いもそうだが、軽く見ただけでほんの若干不純物が見える。この町の錬金術師ならそのようなものは出さない」
「……不良品? 」
「いや、一般に出回っているそれが正解。ま、この町の錬金術師ならではのこだわりのような物だよ。ほんの僅かに効力が違うが、ただそれだけだ」
「……十分に勘案すべき事項」
そう言うとグイグイとこちらに顔を近づけるミスナ。
興味を引いてしまったようだ。
確かに魔法を使う人にとってはその「若干」が致命的になる場合もあるだろう。
しかし、それを気にするレベルまで行っているのならばそもそも魔法を使うペース配分を間違えたりしない。
金色の尻尾を軽く上に立たせるミスナに聞かれたことを説明しつつ、目線を逸らす。
その先には白いスーツの紳士ことケルブとイリアが話していた。
「す、すごかったですね。ケルブさん」
「それほどでもない。このくらい、そこの青年ならできていただろう」
「そ、それでもです」
ケルブを褒めたたえるイリア。
彼は顔を下に向けてシルクハットを少し深めに被った。
あれは照れている時の反応だ。
いや表情は変わらないけれども。
口で返せないから態度で示しているのだろう。
魔導人形の戦闘ともあってか彼女やケルブに振られたウルガスも彼に注目し始めた。
ウルガスは水筒を口から外して腰につける。
少しケルブの方へ近寄り口を開いた。
「……その杖は仕込み杖だったのか」
「如何にも。いつ相方がドジを踏むかわからないからな。こうして持ち歩いている」
おい、それはどういうことだ。
後で説教だ!
「魔法も使えるんですね」
「まぁな。イリア嬢。これでも魔導人形。魔力ある限り動くことが出来るし、魔法に関しては製作者が刻印魔法で使えるようにしているようだ。加えるのならばそこにいる大きなドジっ子が膨大な魔力量を誇っているせいでほぼ無尽蔵に動ける」
「おい、誰が大きなドジっ子だ! 」
いよいよオレに直接攻撃してきたので言い返す。
そして何か言いたげな道を照らす者。
な、なんだ、その瞳は。
「……コホン。休憩は終わったか? 」
「逃げた」
「……逃げた」
「逃げましたね」
「逃げた、ね」
「……ふっ。日頃の行いが悪いからだよ」
「う、煩い! ほら、休憩が終わったら次行くぞ! 」
更にオレ達は山を登る。
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