第三十二話 ダンジョンの町 一
「着きましたぜ、姉御」
「ブルルルルル!!! 」
疲れた表情でオレ達が外に出ると未だに元気溌剌な世紀末御者と走り足りないと言わんばかりに目をギラつかせる馬が見えた。
こちらに親指を上に立てて「どうですかい! 」と言っている。
「まさか一日で着くとは思わなかったが……。流石だ。ありがとうよ」
オレが言うと他二名と一匹もお礼を言う。
するとすぐに顔がニヤけて照れ始めた。
「日が落ち始めたな」
「むしろあの聞いていた距離をこんな時間で移動できるとは思いませんでした」
「だがあれだけのスピードならば可能だろう」
「……軍馬よりも速かったです」
そう言っていると後ろからがやがやとした声が聞こえてくる。
振り向くと三十人の強面達が。
どうやら彼らもついたようだ。
「お疲れ! 」
「「「お疲れさまです!!! 」」」
「この光景だけをみると今から町を襲うのかと勘違いしそうだ」
「ひでぇ言われようですが、否定できませんね」
ケルブが軽く呟くとモヒカン達のリーダー『ソルム』が苦笑いしながらそう言った。
ならば、口調はともかくその格好をやめればいいんじゃないか? と思ったが、彼らの趣味に口を出すつもりはないので黙っておく。
ぞろぞろと全員出てきたところでオレ達は町の中へ入った。
★
「夜になりかけているとはいえ、ちと暗すぎやしませんかね。こう……雰囲気が」
「確かにそうだな。ダンジョンが近いとはいえ嫌な感じを受けるな」
「これはガガの町の野郎共が言っていたようにすぐに撤退するのがいいかもですぜぇ? 」
肩パット達のリーダー『スピルニ』がそう言い、オレが頷く。
すると少し前を歩いているケルブが首だけ動かし軽く見上げてきた。
「それならばエルジュ嬢。日程は今日泊まって明日視察。そしてそのままガガの町に戻る、ということになるが君はどのように考えている? 」
「わたしとしてもこの町の教会の挨拶と視察を終え、過不足がないか調べた後、出立出来ればと思います」
「ならば明日出発で良いかね? 」
「ええ。構いません」
エルジュがケルブの提案を受けて同意した。
そして再度歩き出す。
少し小さな声で隣のマリアンに声をかけた。
「ダンジョンが近いからか? あまり衛生が良いような臭いはしないな」
「そうですね。あちらこちらに見られる建物もボロボロ。町、というよりかは廃村一歩手前の村のような雰囲気を受けます。まぁ非公式、非合法な手段で作ったのならば頷けるというものですが」
そう言われ、周りを見る。
建物は木製。しかしボロボロ。
明かりがともった窓からは目線を感じる。
嫌な感じだ。
「姉さん。決してオレ達からはぐれないでくださいね」
「分かっている」
「吾輩もついていることを忘れてもらっては困るが、確かにスピルニの言う通りだ。君達の行軍をすり抜け獲物を横取りしようとしているような目だね。あれは」
「……大姉御に何かするようだったら……ぶち殺す……」
「無暗に殺すんじゃないぞ。せめて牢屋で反省してもらわないと」
「……すみません」
スピルニが注意し、ケルブが付け加え、ヴィルガが周りに殺気を放つ。
すると蜘蛛の巣を散らすかのように目線も散っていった。
やれやれだ。
この集団に加えて、ヴィルガの三メルある巨体とそれ以上の大剣を見てオレ達を襲おうとでも考えているのか?
無謀もいいところだ。
「……しかし傍から見れば我々は盗賊に攫われた女に見えるでしょうね」
「それは言わない約束です、マリアンさん」
そう言う二人の呟きが聞こえてくるが、否定できない。
ねばりつくような嫌な雰囲気の中歩き宿を探して、中でもマシな宿を見つけるのであった。
★
「おいおいなんだ、あの上玉集団は」
「うひょぉ、そそるね」
アルケミナ達が宿を取る中、その一階で他の客達がその欲望を隠さず、熱い目線を彼女達に送っていた。
だがその直後、彼らは落胆する。
「なんだ……。お手付きか」
「いいじゃねぇか。ありゃ恐らく新入りだろ? なら献上してもらおうぜ」
「だな。見ない顔だ。色々と弄って誤魔化してるようだが、垢ぬけてねぇ」
「先輩の顔を立てるのが後輩の役目って——ひぃ! 」
下種な会話をしていると巨大な男から殺気が漏れた。
体が震え、止まらない。
振動は伝わり椅子まで揺れている。
「おいおいなんだあの殺気?! 」
そう言っている間も彼の血の気は引いて行く。
だがある時赤髪の女性が大男に手をやると殺気が収まっていった。
受付を終えたのかそのまま十人ほどが上へと上がっていくのを彼らは見送る。
いなくなったのを確認して顔を合わせる客達。
他でも下種な声が聞こえるが、それを受付の男が咎める様子はない。
冷めきった体を温めるため受付にエールを追加で頼み、口にする。
酔いが回るまで飲みに飲んで、やっと話せるようになった。
「やべぇな。あの新人」
「キメてる野郎は分からねぇが、あの大男はやべぇ」
再度エールを空にして、頼む。
ジョッキに新たな金色の液体が注がれて再度飲む。
「だがこのまま逃すのももったいねぇな」
「ああ。見たかあの胸! 三人ともでけぇ」
「見たことねぇ大きさだ。さぞ、いいもん食ってんだろう」
そう言い机の上の摘みを食べる。
「それにあの綺麗な青い髪。服は騎士服見てぇだが短いスカートから見える足が良い……」
「げ。お前そっちなのかよ」
「ばかっ! 隠れている部分といない部分の微妙な加減の良さがわからねぇのか? 」
「俺にはわからねぇな」
「全くお前達は分かってねぇぜ」
そう言い首を振りながら寄ってくるのはジョッキを持った屈強な男だった。
「やっぱりあのピンク色の髪をした黒服の神官だろう」
「確かに美人だったが」
「背が小さすぎやしないか? 」
「馬鹿が。それがいいんだろ、ってお前ら引くな! 」
同意を求めた所でそこから全員引いた。
どうやら彼の趣味は他にはわからなかったらしい。
少し芝居かかったことをしていると彼らの周りに人が集まる。
そしてそのうちの一人が口を開いた。
「やっぱり俺はあの活発そうな爆乳の女だ」
「赤髪のか? 」
「ああ。ああいう気丈そうなやつを屈服させるのがたまんねぇ」
少し悦に浸り顔を赤くしながらそう言う男に同意する者、引く者など様々な者が現れて飲み交わす。
まるでもうすでに彼女達が自分達の手に落ちているかのように。
「で……やるか? 」
「無理だろ」
「この人数で襲えば行けるだろ? 」
「確かに。それにこの町に来た以上、この町のルールに沿ってもらわないとな」
「ああ。最初に新入りにそれを教えるのも俺達の役目というわけだ」
下種な顔を浮かべて襲撃計画を練っていく彼ら。
だが彼らは知らない。
上に上がった者達の中に高位の斥候がおり、彼らの襲撃計画が筒抜けだったことを。
そして彼らは地獄の窯を開けたのであった。
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