第二十八話 ガガの町への旅路
翌日。
オレは念のため様々なポーションをアイテムバックにいれ、長く黒いズボンに魔杖を差し、白く長いシャツに袖を通し、ローブに身を纏い馬車の停留所へ来ていた。
「結局マリアンは騎士服か」
「ううう……。メイド服にしようとするなんて酷いです」
「全くアルケミナ、君の行動には呆れる」
「似合うと思ったんだがな」
先日アーク公爵から渡された彼女の衣服の中にメイド服があったのを思い出したオレは、今日ここに来る前にマリアンにメイド服を着せてみようと試みた。
しかしそれを見事にかわされ、何の変哲もないミニスカ騎士服に落ち着いた。
「だがアルケミナ。なぜ突然メイド服を着させようとしたんだい? 」
「単なる好奇心だ。他意はない」
「ならば君が着ればいいだろう? 」
「……オレが似合うとでも? 」
「愚問だったな」
「そこは否定しろ」
何台も置いてある馬車の前で話していると透き通った「おはようございます」という声と共に野太い「おはようございやす」という聞き覚えのある声がした。
声の方を振り向き手を振り挨拶。
すると一部が離れて慣れた様子で世紀末冒険者達が馬車を取っている。
御者も慣れているようだ。
彼らに動じず対処をしている。
しかしこの集団に慣れている町というのはどうなんだ?
そう思っているとエルジュが小走りでリズミカルでやってきた。
「今日はありがとうございます」
と、ペコリとお礼を言う。
それに手を横に振りながら謝罪した。
「なに、大丈夫だ。むしろこの町の冒険者が迷惑を掛けてすまない。悪い奴らじゃないんだが如何せん格好がな」
「いえいえ、彼らが悪い人ではないというのは昨日分かりましたので」
「そういってもらえるとありがたい」
ふふっと笑いながらも今日の予定を聞くことに。
緑の瞳を見ながら口を開く。
「今日はガガの町まで行く、でよかったか? 」
「はい。大丈夫です」
「ダンジョンの町はいつ行く予定でしょうか? 」
「それはガガの町に着いた翌日には出ようかと」
マリアンの問いに応じて、持っている錫杖を持ち変えながらそう言うエルジュ。
「今回もそうだが、えらく早い移動だね。いつもこうなのかい? 」
「ええ。そうですね。大体一日町に滞在して、次の町に行くというような日程を取っています」
「それ休めるのか? 」
「習慣になっていますので」
笑顔を作りながらそう言うエルジュ。
習慣って怖いな。
そう思いつつも話していると彼女の後ろから声が聞こえてくる。
「準備が出来たそうだ」
「では、よろしくお願いします」
こうしてオレ達はガガの町へ旅立った。
★
世紀末冒険者達三十人に囲まれながらオレとマリアン、ケルブにエルジュは馬車に乗りガガの町へ向かっている。
耐性が付いているのかこの町周辺の人達はこの程度では驚かない。
むしろ彼らが注意を払いながら大移動していると、オレが中にいることがわかるらしい。
休憩中に時折商人らしき人が食べ物を売りに来る。
「サービス分が多いですね」
「ある意味あの商人達も野郎共の恩恵を受けているからな」
「恩恵、ですか? 」
敷物の上に座りオレに聞くエルジュに軽く頷き肯定する。
「この周辺はあまり賊が出ないんだ」
「それはいいことですね。賊が出ない、ということはそれだけこの辺りの治安が良いということになるので」
「確かに、それもあるが別の意味もあるんだ。エルジュ嬢」
「どういうことですか、ケルブさん」
ケルブが尻尾の部分を軽く手入れをする仕草をしながらエルジュを見上げた。
「普通、盗賊よりも盗賊が似合っているBランク冒険者がアルミルの町を拠点に活動していると他の賊——特に山賊や盗賊が知ったらアルミルの町周辺で盗みを働くと思うかい? 」
「あ……そう言うことですか」
どうやらエルジュが納得したようだ。
つまり賊としての縄張りを考えるのならアルミルの町周辺はあの世紀末冒険者達の縄張りになる。
連携し、個々がBランクの強者である彼ら。
生半可な犯罪組織では太刀打ちが出来ないだろう。
よってアルミルの町を通る街道は賊が殆どいない。
奇しくも犯罪者よりも犯罪者のような格好をしている彼らによってアルミルの町周辺の治安が守られており、商人達はその分護衛費を減らしたり一回に持ち運ぶ運搬量を増やしたりすることができるわけだ。
その恩恵を知っている商人達はその元締め (と勝手に思われている)オレや彼らに少しサービスしてくれると言う訳である。
「じゃ、ちょっと行ってくるわ」
「? どうしたのですか? 」
「お裾分け」
そう言い席を立つとケルブも立つ。
軽くのびをした後、手に貰ったサービス分の食料を持って周囲を警戒している三十人の強面の方へ向かった。
★
「お疲れさん」
長剣を腰にして周囲を警戒している肩パットに声を掛ける。
するとすぐにこっちを振り向き「お疲れさまです! 」と背筋を伸ばした。
しかし同時に嫉妬の目線が彼に突き刺さる。
いや、このくらいで嫉妬するなよ。
苦笑いを浮かべながらも「お前達も、お疲れさん」という。
「「「お疲れさまです!!! 」」」
元気のいい返事が返ってきた。
「君の一言でBランク冒険者が活気付き、動くというのは見方を変えれば怖いものがある」
「言いたいことは分かるがオレは犯罪者じゃねぇよ」
そう言いつつも前に出て数人呼んだ。
「なんですかい? 姉さん」
「ほれ。これはお前達の分だ」
それを聞き集団にどよめきが走る。
「い、いいんですかい? これは姉さんが貰ったもんじゃ」
「なに言ってるんだ。お前達がアルミルの町にいるからオレはあの商人達から貰えたんだ。ならこれはお前達への正当な報酬だ」
それを聞きどよめきが更に大きくなる。
所々から鼻をすする音も聞こえる。
このくらいで大袈裟な、と思いながらも「ほら。全員で分けて食べな」と押し付ける形でそれを渡してオレはエルジュ達の方へ戻る。
そこには苦笑いを浮かべる女性陣がいた。
「泣いて喜んでいますね」
「大袈裟なんだよ、あいつら」
頭を掻きながら敷物に座る。
水筒を手に取り、喉を潤す。
「そもそもこの近辺に賊が少ないのは奴らの功績だ。オレのじゃない。なら、本来あれを貰うのはオレじゃなく奴らだ」
「慣れているからと言っても流石に直接声を掛けるのは躊躇われますしね」
「だからこうして分け与えているわけだ。さ、もうじき移動時間だ。動くか」
少し口からこぼれている水を腕で拭きとり再度立つ。
しばらくしてオレ達はガガの町に着いたのであった。
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