第三十八話 エルフ族の王子様 一
エルジュを新しい店員に向か入れることを決定したオレは一時的にガガ子爵にダンジョンの町を任せてアルミルの町へと戻った。
本来ならばエロ爺……いやアーク公爵に手紙を書いて返事を待った方が良いのだろうがそれは遅すぎる。そうマリアンから提案を受けたオレはアーク公爵に直接連絡するために爆走馬車でアルミルの町へ戻ったのだが……。
「……オレは幻覚でも見ているのか? 」
「残念なお知らせだ。吾輩にもあれが見える。故に幻覚ではない」
「厄介事の臭いしかしないんだが」
たぎる馬車から降り、オレの店に向かうとそこには騎士と豪華な馬車があった。
誰か嘘だと言ってくれ。
しかし騎士は見たことがある面子で、いつもポーションを受け取りにきている犬騎士ジスタと狼騎士トリスタだ。
「あの感じだと公爵本人が来ているのか? 」
「有り得るね」
「いえ、それはないでしょう」
ケルブが同意したがマリアンが否定した。
彼女の方を向いて首を傾げた。
「公爵閣下本人の護衛にしては数が少なすぎるので」
それを聞き、納得する。
確かに二人しかいない。
そしてマリアンは同僚の方へ向かって歩き出した。
すると向こうがこちらに気付いたらしい。
少し顔を強張らせつつ敬礼してきた。
「アルケミナ殿! 馬車へ乗ってください! 」
なにが起こっている?
★
豪華な馬車に乗るとそこには一人の男性がいた。
見たことがあるが思い出せない。
オレが思い出そうとしていると隣に座ったマリアンから声が聞こえてくる。
「ツヴァイ様! 」
あぁ……トリアノ君を治す時にいた公爵の次男か。
と、思い出すと正面の屈強な男性が腕を組んだまま言葉を放つ。
「突然申し訳ない。アルケミナ殿」
そう言いながら軽く頭を下げるツヴァイさん。
それに驚きながらも返事を。
「い、いやぁ……。それは良いんだが何があったんだ? 」
そう言うと表情が厳しくなった。
なにが……いや?
「まさかトリアノ様が急変を?! 」
少し身を乗り出し聞く。
ここ数日で容態が急変したという最悪の事態を考え聞いたが、そうではないらしい。
軽く首を横に振り、言葉を足す。
「トリアノの事ではないのだが……」
「「「だが? 」」」
「少々……いやかなり困ったことになった。すまないがこのまま王都へ向かってもらう」
それを聞き、唖然としたオレ達を乗せた馬車はアーク公爵領を横断し王都シルヴァスの王城へ向かった。
世紀末冒険者達も引き連れて。
★
「姉さん。王城ですね」
「王城だな。なんでオレ達は王城の中でくつろいでいるんだ? 」
そう言い、出された紅茶で喉を潤し世紀末集団に聞く。
正直……これほどまでにこの場に似合わない輩はいないだろう。
マリアンはエロ爺に話を聞きに行くといったっきりだし、説明もなくただここで待っているだけ。
急用じゃなかったのか?
そう思っていると扉からノックの音がした。
ドアの向こう側に威圧を飛ばす輩に「やめろ」と言い、抑えて、入室を許可する。
開いた扉から出てきたのは公爵だった。
「急に呼び出してすまない」
そいいながらオレの対面に座る公爵。
そしてその後ろに毅然と立つマリアンとポーション運びの二人。
その行動を見習ってか世紀末冒険者達がオレの後ろへ陣取った。
「急用ならしかたないと思うが……どうしたんだ? 」
公爵の方を向いて単刀直入に聞く。
歯に物を着せぬ言い方に少し動揺するが、コホンと咳払いをしてこちらを見た。
「実は隣国の王子が医師による治療を受けている」
「「「隣国の王子? 」」」
またどうしてそんな人が?
「しかしながら医師による治療は難航を極め……」
「おいおい、まさかとは思うが……」
顔を引き攣らせながらぽつりと言うとアーク公爵が頷いた。
「アルケミナ殿に治してほしい」
真剣な表情をした公爵がそう言った。
無茶を言うな……。
★
事情は国家機密もありあまり話してくれなかったが軽く説明を聞いた。
どうせ逃げれない。
だから割り切り、彼の王子とやらを治すことにした。
だが症状がわからなくてはどうしようもない。
と、言うよりもガガの町からの直行便だったから持っている薬やポーションも少ない。
無茶ぶりも良いところだが話を聞いた。
どうも聞いたところによると王子はエルフ族。
症状は風のような症状に衰弱。これだけだと何ともないがどんどんと衰弱が酷くなっているらしい。
毒物による犯行が疑われたが、鑑定の結果毒ではないらしい。
原因不明ではあるが投薬やポーションの力でなんとか凌いでいたとのこと。
だが根本的な治療にならずシルヴァス王国の医師も両手を上げている、と。
聞いてしまったら治療しないといけない。
公爵も、恐らくオレが治せるとは思っていないかもしれない。
何せこの国の医者が降参状態だ。
だが、それでも公爵はオレを頼ってくれた。
ならばやり遂げてみせようじゃないか!
治せる可能性があるのなら、オレは……やるぞ!
「この部屋に、件の王子がいる」
そう言われ、前にそびえる豪華な扉を見る。
両隣には使用人が控えており、公爵に会釈していた。
「医師達は今ここにいない状態だ」
「あぁ……だからアーク公がオレに症状を伝えたのか」
「そちらでも診るとは思うが、情報としてね。彼らは今自分達の不甲斐なさを呪っている所だよ」
「王国一の鼻が折れたからな。案外メンタルが弱い」
「はは。本当の事でも言ってやるな。だが無理だと思ったらすぐに伝えてくれ。これは恥ではない」
「手に負えなかったらそう言うよ。あぁ……。あと、こいつらも連れて行っても? 」
と言い後ろのエルジュや世紀末冒険者達をさす。
だが明らかに嫌そうな顔をするが、考えてくれている。
「……構わないが人数は制限させてもらおうか。そうだな。名目は個人的な護衛としておこう」
「助かる」
頷き公爵と共にオレとエルジュ、そしてナルクにソルムとスピルニが中に入った。
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