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第二十二話 ジルコフ・プライとニルヴァ・デルル

 ギルドマスターの執務(しつむ)室。

 そこには拘束(こうそく)され地べたに()いつくばる小太りな男ことジルコフがおり、顔を赤らめニルヴァを見上げている。

 しかしニルヴァはそれを冷たい顔で見下していた。


「……貴方は変わりませんね、ジルコフ・プライ子爵家次男様」

「こんなことをしてタダで済むと思うなよ! 」

「済みますよ。もうすでに貴方のご実家は、貴方を切り離しにかかっているようですから」


 それを聞き、先ほどまでの威勢(いせい)が無くなる。

 同時に体を()じり気持ち悪いくらい()でた声でニルヴァに()びる。


「き、君が欲しいのは権力か? ならこのギルドマスターの()を上げよう。王都本部にも俺の方から口を()くからね。だから、これをやめてくれないかい? 」

「私が欲しいのは権力ではありません」


 それを聞き焦ったように少し口早に言う。


「な、なら金か? ならば幾らでもやろう。そ、そうだな。手持ちに白金貨が数十枚ある。それを上げるから——」

買収(ばいしゅう)容疑を付け加えておいてください」

「了解しました」


 更に焦り、体を捻じる。

 拘束が強くなり痛みが走ったのか(うめ)き始めた。

 しかし媚びることをやめないジルコフ。


「な、何が欲しいんだ? 欲しいものを上げる。だから俺を解放してくれ」

「……私が欲しいのはただ一つ」


 それを聞き、少し希望が入った表情をし——


「ジルコフ・プライ。貴様の首だ! 」


 絶望に堕ちた。

 そしてせきを切ったかのようにジルコフの口から言葉が(あふ)れる。


「何故だ! 何故私の首にこだわる! 私がしたのはここまで(とが)められることなのか?! 良いじゃないか! みんなやってる。なんで俺だけこんな目にあうんだ! 」


 (わめ)()らすジルコフを見下ろし軽く嘆息してニルヴァが言う。


「皆やってる、ですか。まだまだ調査は必要なようで。しかし「何故俺が咎められるのか」については答えられますよ? 」

「なら答えてみろよ! 」

「私の母さんをお前が殺したからだ!!! 」

「!!! 」


 そう言われ、ジルコフの顔が固まる。


「たった一人私を育ててくれた母さんを、金が払えないゴミと、貴様が捨てたからだ! 私はそこから()い上がった! 養父(ようふ)の力を()り専門学校にも行った! 」


 ジルコフの方へ一歩進むと「ひぃ」と(なさ)けない声がする。


「なんだ! 勉強すればわかるじゃないか! 単なる風邪じゃないか! 何で医師ギルドは、貴様は単なる風邪にこんな高額な治療費を請求(せいきゅう)してんだよ!!! 」


 バン! と隣にある机の上の書類をジルコフの方へ叩きつけ見せる。


「何で風邪を治すのに金貨が必要なんだ! 」

「し、知らない……私はしらない」

「ジルコフ・プライ!!! デルル準男爵の名前を忘れたとは言わせんぞ!!! 」

「ひぃ! 」


 (すく)み上がり(ちぢ)こまるジルコフにはぁはぁと息を切らすニルヴァ。


内偵(ないてい)官殿」

「……すまない。取り乱した。後は頼んでも? 」

「はい。連れていけ! 」


 ニルヴァが軽く白衣を(ただ)すと、隊長らしき人物が指示を出して部下がジルコフを連れて行った。


 ★


「ニルヴァ内偵官、今回の長期にわたる任務ご苦労であった」

「今回はウルの町の住民が声を上げたからこそ。私は何も」

謙遜(けんそん)は良い。実際に、捕まえられたのだから」


 アーク公爵邸の一角、豪華(ごうか)な椅子に座るリガエ・アーク公爵に片(ひざ)をつき(こうべ)()れるニルヴァがいた。

 ニルヴァは軽く返した後、「やはり解雇だろうか」と思いつつも、言葉を待つ。


「ふむ。ニルヴァ内偵官。君の事はある程度知っているつもりだ。無論書類上だが」

「ありがたき幸せ」

「君は元をただせば準男爵じゃないか。ならば、まず今回の(こう)(おう)じて男爵の地位を与えようと思うのだが、どうだね? 」


 そう言われ、顔を上げそうになる。

 すぐにでも(おう)じたいが、少し考える。


 確かに準男爵の出身だ。

 しかし準男爵と男爵では意味合いが違う。

 (まが)い物の爵位(しゃくい)ともいわれる準男爵とはことなり男爵は本当の意味で貴族になる。

 ということはそれ相応(そうおう)のマナーや社交術が必要になる訳で。


 ほとんどの時間を医学の勉学や内偵捜査(ちょうさ)(つい)やしたため社交や交渉の場で恥をかくのは目に見えている。

 ありがたいが、断ろうと顔を上げようとした瞬間「しかし」と公爵が口を開いた。


「君も不安だろう。この先貴族としてやっていけるのか、と」


 まさに考えていたことである。

 その言葉を肯定(こうてい)も否定も出来ず、戸惑(とまど)う。


「で、だ。今、息子のトリアノの専属医師がいなくてな。少し困っている。誰かを任命しようと考えていたのだが、トリアノがあまり貴族(ぜん)とした医師は苦手なようで。ほら以前に、貴族(ぜん)とした医師に見放されただろ? そこで、だ」


 ニヤリと笑う公爵に話が見えたニルヴァは苦笑いしながら話を聞く。


「ニルヴァ・デルル男爵にその専属医師を頼みたいのだが……どうかね? 」

「そのお話。(うけたまわ)りました」


 こうして公爵家に新たな仲間が加わった。

お読みいただきありがとうございます。


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