第三十六話 ダンジョンの町 五 後始末
「これでよし」
「結局朝までかかりましたね」
「今すぐにでも首を撥ねたいところだが……」
「それは止めろって言ってるだろ? 」
「……わかっています」
隠れて一人二人首を撥ねそうな顔をしながらマリアンが答えた。
野郎共の力により完全に鎮圧された五百以上の軍勢を縛り上げていたらもう陽が昇っていた。
時間がかかるだろうと思っていたが、ここまでとは。
「一先ず町の様子を見に行きましょう」
ギランと殺意の籠った瞳でこちらを見てくるマリアンに少しげんなりしながらも答える。
「その前にガガの町に連絡を入れた方が良いんじゃないか? 」
「しかし……」
「すぐに帰る予定だったからあの爆走馬車もいる。マリアンがガガの町に行ってくれ」
そう言うと明らかに不満そうな顔をするマリアン。
しかしここは引くわけにはいかない。
いろんな意味で。
「公爵家の騎士としてガガの町の町長に連絡をすれば、今までのように無視をするわけにはいかないだろ? 」
「……」
「それに……あまり使いたい手じゃないが、公爵家に保護されているオレが襲われたんだ。もうダンジョンの町の状況を見て見ぬふりは出来ないだろうよ」
そう言うとマリアンは少し下を向きそしてオレの方を向いた。
「分かりました。確かに私が適任ですね。行きましょう」
「ああ。よろしく頼む」
そう言いマリアンと別れた。
★
「本当にありがとうございました」
大勢の子供達が後ろでびくびくしている中、一人の老婆が頭を下げた。
ボロボロな服を着た彼女はこの町の助祭らしい。
「いや。オレ達は降りかかった火の粉を払っただけだ。気にしなくていい」
「姉さんの言う通りだぜ。婆さん」
「おうよ。気にするな」
オレの言葉に強面達が続く。
声を発するたびに子供達が身を寄せ合い震えていた。
まぁわからなくもない。
この町の賊よりも賊っぽいしな。
「この町を動かしてたやつがいなくなったっぽいな」
「確かに。一度町を周りやしたがもぬけの殻。早い逃げ足で」
「ふむ。あれから追撃が無い事も考えにいれると、隠れた戦力も無さそうだ。あまりにも町に頓着が無さすぎることをかんがえると……。頭は何回も入れ替わっているのかもしれないね」
「同意でさぁ」
「さてはて、少し聞きたい。君は奴隷商があった場所を知っているかい? 」
ケルブが見上げて助祭にそう尋ねた。
すると沈痛な顔をして頷いた。
「ならばそこまで案内してくれないかい? 」
「しかしいないと思いますが」
「吾輩は、奴隷にされていた者達はここに残っている、と思うがね」
そう言うと少し困惑した表情を浮かべる。
「いやなに、簡単なことだ。ヴィルガの存在を知ってすぐに逃げるだけの危機対処能力がある犯罪者。すぐに移動したということは最低限の荷物しか運べていないはずだ。そこに、いくら売り物とはいえ移動の足枷になる違法奴隷を連れて行くと思うかね? 」
「そう言われれば……」
「恐らくここに置かれて行っているだろうね。諸君、奴隷にされている人達は十分に食事を取れていないと考えられる。今すぐにでも食事の準備を」
「「「へい! ケルブの旦那!!! 」」」
ケルブが見上げて指示を出すと大声を上げ、子供達が竦み上がる。
それに気を止めず、世紀末冒険者達は作業に入った。
だが三人ほど……ソルムとスピルニ、そしてヴィルガが残っていた。
「あっしらは護衛でさぁ」
「武装を解除させたとはいえまだ危険があるかもしれませんしね」
「……ついて行く」
「わたしも、行きます」
エルジュもそう言い、オレの方を見てきた。
確かに、そうだ。
なら言葉に甘えようか。
エルジュに頷き、彼女は助祭の方を見た。
「では案内をお願いします」
その言葉と同時にオレ達は中心部へと足を動かした。
★
「ふん! 」
ヴィルガが鉄の扉を切り裂いて中へ入る。
ここはダンジョンの町の奴隷商、と思われる建物。
周りの建物よりも少し豪華だが、やはり薄汚れている。
「……危険は、なさそうですぜ」
ソルムがそう言いオレ達を中へと誘導してくれた。
どうやら探知系の武技を使ったようだ。
中を歩くと様々なものが落ちていた。
ヴィルガが来たのはかなりの混乱を起こしたようで。
ペンに鍵、更には金までも落ちている。
ここまで恐れられるってヴィルガ。お前何したんだ?
軽く見上げるも、顔を逸らされた。
これは何かやらかしてるな……。
そう思っていると暗い一本の廊下が見えてきた。
ソルムが周りを警戒しつつ、進む。
そして一つの大きな部屋へとでた。
「これは……」
「虫唾が走るね」
驚き口を開くと横からケルブの声が聞こえる。
右に左に見ると鉄格子が並んでいた。
そこにいるのはもちろん人間の女子供で。
彼女達を軽く観察すると所々に痣が見えどのような扱いを受けていたのかわかる。
彼女達はオレ達に気が付いたのか虚ろな目をこちらに向けた。
オレを見、そしてヴィルガ達を見た。
瞬間子供が泣き叫んだ。
「……ヴィルガ。お前怖すぎるだろ」
「……なにも、していないのですが」
「申し訳ねぇですが、兄貴は外にいた方が話、しやすくないですかい? 」
「それを君が言うかね? ソルム」
「ソルム。ケルブの旦那の言葉だ。外に出な」
「スピルニ。お前も人の事言えねぇんじゃねぇか? 」
「なによ! 」
「やるか? てめぇ! 」
喧嘩を始めた二人に呆れながらも助祭の方を向く。
「オレ達は外で待っているので彼女達に説明をお願いしても良いですか? 」
「ええ、大丈夫です」
助祭の返事を聞いてすぐ、男共を引き連れてオレ達は店の外へ出た。
外で待っていると中から助祭やこの店にいた人達が出てきた。
助祭や彼女達の話を聞くと奴隷商はここだけじゃないらしい。
なので全ての奴隷商や奴隷となっていた者を解放しに奔走した。
因みにどこに行っても男共は賊の新入りと間違われ、珍しく彼らが落ち込んでいたのだが彼らの名誉の為にも他の人には内緒にしておこう。
★
「美味しい……」
「まともな食事」
「おいしい」
「おう、食え食え! おかわりはいるか? 」
モヒカンの料理人がそう言うと集められた元奴隷達がお椀を出す。
尚食材や食器はこの町に残された物を使っている。
もはやどちらが盗賊かわからない。
世紀末冒険者達に慣れた彼女達を見て「一先ずは大丈夫そうだ」と思い、腰に手をやり軽く息を吐く。
ぼーっと眺めていると突然、声がした。
「アルケミナさん」
「うおっ! ってエルジュか。どうした? 」
「これから教会の周りを散策しようかと思うのですが、ついてきてくれませんか? 」
エルジュの提案に乗り、オレとエルジュはその場から離れた。
少しすると後ろから足音が聞こえてくる。
「どこへ行くのかい? 」
「教会の周り」
教会へ向かっていると、ケルブの声が聞こえてきた。
「なにをしに? 」
「散策だ」
「君はもう少し用心し給え。制圧しているとはいえここは賊の町。せめて護衛を付けたらどうだね? 」
「あぁ……。確かにな。だが……」
「だが? 」
「いや。あいつらが、新しい関係を築いている時に無粋かな、と」
と、軽く後ろを軽く見て笑顔で馴染む元奴隷達と世紀末冒険者達の姿を見て言う。
すると「ふむ」と隣から聞こえてきた。
「こうして君の勢力圏が広まるという訳か」
「……どう考えたらそうなる? 」
「いや何。パターンだよ。パターン。これまでとの事と今回の事と」
そう言うケルブを軽く小突きながらオレ達は教会へ足を運んだ。
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