第二十三話 いざ、教会へ!
「終わったぞ」
朝。店の前の掃除を終えたオレはそう言いながら中に入った。
「お疲れ様です」
「アルケミナにその言葉は不要だよ。マリアン嬢。何せ朝の掃除は元から彼女の仕事だったからね。しかし手に持つそれは何だい? 」
受付嬢姿のマリアンが青く長いポニテを少し揺らしながら振り向き、ケルブが軽口を叩く。
全くケルブはオレに対して厳しすぎやしないか?
そう思いながらもケルブの目線の先を軽く揺らして机まで行く。
「パン屋のおばちゃんがくれたんだ」
そう言いながら白い布で覆われたバスケットを机の上に置いて、それを取る。
中からいい匂いが漂いマリアンを惹き付けていた。
「香ばしい匂いですね」
そう言いながら受付台から寄って来る。
中を覗き込み、お腹を鳴した。
「……うう」
「今日は早かったからな。朝食」
そう言うと窓の縁に鎮座するケルブが首を傾げて口を開く。
「はて。なにかあったのかね? 」
「聞こえなかったのか? 」
「……それを無かったことにしようとしている吾輩の努力を無駄にしないでくれ、アルケミナ」
「……ま、まぁいいじゃないか。食べるか? マリアン」
「い、いえ。流石に仕事が」
「どうせこやしないって。掃除はしたが、今日は休みにするつもりだったから大丈夫だ」
「? 」
頭に疑問符を浮かべるマリアンを広間に誘導し、パンを食べることにした。
★
「そういえば今日はいつもと違う服装なのですね」
「ん? あぁ。そうだ」
「今日お店を休みにすることと何か関係が? 」
「いや。ない! 」
胸を張り、そう言う。
くすっとマリアンが笑いながらも「では何故? 」と聞いて来た。
ま、確かに唐突ではある。
いつもはホットパンツにインナー、そして赤いジャケットを羽織るか、ジャケットの代わりに白衣を着ているかだからな。
今日はめくりあげた白い長袖のシャツに黒く長いズボン。いつもとは違う服装に戸惑っても仕方ないのはたしかで。
少し説明しようかと思っていると窓際から声が聞こえてきた。
「……アルケミナの唐突な行動に意味を求めてはいけない。何せ彼女は少々気分屋な所があるからね」
「気分屋筆頭のケルブに言われるとは……屈辱だ」
手で顔を覆いながら言うと抗議の声が聞こえてきた。
「吾輩のどこが気分屋だ? 非常に理知的で論理的だと思うのだが」
「自分でそれを言うか? 」
「事実だ」
「ふっ、なにが。珍しいものを見つけるとすぐにとびかかる癖に」
「それはそこに探求すべき事象があるだけで」
「理知的で論理的というのならばそれを自分で抑えるべきじゃないのか? んん? 」
「……アルケミナに言われるとは、屈辱だ」
広間の窓から本心からの「屈辱だ」が聞こえてきて、最後のパンを口に加えて食事を終えた。
「それで今日は何かする予定があるのですか? 」
バスケットを片付け、店の前に「閉店」と掲げた後、広間に集まるとマリアンが言った。
木の椅子に座る彼女を見つつも椅子に向かう。
騎士故の性か、彼女はある程度スケジュールを把握していないと気が済まないらしい。
唐突に今日言ったせいか少し不機嫌顔だ。
「この前言っていたカムイ司祭の教会に行こうかと思うんだ」
「カムイ司祭の所にですか?! 」
「ん? あぁ……もうそんな時期か」
「時期? 」
不機嫌顔から一転、顔色を変え驚くマリアンに、オレの言葉に反応するケルブ。
ケルブの方をみると少し顔を上げてこちらをみているが、ケルブの放った言葉に少し違和感を感じたのだろう。マリアンが少し不思議そうにこちらを見た。
それに対して苦笑いを浮かべつつ、説明を始める。
「カムイ司祭の教会は色々やってるんだ」
「炊き出しとか、以外にもでしょうか? 」
目を輝かせてこちらを見るマリアンに軽く頷き話を続けた。
「子供達に勉強を教えたり、薬草を栽培していたりしている」
「薬草の栽培は子供達に「働くこと」を教えるためにやっているそうだ」
「素晴らしいですね」
純粋にそう言う彼女を見つつ、苦笑い。
つまり単なる町の司祭がそれをしないといけないほどに子を捨てる親がいるというわけで。
これはこれでかなりの問題だとおもうのはオレだけだろうか?
下手に政治に首をツッコむ気はないが、改善してほしい所でもあったりする。
「無論すべての子供達ではない」
「と、いうと? ケルブ殿」
「希望する子供達には商会へ向かわせ商売を覚えさせたりしているそうだ」
「ま、あのグレカスの爺の所だがな」
「あの自称賢人会も時には役に立つということだ」
「繋がりがあるというのは、こういう時に役に立つ」
役に立つ、という言葉を耳にして少し難しい表情を浮かべるマリアンだが特に何も言わない。
やっていることは子供達が自立するために必要なことだからな。
「で、今日はその薬草を買い取りに行くというわけだ」
「なるほど。因みにどのような薬草なのでしょうか? 」
「恵草だ」
そう言うと頭に疑問符を浮かべながらコテリと小首を傾げた。
あれ? 一般的に知られていないものだったか?
少しケルブの方をみるとオレの方を残念な人を見るような目で見ていた。
ム、ムカつくが、それ以上に器用すぎるだろ。
ま、まぁいい。
「コホン。恵草はキュア・ポーションの素材になる薬草だ」
「キュア・ポーション?! 」
バン! と机を叩いて、大声で聞き返していきなりこちらに顔ごと近づけてきた。
「そ、その材料が教会で採れるのですか?! 」
「正確には栽培だが」
「それでも大事ですよ?! 」
「栽培量も多くないし、時期が限られている。そこまで大事ではないと思うんだが」
「いえいえいえ、材料もそうですが作れることも——」
そう言いながら一人混乱し始めたマリアン。
確かに珍しいものではある。しかしリカバリー・ポーションのように幻の一品のような物ではない。
キュア・ポーションは回復魔法である回復と似たような効果を持つポーションの事だ。
傷を塞ぎ、体に活力を与えるポーション。そう言えば聞こえがいいが実質栽培方法が確立しているものでもなく、まずもって市場に出ない。
そして作れる者も少ないため作れるオレの所に卸してもらっているということだ。
「ま、マリアン。とにかく今日はそういうことだ。教会に行って受け取りに行こう」
混乱しているマリアンを現実に引き戻し、準備をしてオレ達は教会へ向かった。
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